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初夜に捨てられた辺境の箱入り娘 〜独りで爆食する私を王子様が溺愛してきましたわ〜  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中


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9 夜会に倒れる

 爽やかな朝の庭で、ミスティアとアスラン王子は並んで散歩をした。


 楽しげなミスティアの隣で、王子は腑に落ちない顔をしている。


「昨晩、竜になってからの記憶がないんだが……」

「私がもふ竜ちゃんをベッドに運んで差し上げましたわ。ぐっすり眠って、可愛いお顔でした」


 赤面するアスラン王子の手を、ミスティアはそっと握った。


「!?」


 アスラン王子は動揺したが、その手を振り解かなかった。

 手繋ぎで庭を歩くミスティアはご機嫌だ。


「練習ですよ、殿下」

「練習?」

「抱き締めただけで竜になってしまわないように、こうして練習しているのです。じゃないと今夜の夜会で私とダンスをしたら、もふ竜になっちゃいますから」

「お前……この状況を楽しんでいるな?」

「はい! 私は殿下とご一緒できて楽しいです。もう蝶々もいませんし!」

「蝶々……?」


 アスラン王子を囲んでいたハーレムの美女たちがいなくなって、ミスティアは王子と二人だけの朝の時間を満喫した。


  * * *


 王妃の間にて──。

 大きな窓から庭を見下ろす王妃は、ギリギリと扇子を握り締めて苛立っている。


「肝心な夜会の日だというのに、モルガン大臣はどこへ行ったのかしら? あの役立たずめが……。今夜は大勢の前であの不浄の竜を退治できる好機だというのに」


 後ろで直立しているゼイン王太子は、緊張気味に王妃に声を掛けた。


「あ、あの、母上。本当に今夜、決行するのですか?」


 パン! と扇子を閉じる王妃に、ゼイン王太子は黙った。

 王妃は庭の景色に目を細めている。


「ふうん……アスラン王子は王が選んだ花嫁に興味を示さないと聞いたけど、どうやら違ったようね」


 眼下では、アスラン王子とミスティアが二人で仲良くお散歩している。


 王妃は悪魔のような笑いを扇子で隠した。


「正しい王位継承には犠牲が付きもの……辺境の小娘には竜の生贄になってもらいましょう」


  * * *


 陽が落ちる頃に、宮廷で夜会が始まった。

 着飾った貴婦人と紳士で会場は華やかに賑わい、テーブルには豪華な料理が並んだ。


 ミスティアは青紫の空に星が瞬くような、王子様色のドレスを着ている。

 妖精姫らしい神秘的な美しさは周囲から注目の的となり、兄のベリオルは満面の笑みで喜んだ。


「ミスティアにしては大人っぽい色の口紅だが、よく似合っているぞ」

「これはドレスの色に合わせて用意された、特別な紅らしいです。花の香りがしましてよ」

「ほお。王都には最先端の化粧があるんだな」

「お兄様こそ、蝶々が集ってまいりましたわ」

「ん?」


 滅多に夜会に顔を出さないベリオルはあっという間に令嬢たちに囲まれて、ドレスの波に攫われてしまった。


 会場が沸いてそちらを向くと、凛々しい正装姿のアスラン王子が現れた。

 いつもの気怠い雰囲気はなく、ミスティアのドレスと同じ湖色の瞳が凛と煌めいていた。

 ミスティアはアスラン王子に見惚れて、王子もまた、時を止めてミスティアに魅入った。そして自然と手を取り合って踊る二人を、来客らは溜息を吐いて見守った。不仲と噂の二人は初々しい愛に溢れていて、誰もが憧れの眼差しになっていた。


 ダンスが終わると、会場のすべての人に国王から祝杯が配られた。


「アスラン王子とミスティア王子妃の新しい門出に」


 上座で国王が祝福を述べると、隣席の王妃も和やかに杯を掲げた。


 杯を受け取ったアスラン王子とミスティアは微笑みあい、小さく乾杯をした。

 さっきまで凛々しかったアスラン王子は、はにかんだ顔をしている。


「不思議だ。こんなに穏やかな気持ちで夜会に参加できたのは初めてだ」

「まあ。それは良かったですわ」

「周囲の悪評や噂が耳に入ってこない。……隣に君がいるからかな。ミスティア」


 初めて名前を呼ばれて、ミスティアは舞い上がった。

 アスラン王子と見つめ合う甘いひと時だが……割り込むように邪魔が入った。


「アスラン王子殿下、ミスティア様! 乾杯しましょ!」


 ぶりぶりのドレスに大きなリボンを着けた、ハイテンションの侍女エルナと、気取って杯を掲げるゼイン王太子だ。エルナはまるで、王太子との浮気仲を見せつけるようにくっついている。


「乾杯」


 互いに宙に杯を掲げ、同時にシャンパンを飲み込んだ。

 その直後、ミスティアはグラスを落とし、蒼白となって床に崩れた。

 驚いたアスラン王子が咄嗟に支えたが、ミスティアは吐血して意識を失った。

 エルナが絶叫し、会場は騒然となった。


「血、血だわ! きゃーー!!」


 アスラン王子の腕の中で項垂れるミスティアは呼吸が停止し、顔色がどんどん青ざめていった。


「そんな……脈がない! ミスティア、いったいなぜ……!!」


 目前に立つゼイン王太子とエルナは、高揚を隠して唇を歪めている。アスラン王子は二人を見上げて声を荒げた。


「お前たちが毒を……!?」

「まさかぁ〜、私たちはグラスに触れてませんし、全員が同じ物を飲んだんですよ? ミスティア様が魔獣なんか食べるから、獣の毒に当たったのでは?」


 エルナの明らかな悪意の笑顔に、アスラン王子は激怒した。


 ドン!!


 爆発音が響き、シャンデリアも会場の柱も、一瞬で破壊された。地面が大きく揺れて、天井が歪む。


 滅茶苦茶になった夜会の会場の真ん中には、見上げるほど巨大な竜が現れていた。

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