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初夜に捨てられた辺境の箱入り娘 〜独りで爆食する私を王子様が溺愛してきましたわ〜  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中


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8 虫の巣叩き

 夕食の時間に、ミスティアはニコニコしている。

 アスラン王子がディナーの席に初めて来たのだ。


「殿下とご一緒できて嬉しいですわ」

「一人で食事をさせるのも悪いからな」


 アスラン王子は照れくさそうだが、二人は和やかな空気で食事をして、温かい時間を過ごした。


「じゃあ……俺は部屋に戻る。……おやすみ」


 やはりベッドを共にしないアスラン王子は部屋を出て行くが、ミスティアは両手を広げて立ち塞がり、ニコニコとした。

 意味がわからず「?」顔のアスラン王子に、ミスティアは抱きついた。


「うわ!?」

「これでおあいこですわ。浮気を許してあげましょう」

「はっ!? な、何を言って……」


 ミスティアがギュッと力を入れた瞬間に、アスラン王子はボン!と音を立てて、小さなもふ竜に変身してしまった。


「キュ!?」

「まあ、大変。抱き締めただけで、もふ竜になってしまいましたわ」


 ミスティアは喜んで抱っこして、撫で回して、くるくると回転しながら、キスをしまくった。


「キュ、キュ、キュ~……」


 興奮して気絶してしまったもふ竜を、ミスティアはベッドに優しく寝かせた。


「可愛い私のもふ竜ちゃん。いい子にしていてちょうだいね」



 ミスティアがそっと部屋から出ると、青い顔をしたメイドのメグが、マントのフードを被って立っていた。


「西棟です、奥様」

「見張りをありがとう。妻のお転婆を殿下にお見せするわけにいきませんから」


 そう言ってランプを受け取ると、ミスティアは真っ暗な夜の廊下の先に向かった。

 メグは思わず、その背中に声を掛けた。


「お、奥様、本当にお一人で行かれるのですか!?」


 ミスティアは振り向くと、笑顔の唇に指を当てて、闇に消えていった。


  * * *


 西棟にて。

 ここは宮廷の端に当たり、秘匿性の高い会話をするのに最適な場所だ。

 葉巻の煙に満ちた薄暗い部屋では、王妃派のモルガン大臣とその手下が、不穏な集会をしていた。


「あの不浄の王子め。なかなか本性を現さないな」

「これだけの美女を揃えてハーレムを作っても手出しをせずとは、いよいよ男色かね?」


 グハハハ、と下品な笑いが塔の廊下に響く。


「昔撃たれた竜の王子は、性的興奮が竜化の原因と囁かれていたが……アスラン王子にはもっと強い興奮が必要なんじゃないかね? 我を忘れるような、激しい怒りが」

「さあて。王妃様もそう仰っているが……」


 会話の途中で気配を感じたモルガン大臣は、後ろを振り返った。


「誰だ!?」


 音もなくひっそりと、小柄な少女が暗闇に立っていた。ミスティアだ。


「な……辺境の箱入り娘が……どうやってここに!?」


 廊下に立っていた護衛たちは既に魔力の檻に収容されて、立ったまま固まっている。

 異様な侵入者に、モルガン大臣と手下はそっとソファから立ち上がった。

 ミスティアがこちらに近づき、灯りでその顔が(あらわ)になる。妖精姫の二つ名に相応しい、神秘的で美しい少女だ。


「こ、これはこれは。王子妃がこんなむさくるしい所に、いったい何のご用で?」


 モルガン大臣が丁寧に伺うと、淑やかな声が応えた。


「こんばんは。虫の巣はこちらかしら」

「は?」

「私の夫に沢山の蝶々がたかっておりますの。一匹捕まえて聞いてみれば、こちらが巣だと吐きましたわ」


 ミスティアの不穏な様子に、手下はそっと剣に手を掛けた。


保管(ストレージ)


 ミスティアが低く呟くと、手下は剣を抜く途中で檻に閉じ込められた。


「うっ!?」


 動かなくなった手下の横を優雅に歩いて、ミスティアはモルガン大臣の目前にやって来た。


「な、何をした!?」

「魔力の檻ですわ。私が辺境の一族だと知っているでしょう?」

「お、檻?」

「ああ……モルガン大臣は私の力が母譲りの防御壁だと思ってらっしゃるのね? 私は私を守るだけではない。魔獣を閉じ込める檻を構築するのですよ」


 手下は檻の中で、必死に剣の柄で檻を叩いている。

 ミスティアはテーブルの林檎をひとつ、手に取った。


「辺境の一族にも珍しい能力で、防御壁の進化型ですわ」


 ピシッと空気を鳴らして、林檎を透明の檻に閉じ込めて見せた。


「この檻は私の意思で自在にサイズを変えることができますの。ほら、こうやって」


 林檎が入った檻はみるみるうちに縮んで、林檎は歪んで震え、ついにはブシャーッ!と音を立てて、ジュースになった。


「まあ。ほんの一握りで、(はかな)いですわね」


 それを目の当たりにした手下は、自分の檻が徐々に小さくなっているのに気づいて絶叫した。


「ひぃっ、助けてくれ! 嫌だっ、潰すな!!」

「うるさいですわね」

「お、俺はモルガン大臣に雇われて、ハーレムの女どもを手配しただけなんだ!」


 ミスティアが手下に目を向けている隙に、モルガン大臣は手元の大きな灰皿をミスティアに向かって投げつけた。


 バーン! と音が鳴って、灰皿は途中で粉々に砕け散った。


「檻の基本は防御ですわ。モルガン大臣」

「く、来るな! 来るなー!!」

「……保管」


 半狂乱になって暴れるモルガン大臣は檻に閉じ込められ、「ぐっ!」とおかしな格好で固まった。ミチミチ、と全身の身が圧迫されて、呼吸が早くなる。


「まあ。肥えてらっしゃるから、檻が狭いのですわ。ダイエットなさったら?」

「うぎっ! ぎゃあっ! 折れる、潰れる!!」


 容赦無く細く小さくなっていく檻に、モルガン大臣は押し潰されていった。


「もう虫の息ですわね。小さなお声で私に教えてくださいませ」

「なっ、に、を……」

「私の可愛い王子様を虐める輩を。全部吐いていただきましょうか」


 ひしゃげたモルガン大臣が見上げる先には、闇の中でこちらを見下ろす妖精姫の……鋭い魔獣の目が光っていた。

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