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【第27話】セラフィア土産とケンイチの単独研究

 

 カレンヌとレオンが出発した翌日、俺は薬師ギルドの研究室でテオと二人、次の段階の技術開発に取り組んでいた。植物紙プロトタイプは完成したが、緊急王都クエストが求める30日間保存技術には、まだ大きな隔たりがある。


「現在の7日間保存から30日間に延ばすには、根本的な改良が必要ですね」


 テオが理論計算を続けながら言った。


「特に問題となるのは、長期間の湿度管理です」


「そうですね。現在の植物紙では、調湿効果に限界があります」


 俺は完成したプロトタイプを手に取りながら考えていた。


「より強力な吸湿素材が必要かもしれません」


「吸湿素材……この世界にシリカゲルのような乾燥剤はあるのでしょうか?」


「天然の吸湿効果を持つ素材を探す必要がありますね。明日、フィールド調査をしてみましょう」


 俺はこれまでとは異なる環境での素材探しを計画した。乾燥地帯や、特殊な鉱物が採取できる場所など、新たな可能性を探る必要がある。


 翌日、俺は一人でリーヴェン近郊の乾燥地帯に向かった。レオンがいない単独行動は久しぶりで、少し心許ないが、今回は戦闘の危険は低いエリアだ。


 岩場の多い乾燥地帯を歩いていると、確かにこれまでとは異なる植物や鉱物を発見できた。しかし、植物共鳴で調べても、期待するような強力な吸湿効果を持つ素材は見つからない。


「うーん、なかなか良いものが見つからないな……」


 数時間の探索で疲れた俺は、木陰で休憩することにした。喉も渇いたし、少し甘いものでも食べて糖分補給をしたい。


 その時、ふと思い出した。カレンヌが持参していたお土産だ。確か、姉が作ったお菓子を分けてくれると言っていたが、あの後の作業に集中していて、すっかり忘れていた。


「そういえば、カレンヌがお土産をくれていたな……」


 俺はアイテムボックスを確認してみる。すると、確かに美しく包装された小さな菓子類が入っていた。


 《高級スイーツセット》

 《製作者:ミレイ(セラフィア港料理人)》


「これか……」


 俺は一つ取り出して、包装を開けてみた。中には、宝石のように美しい小さなゼリーのようなお菓子が入っている。透明感があり、まるで水晶のような輝きを放っている。


「綺麗だな……」


 一口食べてみると、俺は思わず目を見開いた。


「これは……!」


 口の中に広がる味は、想像を遥かに超えていた。上品な甘さ、繊細な食感、そして何より、この瑞々しさ。まるで採れたての果実のような新鮮さが、口の中で弾けている。


「信じられない……これほど美味しいお菓子があるなんて」


 俺は感動しながら、もう一口味わってみた。そして、あることに気がついた。


「この瑞々しさ……普通のお菓子では、これほどの水分を保持できないはずだ」


 俺の薬草知識からすると、このレベルの水分保持は、特殊な素材や技術なしには不可能だった。


「まさか……」


 急いで薬師ギルドに戻り、テオにお菓子を見せた。


「テオさん、このお菓子を分析してもらえませんか?」


「これは……非常に美しいお菓子ですね。どちらで?」


「カレンヌの姉、セラフィアの料理人が作ったものです。この瑞々しさが気になるんです」


 テオが精密分析器でお菓子の成分を調べ始めた。しばらくすると、驚いたような表情を見せた。


「これは……興味深い結果です」


「何か分かりましたか?」


「このお菓子には、スライムの解体素材が使用されているようです」


「スライムの解体素材?」


 俺は驚いた。確かに、以前戦ったスライムからは「スライムゼリー」という素材が採取できたが、それを食材として使うとは。


「具体的には、高品質に精製されたスライムエッセンスですね。これが、このお菓子の驚異的な保湿効果と食感を実現しているようです」


 テオの説明を聞いて、俺の頭の中で何かが繋がった。


「スライムの保湿効果……それを植物紙に応用できないでしょうか?」


「なるほど!」


 テオが眼鏡を光らせた。


「スライムエッセンスの吸湿・保湿特性を利用すれば、植物紙の調湿機能を大幅に向上させることができるかもしれません」


「スライムボアの粘液は接着剤として使いましたが、一般的なスライムのエッセンスは、調湿材として使えるということですね」


「理論的には十分可能です。スライムの細胞構造は、水分を効率的に保持・放出する機能を持っていますから」


 俺は興奮を抑えきれなかった。カレンヌの何気ないお土産が、技術開発の大きなヒントをくれたのだ。


「早速、スライムの解体と精製技術について調べてみましょう」


「はい。ただし、食用レベルまで精製するには、相当高度な技術が必要でしょうね」


 テオが現実的な指摘をした。


「セラフィアの料理人の技術レベルは、想像以上に高いようです」


「そうですね。カレンヌの姉……ミレイさんでしたか。相当な技術者のようです」


 俺はお菓子をもう一度味わいながら、新たな可能性に思いを馳せていた。スライムエッセンスを使った調湿技術。これが成功すれば、30日間保存という目標も現実的になるかもしれない。


「明日からは、スライムの解体技術と、エッセンス精製について研究してみましょう」


「承知いたしました。これは画期的な発見になりそうです」


 テオも興奮気味だった。


「カレンヌさんのお土産が、こんな形で技術開発に貢献するとは……」


 夕方、俺は今日の発見を振り返っていた。単なる休憩時間の甘いもので、こんな重要な発見ができるとは思わなかった。


 セラフィアの高度な料理技術と、リーヴェンの薬草技術。異なる分野の技術が融合することで、新たな可能性が生まれる。これこそ、緊急王都クエストが求めている「他分野専門家との技術融合」なのかもしれない。


 カレンヌとレオンがセラフィアで何を発見しているのか、ますます興味深くなってきた。そして、ミレイという料理人の技術レベルも、もっと詳しく知りたいところだ。


 俺の技術開発は、新たな段階に入ろうとしていた。

【アルネペディア】

・高級スイーツセット: セラフィア港の料理人ミレイが製作した高品質なお菓子。スライムエッセンスを使用することで驚異的な瑞々しさと保湿効果を実現している。


・スライムエッセンス: スライムから抽出・精製された高品質な素材。優れた保湿・吸湿特性を持ち、食用から工業用まで幅広い応用が可能。


・調湿技術: 湿度を適切に管理する技術。スライムエッセンスの特性を活用することで、植物紙の長期保存性能を大幅に向上させる可能性がある。


・解体素材研究: モンスターから採取される素材の特性を分析し、技術開発に応用する研究分野。料理技術と薬草技術の融合により新たな可能性が開ける。


・技術融合: 異なる分野の専門技術を組み合わせることで、従来では不可能だった革新的な技術を生み出すアプローチ。

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