11 竜王子と妖精姫
「出してくれー! 檻はもう嫌だー!」
牢にしがみ付くゼイン王太子は、涙目で叫んだ。
隣の牢には、モルガン大臣が力無く横たわっている。共に王子妃殺害未遂の犯人として、宮廷の牢獄に囚われていた。
侍女のエルナはさらに深い地下牢に閉じ込められているが、夜な夜な「私は未来の王子妃よ!!」と喚く声が聞こえるという。
主犯の王妃は寂れた塔に幽閉されて、さらなる罪状の取り調べを受けているらしい。
「側室だった王妃にはアスラン王子の母君である元王妃の暗殺容疑も上がっている。産後に衰弱で亡くなったのも疑わしいと、国王は厳しく追求するつもりのようだ」
ベリオルの報告をよそに、ミスティアは満面の笑みで魔獣のコースを平らげている。
ガルドが肉を焼き、双子が運んでメグが皿を下げる。鮮やかなリレーのようだ。
「お兄様。お食事がまずくなりますわ」
「さすが我が妹だな。あんな強烈な毒を食らったのに、もう回復したのか」
「ええ。おかげさまで新たな毒への抗体もできましたの。王子妃たるもの、どんな毒でも消化してみせますわ」
中庭にいる兄妹のもとに、アスラン王子が爽やかな笑顔でやって来た。手に大きな箱を持っている。
「ミスティア! 父君からプレゼントだよ!」
「まぁ、魔草をバターで抽出した、辺境名物のクッキーですわ」
「さあミスティア。どれを食べる? どれが一番好き?」
ミスティアはたまらず、アスランのほっぺをツンと押した。
「この子が一番好きですわ」
「くふふ……」
夫婦のイチャつきの後ろから、「オホン!」と咳払いが聞こえた。
厳つい顔をした軍服姿の辺境伯……ミスティアの父だ。
アスランは慌てて立ち上がり、ミスティアは笑顔で手を広げた。
「お父様!」
「おお、ミスティアよ!」
父娘は再会の熱い抱擁をした。
「ミスティア、大変な目に遭ったな。だがさすが私の娘だ。立派な檻使いであった!」
「大変だなんて。宮廷に来てから楽しいことがいっぱいで、退屈しませんのよ?」
辺境伯はアスランを横目でギロリと睨んだ。
「国王としっかり約束を交わしてきた。我が辺境一族の大切な妖精姫を、必ず幸せな王子妃にすることと」
アスランは凛とした顔で敬礼をし、辺境伯に誓った。
「私の命をかけて、必ずや娘さんを幸せにします! お義父様!」
納得して頷く辺境伯の腕を、ベリオルが強引に掴んで宮廷を指した。
「鬼の辺境伯が久しぶりに来たと、王軍の者たちが緊張して待っています。さぁ、指導に参りましょう」
「ちょ、ちょっと待て! やっと愛娘に会えたのだぞ! 私も一緒にクッキーを……」
「ほらほら、新婚の邪魔をしてはなりません」
辺境伯はベリオルに引きずられて宮廷に戻っていき、ミスティアとアスランは顔を見合わせて笑った。
庭の木陰で二人きりになると、ミスティアは箱からクッキーを一枚取り出し、アスランの口元に差し出した。
「これは毒のないクッキーですから。あーん、ですわ。殿下」
アスランは素直に口を開けた。
「あーん」
もぐもぐ食べるアスランの顔を、ミスティアは嬉しそうに見つめた。
「私の可愛い王子様。今日も練習しましょうか」
そっと手を取るミスティアに、アスランは頷いた。
「そうだね。もふ竜にならないよう練習しないと」
そう言いながらミスティアに近づくと……優しく唇にキスをした。
ミスティアは予想外の"練習"に驚いて、目を見開いた。アスランは悪戯っ子のように微笑んでいる。
瞳を輝かせたミスティアは、歓喜で震えた。
「まあ、まあ……! 人の形を保ったままキスができるなんて、素晴らしいですわ! なんてお利口なんでしょう!」
褒めちぎった後に、ミスティアはアスランの頭に目線を置いた。
「でも惜しいですわ。竜の角がちょっぴり出てしまいましたもの」
「え!?」
アスランは赤面して、頭の角を両手で隠した。
ミスティアはベンチに膝を立てると、お返しにアスランの角にキスをした。
今度こそ、ポン!と音を立てて、アスランは小さなもふ竜になってしまったので、ミスティアはたまらず抱き締めた。
「可愛い可愛い、私の王子様。ずっと可愛がって差し上げますからね」
「キュウン」
宮廷の中庭は、竜王子と妖精姫の甘い甘い愛で満ちていた。
おわり
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