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【第25話】和紙製法への挑戦(前編)

 

 翌日の朝、俺たちは毒ガス地帯探索の準備を整えていた。スライムボアの粘液採取という明確な目標があるとはいえ、前回以上に危険な任務になる可能性が高い。


「解毒ポーション、回復ポーション、煙幕用のバタフライリーフ……」


 俺は持参品を確認しながら、カレンヌに注意事項を説明した。


「今回は粘液の採取が目的ですが、戦闘は避けられません。レオンと連携して戦ってください」


「はい、分かりました」


 カレンヌが緊張した表情で頷いた。猫のような尻尾が、やる気に満ちて立っている。


「でも、新しい植物に会えるのは楽しみです」


「カレンヌも戦えるんですか?」


 レオンが少し驚いた表情を見せた。


「もちろんですわ!フェルーナは身体能力が高いんです。特に夜間戦闘は得意ですが、日中でも十分戦えます」


 カレンヌが自信を持って答えた。腰に短剣を装備しているのが見える。


「そうなんですね。それなら心強いです」


 リーヴェン深部の毒ガス地帯に到達すると、前回と同様の薄緑色の霧が立ち込んでいた。カレンヌは初めて見る光景に目を丸くしている。


「これが毒ガス……すごく危険な感じがしますわ」


「解毒ポーションを飲んでおきましょう」


 俺たちはそれぞれ《美味しい解毒ポーション》を飲んだ。カレンヌは一口飲むと、驚いたような表情を見せた。


「これ、本当に美味しいですね!普通の解毒ポーションって、とても苦くて……」


「おじさんの特製です」


 レオンが誇らしげに言った。


「戦闘中でも飲みやすいから、とても助かるんですよ」


 毒ガスの境界線を慎重に越え、前回スライムボアを発見した場所に向かう。途中、カレンヌが足を止めた。


「あの……ケンイチ様、あちらに変わった植物があります」


 カレンヌが指差した方向には、毒ガスの中でも枯れることなく成長している不思議な蔦のような植物があった。


「植物共鳴で調べてみます」


 俺は慎重にその植物に意識を集中した。


 《トキシックバインを発見しました》

 《トキシックバイン:毒性環境に適応した蔦植物。強力な解毒作用を持つが、処理を誤ると逆に毒性を発揮する。》


「これは……興味深い植物ですね」


「採取しますか?」


 カレンヌが興味深そうに尻尾を揺らした。


「後で戻ってきましょう。まずはスライムボアの粘液を確保してからです」


 さらに奥へ進むと、前回の戦闘場所が見えてきた。そして、予想通りそこには新たなスライムボアが現れていた。


 《スライムボア Lv.13 ×2》


「今回は2匹ですね」


 レオンが剣を抜いた。


「前回と同じ煙幕作戦でいきますか?」


「ああ。カレンヌ、君はどちらか一匹を担当してもらえますか?」


「お任せください!」


 カレンヌが短剣を抜いた。その動きは素早く、フェルーナ特有の俊敏性が感じられる。


「私もレオンに負けませんわよ」


「負けるもんか!」


 レオンも負けじと構えた。


 俺は持参したバタフライリーフを取り出し、事前に準備しておいた焚き火に投入した。すぐに濃い白煙が立ち上り、スライムボアたちの周囲を包み込む。


 煙に触れたスライムボアの粘液が、見る見るうちに粘性を失っていく。前回と同様の効果だ。


「今です!」


「はい!」


 レオンとカレンヌが同時に駆け出した。レオンは左のスライムボア、カレンヌは右のスライムボアに向かう。


 カレンヌの動きは予想以上に洗練されていた。フェルーナ特有の身軽さで、スライムボアの攻撃を軽やかにかわしながら、短剣で正確に攻撃を加えていく。


「すごいじゃないですか、カレンヌ!」


 レオンが自分のスライムボアと戦いながら、感心した声を上げた。


「当然ですわ!私だって冒険者なんですから」


 カレンヌの短剣が、粘液の弱まったスライムボアの急所を的確に狙っている。フェルーナの夜間視力と俊敏性は、こうした戦闘でも大きなアドバンテージとなっているようだ。


「負けてられませんね!」


 レオンも奮起して、自分のスライムボアに集中攻撃を仕掛ける。


 数分後、ほぼ同時に両方のスライムボアが倒れた。


「やりましたね!」


 カレンヌが嬉しそうに尻尾を大きく振った。


「カレンヌ、想像以上に強いじゃないですか」


 レオンが素直に褒めた。


「僕と遜色ないレベルですよ」


「ありがとうございます」


 カレンヌが少し照れたような表情を見せた。


「でも、レオンの剣技も見事でしたわ」


 俺は急いで粘液の採取を開始した。煙の効果で粘性が弱まっているうちに、できるだけ多くの粘液を確保する必要がある。


「粘液の状態を確認します」


 俺は植物共鳴ならぬ「素材共鳴」とでも言うべき感覚で、粘液の特性を調べた。


「この粘液は……適度に薄めれば、確実に接着剤として使えます」


 2匹分の粘液を確保し、十分な量を得ることができた。


「これで材料は揃いましたね」


 レオンが満足そうに言った。


「あ、そうだ」


 カレンヌが思い出したように言った。


「さっきのトキシックバインも採取しませんか?何か役に立つかもしれません」


「そうですね。せっかくここまで来たのですから」


 俺たちは先ほどの場所に戻り、トキシックバインの採取を行った。植物共鳴で最適な採取方法を探りながら、慎重に蔦を切り取る。


 《トキシックバイン採取に成功しました》

 《毒性植物処理 Lv.1を習得しました》


「新しいスキルを習得しましたね」


「毒性植物も扱えるようになると、研究の幅が広がりそうです」


 帰り道、カレンヌとレオンが戦闘について話し合っている。


「カレンヌの短剣技、本当に上手でしたね」


「レオンの剣技も見事でした。今度、お互いの技を教え合いませんか?」


「いいですね!僕も興味があります」


 二人の関係が、戦闘を通じてさらに良くなったようだ。


「今日は初めての本格的な危険地帯でしたが、思ったより楽しかったです」


 カレンヌが満足そうに言った。


「戦闘も、植物発見も、両方できて充実していました」


 薬師ギルドに戻ると、テオが心配そうに迎えてくれた。


「お疲れ様でした。無事に素材を確保できましたか?」


「はい。スライムボアの粘液と、ボーナスでトキシックバインも採取できました」


 俺は今日の成果を見せた。


「しかも、カレンヌの戦闘力が予想以上に高くて、とても頼もしかったです」


「そうなんですか?」


 テオが驚いている。


「フェルーナの身体能力は高いと聞いていましたが……」


「レオンと同じくらい強かったです」


 俺が説明すると、テオの表情が明るくなった。


「それは心強いですね。今後の探索がより安全になります」


 研究室で、俺たちはスライムボアの粘液を使った繊維結合実験を開始した。粘液を適度に薄め、分離した植物繊維と混合してみる。


「おお、これは期待できそうです」


 繊維がしっかりと結合し、紙状の形を保っている。ただし、まだ厚さが不均一で、実用レベルには達していない。


「厚さ調整の技術が必要ですね」


 テオが分析結果を確認している。


「でも、基本的な結合は成功しています」


「明日は、より精密な成形技術に挑戦してみましょう」


 俺は今日の成果に満足していた。


「現実の和紙技術の再現に、また一歩近づきました」


 夕方、俺は今日の進展を振り返っていた。スライムボアの粘液という天然接着剤を確保し、基本的な繊維結合に成功した。そして何より、カレンヌの戦闘力が判明したことで、チームの戦力が大幅に向上した。


 これで今後の危険地帯探索も、より安全に行えるだろう。テオの理論、カレンヌの植物感覚と戦闘力、レオンの護衛技術、そして俺の植物共鳴。この組み合わせがあれば、どんな困難も乗り越えられそうだ。

【アルネペディア】

・フェルーナ戦闘力: フェルーナ族特有の高い身体能力。俊敏性と夜間視力を活かした戦闘スタイルで、日中でも高い戦闘力を発揮する。


・トキシックバイン: 毒性環境に適応した蔦植物。強力な解毒作用を持つが、処理を誤ると逆に毒性を発揮する特殊な植物。


・毒性植物処理: 毒性を持つ植物を安全に扱うための専門技術。適切な処理により、有害な植物も有用な素材として活用できる。


・スライムボア粘液: スライムボアから採取される天然の粘着性物質。適度に薄めることで、植物繊維の接着剤として使用可能。


・繊維結合実験: 分離した植物繊維を粘液で結合させ、紙状の形に成形する実験。基本的な成功は収めたが、厚さ調整などの課題が残る。

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― 新着の感想 ―
面白くて一気読中ですが、違和感があったのでこちらに。 スライムボア討伐エピは街近郊の森だけだったと思うのですが…毒環境での討伐エピあったらすいません。
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