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【第22話】緊急王都クエストと、新たなる挑戦

 

 コンビニの深夜シフトを終えた俺は、少し早めに起床してVRログインの準備を整えていた。昨日までの薬草市場安定化プロジェクトで、シトラグラス、ライムモス、そして夜間にしか採取できないムーンブルームの3種類の代替素材を発見できた。クエストは順調に進んでいるが、今朝は何かが違っていた。


 VRヘッドセットを装着してログインすると、いつものリーヴェンの街並みではなく、まばゆい光に包まれた特別な空間が広がっていた。


『【重要なお知らせ】』


 システムメッセージが目の前に大きく表示される。


『アルネシア・オンライン Ver.2.0「職人たちの新時代」が配信されました。新機能と職業システムの追加により、より深い技術探求と協力体験をお楽しみいただけます。』


「Ver.2.0か……」


 俺は興味深くアップデート内容を読み進めた。薬師の正式職業化、解体師の新職業追加、そして何より「現実知識対応AI強化」という文字が目を引いた。これまで以上に、現実の知識がこの世界で活かせるようになるということだろうか。


 光が収まり、俺は薬師ギルドの研究室に戻った。そこでアウローラから重要な知らせを受けた。


「ケンイチさん、緊急事態よ。王都から直接クエストが発令されました」


「王都から?」


 薬師ギルドの受付スタッフが慌てて詳細を説明してくれる。


「緊急王都クエストです!最高優先度とのことで……」


 《★★★緊急王都クエスト★★★》

 《クエスト名:『アルネシア保存食技術革新プロジェクト』》

 《発注者:王都薬師ギルド・アルケミスト・マギウス》

 《緊急度:最高》

 《報酬:経験値50,000/ゴルド100,000G/特殊称号『薬学革新者』》

 《制限時間:30日間》


「保存食技術革新……これは俺の専門分野と関連がありそうですね」


 クエストの詳細を読み進めると、さらに驚くべき内容が明らかになった。


 《クエスト内容》

 ・薬効保持技術の革新開発

 ・食品保存への薬学応用

 ・他分野専門家との技術融合

 ・品質保証システムの確立


「他分野専門家との技術融合……これは興味深いな」


 俺はクエストを受諾した。


 《緊急王都クエスト『アルネシア保存食技術革新プロジェクト』を受諾しました》


 その瞬間、研究室に新たな光が差し込んだ。


『専属サポートNPC配属のお知らせ』


 光の中から現れたのは、白いローブに金の刺繍が施された格式高い装いの男性だった。年齢は30代前半といったところで、知性的な眼鏡をかけている。


「初めまして、私はアルケミスト・テオと申します。このたび、あなたの専属サポートとして配属されました」


「テオ……さん?」


「はい。薬学理論と研究管理を専門としております。あなたの直感的なアプローチは確かに成果を上げていますが、より科学的な裏付けがあれば、さらなる発展が期待できるでしょう」


 テオの言葉には、どことなく上から目線のニュアンスが感じられた。確かに俺のやり方は、現実の経験と植物共鳴スキルに頼った部分が大きい。


 俺は新しいスキルが追加されていることに気づいた。


 《薬学研究管理 Lv.1:複雑な研究プロジェクトを効率的に管理し、理論的裏付けを強化する》


 その時、研究室の外から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「だから!そっちじゃないって言ってるでしょ!」


「いや、でもこっちの方が近道のはずだよ」


「近道も何も、全然違う方向じゃないですか!」


 研究室の扉が勢いよく開かれると、見慣れた二人組が現れた。レオンとカレンヌだ。


「おじさん!」


「ケンイチ様!」


 二人は同時に俺に向かって駆け寄ってきた。


「お前たち、また喧嘩してたのか?」


「喧嘩じゃありません!」


 カレンヌが頬を膨らませた。


「この人が、薬師ギルドの場所を間違えて教えるから……」


「間違えてないよ!カレンヌが途中で全然違う方向に歩いて行っちゃうから……」


 レオンも困ったような表情だ。


「僕は正しい道を案内してたのに、『あ、きれいな花!』とか言って脇道に逸れるのはカレンヌでしょ?」


「だって、本当にきれいだったんですもの!それに、あの花は薬草として使えそうでしたし……」


「そうやって毎回寄り道するから、3倍も時間がかかるんだよ」


「3倍は言い過ぎです!せいぜい2倍くらいですわ」


「2倍でも十分すぎるくらい多いんだけど……」


 俺は苦笑いを浮かべながら、二人の言い合いを止めた。


「まあまあ、二人とも。無事に着いたんだから良いじゃないか」


 テオが困惑したような表情で二人を見つめている。


「あの……この方々は?」


「ああ、紹介しよう。こちらはレオン、俺の冒険のパートナーだ。そしてこちらはカレンヌ、フェルーナの植物愛好家だ」


「初めまして、レオンです!」


「カレンヌと申します。お初にお目にかかります」


 カレンヌは丁寧にお辞儀をしたが、レオンは気軽に挨拶した。その違いを見て、テオはさらに困惑を深めている。


「それで、カレンヌ。今日はどんな用事で?」


「実は、最近薬草の価格が高騰しているという話を聞いて、何かお手伝いできることがないかと思いまして……私、植物についてはそれなりに詳しいのです」


「そうか、薬草価格の問題か」


 俺は薬草市場安定化プロジェクトのことを思い出した。シトラスハーブの価格高騰は、血抜き熟成法の普及が一因だった。幸い、代替素材の発見により解決の目処は立ったが、根本的な技術革新が必要かもしれない。


「カレンヌ、もしよろしければ、この新しいプロジェクトを手伝ってもらえないだろうか?」


「え?私がお手伝いを?」


「ああ。このクエストには『他分野専門家との技術融合』という項目がある。君の植物への知識は、きっと役に立つはずだ」


 カレンヌの目が輝いた。


「ぜひお手伝いさせてください!何かできることがあれば……」


 しかし、テオが困惑したような表情を見せた。


「ちょっと待ってください。薬学研究に素人が参加するなど……」


「おいおい、素人って失礼じゃないかな」


 レオンがテオに向かって言った。


「カレンヌは植物のことをすごく詳しく知ってるんだよ。この前も、僕が見つけられなかった薬草をあっという間に発見してくれたし」


「それはそうかもしれませんが、学術的な研究となると話は別です」


 テオは眼鏡を光らせながら反論した。


「大体、正式な教育を受けていない者が、高度な薬学研究に貢献できるとは思えませんが」


「ちょっと待てよ」


 今度はレオンが少し怒ったような表情を見せた。


「おじさんだって、別に薬学の正式な教育を受けたわけじゃないでしょ?でも、すごい発見をいっぱいしてるじゃん」


「それは……ケンイチさんは特別な才能をお持ちだから……」


「カレンヌだって特別だよ!植物を見つける能力は、僕なんかよりずっと上だ」


 二人の言い合いを見て、カレンヌが少ししょんぼりとした表情を見せた。


「私……そんなに頼りないでしょうか?」


 その表情を見て、俺は割って入った。


「テオさん、確かに理論的な知識は重要です。しかし、このプロジェクトには多角的なアプローチが必要だと思います」


「それに、カレンヌの植物に対する感覚は、俺の植物共鳴スキルと相性が良いかもしれません」


「う〜ん……まあ、プロジェクトの成功が最優先ですから、必要とあらば協力しましょう」


 テオは渋々といった様子で同意した。


 レオンがカレンヌの肩をポンと叩いた。


「ほら、おじさんも認めてくれたじゃん。君の能力は本物だよ」


「レオン……ありがとうございます」


 カレンヌの表情が明るくなった。


「でも、道案内だけはもう少し練習した方がいいと思うけど」


「それは……その通りですわね」


 カレンヌは苦笑いを浮かべた。


 アウローラが新しいクエストの詳細について説明してくれた。


「このプロジェクトは、従来の薬草依存からの脱却と、革新的な保存技術の開発が目標よ。特に、薬効を保持しながら長期保存を可能にする技術が求められているの」


「長期保存……現実世界の知識が活かせそうですね」


 俺の頭の中で、様々な可能性が浮かんだ。現実の食品保存技術、薬草の乾燥方法、そして最近発見したスイートモスの安定化作用。これらを組み合わせれば、何か新しい技術が生まれるかもしれない。


「まずは、現在の薬草保存技術の限界を把握しましょう」


 テオが研究計画を立て始めた。


「従来の乾燥保存法では、薬効成分の劣化が避けられません。また、湿度管理も課題です」


「なるほど。現実の世界では、真空パックや脱酸素剤、シリカゲルなどの技術がありますが……」


 俺は現実の知識を整理してみた。


「カレンヌ、君の知っている植物で、乾燥剤のような効果を持つものはあるかい?」


「はい!森の奥に、とても乾いた環境を好む植物があります。その周辺は、いつも湿度が低いんです」


 カレンヌの情報に、俺は興味を示した。


「それは面白い。天然の除湿効果を持つ植物か……」


 テオも眼鏡を光らせた。


「確かに、生物由来の除湿剤なら、薬効成分との相互作用も最小限に抑えられるかもしれません」


「僕も手伝いますよ!」


 レオンが積極的に協力を申し出た。


「森の探索なら、護衛も必要でしょうし」


「では、明日その植物を探しに行ってみましょう。カレンヌ、案内をお願いできますか?」


「もちろんです!でも……その、道案内は苦手なので……」


「大丈夫、僕がフォローするから」


 レオンが頼もしく言った。


「ただし、今度は寄り道禁止だよ?」


「はい……気をつけます」


 カレンヌは少し恥ずかしそうに答えた。


 夕方、俺は一人で今日の出来事を振り返っていた。Ver.2.0のアップデート、緊急王都クエスト、テオの配属、そしてカレンヌとレオンの参加。すべてが新しい展開の始まりを予感させる。


 薬草市場安定化プロジェクトで発見した3種類の代替素材は、今回の保存技術革新プロジェクトにも活かせるかもしれない。特にムーンブルームの特殊な成分は、長期保存技術のヒントになりそうだ。


 レオンとカレンヌの関係も面白い。お互いに張り合いながらも、本当は相手を気遣っている。そんな二人の協力があれば、きっと大きな成果を上げられるだろう。


 この保存食技術革新プロジェクトは、さらに大きな可能性を秘めている。薬効を保持しながら長期保存を可能にする技術。それが実現すれば、薬師業界だけでなく、料理業界にも大きな影響をもたらすだろう。


 他分野の技術者たちとの融合。それがこのプロジェクトの鍵になるかもしれない。現実世界で培った知識と、この仮想世界での新たな発見。その組み合わせから、どんな奇跡が生まれるのだろうか。


 明日は、カレンヌが知っている天然除湿植物の探索から始めよう。テオの理論的アプローチと、俺の実践的技術、そしてカレンヌの自然への洞察、レオンの護衛技術。この四つの力を合わせれば、必ず革新的な技術が生まれるはずだ。


 45歳のコンビニバイトが、VRの世界で薬学革命を起こす。そんな無謀な挑戦が、今また新たな段階に入ろうとしていた。

【アルネペディア】

・Ver.2.0「職人たちの新時代」: 大型アップデートにより追加された新機能群。現実知識対応AI強化、専属サポートNPC配属、職業システム拡張が主な内容。


・アルケミスト・テオ: 王都薬師ギルド出身の理論派薬学者。ケンイチの専属サポートNPCとして配属。薬学理論と研究管理が専門。学術的アプローチを重視する。


・薬学研究管理: 複雑な研究プロジェクトを効率的に管理し、理論的裏付けを強化するスキル。Ver.2.0で追加された上級薬師向けスキル。


・緊急王都クエスト: 王都から直接発令される最高優先度のクエスト。『アルネシア保存食技術革新プロジェクト』では薬効保持技術と他分野との技術融合が求められる。


・保存食技術革新: 薬効を保持しながら長期保存を可能にする革新的技術の開発。従来の薬草依存からの脱却と、新しい保存手法の確立が目標。

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