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灯びの系譜ー静寂なる闇に芽吹くもの  作者: 武内れい
第2章:まなざしの檻
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58、束の間の遊び(後半)


秘密基地の周囲は午後の陽光に包まれていた。雨の夜とは打って変わって、空は澄み渡り、木々の葉が風に揺れる音が心地よく響く。


私たちは木陰に隠れ、枝を剣に見立てて小さな戦いごっこを続けていた。ニコラが突然私の後ろから「やあ!」と声をかけてきて、思わず驚いた。笑い声が飛び交う。


でもその笑顔の奥には、いつも心の片隅にある「恐怖」が隠れているのがわかる。私もまた、倫のことを考えるたびに胸が苦しくなる。


「ミナ、こっち来て!」レオが手招きする。私はそっと近づくと、彼が静かに言った。


「倫、今日も実験に行ったり来たりしてるよね。なんであんなに忙しいんだろう。」


「わからない。でも、何か秘密があるみたい。」私は小声で答えた。


ルーカンが私たちの輪に戻ってきて、全員の視線が彼に集まる。


「今、みんなでこうして遊べるのは、ほんの一瞬の隙間だ。」彼の声は静かだが強い意志が込められている。


「僕たちは、ただ奪われるだけの存在じゃない。未来を自分たちの手でつかみ取るために、力をつけるんだ。」


その言葉に、胸の奥が熱くなった。私は小さくうなずいたけれど、倫のことを思うと、その決意に揺らぎを感じてしまう。


「でも、倫はまだここからでちゃだめっていってたよ。」イザベラが3歳のあどけない声で言った。


「そうだね。でも、僕たちが強くならないと、何も変わらない。」ルーカンが優しく答える。


私はその言葉に慰められながらも、倫の穏やかな笑顔がどこまで本心なのか、分からずにいた。


昼食の時間になると、基地の中に戻る。食卓には簡素な料理が並び、皆で一緒に座った。倫は私たちの輪に加わり、ゆっくりとパンを口にする。


その時、扉が静かに開いた。


「倫、少し手を貸してくれる?」


白いスーツに身を包んだマリセラ・ノクティスが、書類を抱えて立っていた。いつもの冷静で美しい微笑――けれどその裏側に、彼女の思惑が張り付いているのが分かる。


倫は軽く微笑み、私たちに「すぐ戻るよ」とだけ言い残し、立ち上がった。


私はそのたびに彼の動きを目で追い、胸の奥が締め付けられた。

倫は何を抱えているのだろう。彼の背負う秘密は、私たちに知られてはいけないものなのか。


ふと、視線を感じて振り向くと――木陰でこちらを見ていたロザヴェル・ノクテインと目が合った。

彼女は小さな薬瓶を指先で転がしながら、赤いルージュを引き直し、私たちではなく、去っていった倫の背中をじっと見つめていた。


「……あの子、また抜けたわね。」唇を噛むように笑い、ロザヴェルはわざとらしく甘い香水を強く吹きかける。


彼女は知っている。倫が時々、施設を抜け出していることを。

そして、それを誰も止めない。むしろ、ロザヴェルはその事実を楽しんでいる。


彼女の視線はどこまでもねっとりと倫を追い、ゆっくりと後を追うように基地を離れていった。

その足取りは、義務感でもなく、研究でもなく――もっと個人的で、欲望のにじむものだった。


私はごくりと喉を鳴らした。

倫はいつもあんな風に誰かに見られている。

でも、彼は気付いているのだろうか。


実験の時間にも、倫は不安定に参加し、時に抜けることがあった。

マリセラは帳面に何も書かず、他の研究者たちも彼を咎めない。

けれど、私は見逃さない。ロザヴェルは必ず、その背を目で追い、薬瓶をカラカラと鳴らしながら、ゆっくりと彼の行方を辿っていく。


「ミナ、何か気づいた?」レオがひそひそ声で尋ねる。


「うん、でも言葉にできない。」私はそう答えながらも、倫の秘密が私たちの未来を左右するのだと、強く感じていた。


夕暮れが近づく頃、再び基地の外に出る。風は涼しく、影が長く伸びていく。


ルーカンが静かに言った。


「僕たちの生き方を変えるために、力をつけよう。奪われるだけの生活じゃなく、自分たちで選び取る生活へ。」


その言葉は、私たちの胸に深く刻まれた。


「でも、今はまだ出てはいけない。」倫の声が心に響く。


その笑顔が偽りでないことを、私は心のどこかで信じたい。


この束の間の遊びも、希望の火種も、いつか強さとなり、私たちの未来を照らすと信じて。


でも、今日も私は問い続ける。


――倫は、本当に私たちのために戦っているのだろうか。


それとも、誰かのために、彼だけの孤独な戦いを続けているのだろうか。


秘密基地の明るい午後の光の中で、私は小さく息を吐いた。


不安と希望が交錯する中で、私たちは今日も、たしかに生きている。

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