57、束の間の遊び(前半)
早朝の薄明かりが少しずつ室内に差し込み、鉄製のテーブルには粗末な食器が並んでいた。施設の食堂は広く、冷たい空気が肌を撫でる。壁のひび割れから漏れる光は弱々しく、でも確かに、外の晴れ間を予感させた。
私は席に座りながら、そっと倫の姿を探した。彼はいつものようにテーブルの端、壁際の席に座っている。琥珀色の瞳は静かに向かいの空を見つめ、手元のパンをゆっくりとかじっている。
彼の隣には誰もいない。食堂はざわついているけれど、倫だけは周囲の騒がしさから少し距離を置くように静かだった。
「ミナ、今日もよく眠れた?」レオが隣で声をかけてきた。彼は食事に夢中で、時折私の視線を気にしているらしい。
「うん、まあまあかな。」私は小さく答え、再び倫の方へ目を戻した。
倫は時折、研究者たちの方をちらりと見る。何度か視線が合うこともあったが、彼はすぐに目を逸らす。私にはその動きが、何かを隠しているように感じられてならなかった。
食堂の隅で、研究者の一人が声をかけるのが見えた。
「ヴェラン、こちらへ。」
倫はためらいもなく立ち上がり、静かに席を離れる。背中を見送る私は、その姿に胸がざわついた。研究者たちの呼びかけに従う彼の表情には、わずかな迷いも、抗いも見えなかった。
朝食後、私たちは秘密基地へ向かう準備をした。基地は施設の外れにある古い倉庫を改装した場所で、私たちだけの静かな場所だった。
秘密の抜け道を通り、明るい陽射しに照らされる木々の間を駆け抜ける。子どもたちは自然と笑顔を取り戻し、枝を拾って剣の真似事を始めた。
「これ、見て!最強の剣だ!」ニコラが誇らしげに振りかざす枝を、レオが軽く受け流す。
「そんなんじゃ僕には勝てないよ!」レオの声が響くと、笑い声が森にこだました。
私も枝を拾い、静かに参加した。遊びの中で、恐怖は薄れ、ほんの少しだけ希望が灯るようだった。
遊びの合間に、ルーカンが私たちを呼び寄せた。彼の声はいつも通り静かだが、今日はどこか重みがあった。
「みんな、ちょっと集まってくれ。」
私たちは自然と輪になり、ルーカンがゆっくり口を開いた。
「力をつけることは、生き延びるためだけじゃない。僕たちは、ただ奪われる存在じゃなくなる。自分たちの手で未来を選ぶために、強くならなきゃいけない。」
彼の言葉はじわりと胸に染みて、私は無意識にその言葉の意味を深く考えた。倫はまだこの場所に出るべきじゃないと、そう言っていたけれど、本当にそうなのだろうか。彼の微笑みは、本心からのものだろうかと、私は揺れた。
遊びに戻った子どもたちは再び枝を振りかざし、かくれんぼを始めた。私はその輪の中にいながらも、ふと倫の姿が目に浮かんだ。食事や実験の場で、彼は確かにいたりいなかったりする。
研究者たちに連れられて消えることもあれば、一人でふらりとどこかへ行くこともある。そのたびに私の心は締め付けられた。
「ミナ、大丈夫?」レオが声をかけてくれた。私は笑顔でうなずき、でもその胸の奥では、倫の秘密に迫る恐れと好奇心が交錯していた。
まだまだ何もわからない。でも、確かなことは一つだけ。私たちはこの場所で、少しでも自由と希望を見つけようとしているのだ。




