40、灯の予兆(後半)
冷たい風がわずかに頬を撫でる中庭をあとにして、私はゆっくりと歩き始めた。
8号島の鉄とコンクリートに囲まれた日常の中で、誰かの視線が常に背中を押してくるように感じられて、息苦しい。
(あのときの倫の言葉――「ここではみんな平等に観察されている」)
その言葉は、表面上は優しく穏やかに響いたけれど、どこか冷たく、まるで計算された機械の声のように感じられた。
平等だと言いながら、彼だけが私たちの秘密基地の場所や動きまで知っているのはどうしてだろう。
ルーカンも私も、そのことに少しずつ疑問を抱き、見えない警戒心を抱いている。
でもレオやニコラは、倫に全幅の信頼を寄せている。
彼らの安心した笑顔を見ると、複雑な気持ちが胸を締め付ける。
(倫は、船の中で守りたいと言ってくれた。何があっても、絶対に僕が守るからと――でも)
そんな思いが交錯しながらも、私は自身の目に映る現実から目を背けられなかった。
食堂には、子どもたちがすでに集まっていた。日常のざわめきの中に、違和感が漂う。
扉の向こうから、グラエリン・ヴェインがゆっくりと入ってきた。
恍惚としたような笑顔を浮かべ、銀色の髪は午後の光に淡く輝き、瞳は淡紫をきらめかせていた。
「皆さん、こんにちは。」
その声は柔らかく響いたが、同時に不気味な静寂をもたらした。
「今日は、新しい課題を皆さんに伝えに来ました。」
彼は笑みを浮かべたまま、しかしその笑顔の奥には薄い毒が潜んでいるのを私は見逃さなかった。
「この島での生活は、ただ過ごすためのものではありません。君たちには選択と行動が求められます。自分自身の存在を証明しなさい。」
「その証明が何を意味するかは、君たち自身で見つけ出すべきです。」
子どもたちの表情はざわつき始める。ルーカンの隣で、イザベルが小さな声で不安そうに呟いた。
「……、わからないよ。」
私はそっとイザベルの手を取り、優しく握った。
「大丈夫。私たちは一緒にいるから。」
グラエリンは続けて言った。
「恐れることはありません。すべては君たちが誰であるか、この島が教えてくれるでしょう。」
その言葉は運命の予言のように響き、食堂の空気を重く沈めた。
課題の意味が明かされぬまま、子どもたちの胸には漠然とした不安が広がる。
私はゆっくりと息を吐き出しながら心の中で決めた。
(この島の観察は、私たちを閉じ込める檻かもしれない。だけど、私の目は閉ざされない。)
食堂を出ると、仲間たちがそれぞれ思い思いに話し合っている。
レオとニコラは変わらず倫を信頼し、笑顔で話しかけている。
「次はどんなことに挑戦しようか、倫?」
「秘密基地もまた、守らなきゃな。」
倫は微笑み返し、しかしその瞳の奥には一層深い何かが潜んでいる。
私とルーカンはその様子を見つめながら、お互いに言葉なく目を合わせた。
(彼は、私たちを守る盾でありながら、同時に何かを抱えている。)
私は胸の内に、新たな光を感じた。
(観察されるだけじゃない。私も、見ている。私も、知ろうとしている。)
私の中で、恐怖が薄れ、代わりに灯がひっそりと燃え始めていた。
誰の檻に閉じ込められても、その小さな灯は、絶対に消えない。
(私の目は、誰にも閉ざせない。)
新たな決意を胸に、私は足取りを軽くした。
これから何が待ち受けていても、私たちは見つめ続け、歩き続けるのだ。




