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りんご庭園のグラニエス夫人〜炎侯爵の愛が強すぎて砂糖まで溶けそうなので遠慮してくださいませんか〜  作者: リーシャ


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1/3

01変な女子生徒はりんごを焼くため火を要求する

 魔法学園では、毎年必ず力の強いものが現れる。今年は侯爵家の子息らしい、と生徒たちが口々に上げていく。


「おい、あいつじゃ」


「しっ、バカ!初等部の授業で壁を溶かしたって有名だ。下手に言うな!」


 廊下で生徒たちは一人の男の子が通るのを怯えた顔で見た。ここは中等部。初等部の話はマンモス校となれば、なくなることはなく人づてに広がる。

 外部生にも同じ話が伝染していく。

 カツカツ、と厳つい顔をした男の子が通る場所はサァ、と人が引く。


 侯爵家の長男カルヴァ。炎属性の家系に生まれたものの、その力は過去も含めて一番強力と言われており、その強さに周りは誰も近付かず。


 ゆえに、カルヴァは一人になるための場所を常に探していた。視線が鬱陶しく、話しかけもしない。

 大人たちは将来有望な生徒に話しかけようとする下心で気は休まらないと、憂鬱。今日も、一人で放課後を過ごすために誰にも見つからない場所を探す。


 死角となるところを彷徨い歩いていると、どこからかカチカチ、カチカチと音がして体が震えた。

 怖いものがいるのかもしれない。強力な力を持つカルヴァだが、コントロールできているかと言えば、できていない。

 初等部の話も、あれも結局はコントロールできなかった末の事故。あれ以来、炎を出したくないと精神的に不安定になった。


 そのことを知らない生徒たちが好き勝手言うだけだ。カルヴァは息を吐き、音の居場所へと歩く。

 知らぬふりをしてもずっと気になってしまうから。恐る恐る、どんどん近くなるカチカチという音がついに知れる。カチカチ、カチカチ。


「はぁ、付かない。しけってるのかな?」


 声が高く、女の子だとその時知れる。女の子は火を起こす石をひたすらカチカチしていた。固い石を集めたものの真ん中に火を灯そうとしているらしい。

 正体が知れて安堵したとき、石を足が蹴ってしまう。

 カッ、コロコロ。


「し」


 しまった、と言い終わる前に女の子のところまで石は転がる。


「ん?」


 女の子はとうとうこちらへ気付く。

 振り返る瞳と目がしっかり合う。


「……」


「……」


 お互い、無言で過ごす。だが、女の子は閃いた顔をすると、石をこちらへ向ける。


「この火打ち魔石、使える?やってほしいなって」


「え」


 話しかけられるのなんて、何年振りかと驚く。が、こちらが躊躇しているとズンズン大股でこちらに来て、石をさらに近づけられ、片手で火を起こそうとしている地点に指をさされる。


「あそこに火がほしい。できる?できない?それとも、火を起こせるもの、持ってる?」


「!!!」


 己を炎侯爵の異名を持つ一族と、知っているのか?と、思ったが無駄に鍛えられた悪意の有無を感じ取れる勘は、なにも感じ取れず。


 女の子は不思議そうにまだ石を渡そうとしてくる。なぜか、自然とそれを受け取りサクサクと草を踏みつけて枝が集められている場所へ向かう。

 なにをやっているのかと、自分を叱責しても、行動は止まらない。火を起こす魔石を魔力を込めていく。しかし、うんともすんとも言わない。


「炎のエネルギー、の魔力がもう空、だ」


 学園で習った現象を述べた。すると、女の子は「落ちてたからそうかもって思ってた」とあっけらかんと言う。落ちていたものを使う雑さに絶句しかけたが、また問われる。


「なにか火を起こせるもの、持ってない?」


 ぎくり、となった。過去の光景がフラッシュバックする。


「そ、それは」


「あ!もちろん」


 断ろうとしたが、すかさず言葉を挟む女子生徒に驚く。こんなふうに話す子は、今までいない。


「タダじゃない。報酬あるから」


 アイテムボックスの袋をごそごそとすると、徐に手を出してそれを見せる。


「りんご?」


 見たことのある、最近話題の果物だ。


「私が育てたやつ。甘くて美味しいし、可愛い我が子」


「わ、がこ?」


 なにを言っているかと思えば、意味がわからなくて。目を白黒させた。そんなこちらの態度を気にせずに相手は、いそいそと艶々とした赤いりんごを何当分にも分け出す。


「火種、持ってるんだったら付けて」


 指差して催促してくる女子生徒にどうしたものかと、迷う男。そんなことを思っているがりんごを切る手は止まらない。


「火を待ってるんだけど」


 有無を言わせぬ瞳に、キュッと拳を握る。


「分かった」


 やめればいいのに、という思考は手から炎を出す。瞬間ボォっと手から炎が出て勢いが強く上に燃え上がる。


「く」


 抑えようとしたが、上手くいかない。言うことをきかない。


「火種って、そっちか」


 女子生徒が逃げるかもしれないと諦めていたが、向こうはなんてことないように枝を拾い上げて炎に突っ込む。


「な」


 驚いたのはこちらの方になる。恐れないなんて。


「もらうね」


 炎が枝に移り、そこから石の集まる場所に火が灯る。そうして、女生徒が炎がまだ出ているのを見て、座ったらとレンガを指差して仕方なく座った。

 まだ出ている。それを共になぜか眺めている。


 棒でりんごを切った物を刺し始めた女の子は、全くこちらが燃え続けていることを、懸念することなく。りんごをなんと、こちらの方の炎に当て出した。火種を向こうに移したのに?


「向こうでやるんじゃないのか」


 つい、言葉が口に出た。


「あっちはまだまだ低温だし、今から火を育てるより、そっちが燃えてるなら、こっちでやった方が合理的だし」


 焚き火よりも高い温度だから、と締め括った。


「向こうもやらないと。これ、持ってて、当てておいて」


「は、お、おい」


 りんごの刺さったものを押し付けられる。向こうへ移動する女の子は、アイテム袋から鍋を取り出して、白いものをザバザバと入れると石が集まったところへ、ドンと乗せる。

 かき混ぜて、こちらへ来てはりんごを観に来る。


「高温だから直ぐ焼ける」


 出来栄えに納得したのかりんごを、こちらから取り上げてクルクル見回すと、目の前で未だ手から炎が出ていることなどお構いなしに、焼けたものをこちらへ差し出す。


「はい。焼きリンゴ」


「え」


「報酬」


 確かに、タダではないと言っていたなと思い出す。ぼんやりしていると、シャクリと食べ出す相手。

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