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【第15話】スカーレットルートを求めて

 

 上級薬師転職試練の最後の課題「希少素材スカーレットルートの採取」について、俺はまず薬師ギルドの図書室で情報収集を行った。古い文献を漁ってみると、スカーレットルートに関する記述がいくつか見つかった。


『スカーレットルート:血のように赤い希少薬草。強力な薬効を持つが、毒性の強いモンスターが生息する危険地帯にのみ自生する。採取には細心の注意が必要。』


 別の文献には、より詳しい情報があった。


『リーヴェン深部の毒ガス地帯に自生。周囲にはポイズンスパイダーやトキシックスライムなどの毒性モンスターが多数出現。単独での採取は推奨されない。』


「毒性モンスター、か……」


 俺は料理人から薬師に転職したとはいえ、戦闘能力は決して高くない。確実にレオンの協力が必要だろう。


 翌日の朝、俺はレオンと待ち合わせをしてリーヴェンの南門で合流した。彼は新しい装備を身につけており、レベルアップの成果が見て取れる。


「レオン、お疲れ様」


「おじさん、お疲れ様です!準備はいかがですか?」


「ああ、こちらも万全だ。解毒ポーション、回復ポーション、それに念のため煙幕用の薬草も用意した」


 俺は今回の探索のために特別に調合したアイテムを見せた。スイートモスで味付けした《美味しい解毒ポーション》《美味しい回復ポーション》に加えて、緊急時用の煙幕を作るための「バタフライリーフ」も大量に持参している。


「さすがおじさんですね!そのポーション、本当に美味しそうです」


 レオンは俺の用意したポーションを見て、感心したように頷いた。


「お前の方はどうだ?毒耐性の装備とかは準備できたか?」


「はい!毒耐性+15%のマントを購入しました。それに、状態異常回復のスキルも習得済みです」


 頼もしい限りだ。俺たちは南門を出て、リーヴェン深部の危険地帯へと向かった。


 最初の1時間は平穏な草原地帯を歩いた。しかし、徐々に植生が変化し、空気も重くなってくる。やがて、前方に薄い緑色の霧が立ち込めているのが見えてきた。


「あれが毒ガス地帯ですね!」


 レオンが指差す先には、確かに不自然な霧が漂っている。近づくにつれて、鼻を刺すような独特の匂いがしてきた。


「まずは俺の解毒ポーションを飲んでおこう」


 俺たちはそれぞれ解毒ポーションを飲んだ。レオンは一口飲むと、いつものように驚いた表情を見せる。


「やっぱり美味しいですね!普通の解毒ポーションって、苦くて渋くて......飲むのが辛いんです」


「毒ガス地帯では何度も飲み直すことになるからな。美味しい方がお前も楽だろう」


 毒ガスの境界線に差し掛かると、俺のスキル《危険地帯適応 Lv.1》が発動した。これは以前の冒険で習得したスキルで、有毒な環境での行動を助けてくれる。


「おじさん、気をつけてください!毒ガスの濃度が上がってきました」


「ああ、分かった。お前も無理するなよ」


 俺たちは慎重に霧の中を進んだ。視界は10メートル程度しかきかず、足元も湿ったぬかるみになっている。時折、毒ガスの影響で体力が少しずつ減少するが、解毒ポーションの効果で相殺されている。


 しばらく進むと、前方で何かが蠢く音が聞こえてきた。


「モンスターです!」


 レオンが剣を抜く。霧の中から現れたのは、紫色に光る大きなスライムだった。


 《トキシックスライム Lv.12》


「毒性のスライムか。俺は後方支援に回る」


 レオンが前衛に出て、俺は安全な距離を保った。現実の薬草採取でも、危険な場所では無理をしないのが鉄則だ。


 トキシックスライムは触手のような部分を伸ばしてレオンを攻撃してくる。触手に触れると毒状態になるようだが、レオンは軽やかにかわしながら剣で反撃している。


「くっ、やはり毒攻撃がきついです!」


 レオンの体力バーに紫色の毒マークが表示された。俺はすぐに《美味しい解毒ポーション》を投げ渡す。


「これを飲んで!」


 レオンは戦闘中にポーションを飲んだ。美味しいので素早く飲むことができ、すぐに毒状態が回復する。


「ありがとうございます!やはり美味しいと戦闘中でも飲みやすいです」


 数分の戦闘の後、トキシックスライムを撃破した。俺たちはさらに奥へ進む。


 途中、毒ガスの濃度が特に高い場所では、バタフライリーフを燃やして煙を発生させた。この煙は毒ガスを中和する効果があり、一時的に安全地帯を作ることができる。


「おじさん、この煙の技術すごいです!まるで毒ガスが薄くなってます」


「現実の薬草知識の応用だ。特定の植物の煙には、有害ガスを中和する成分が含まれているんだよ」


 そして、毒ガス地帯の最深部で、ついに目標の薬草を発見した。


 岩陰の湿った場所に、血のように赤い根を持つ植物が自生している。それは間違いなくスカーレットルートだった。


 《スカーレットルート:血のように赤い希少薬草。強力な薬効成分を含むが、毒性環境でのみ育つ。採取には高度な技術が必要。》


「見つけた……!」


 しかし、スカーレットルートの周囲には、複数のポイズンスパイダーが巣を張っていた。


 《ポイズンスパイダー Lv.14 ×3》


「厄介だな。3匹同時だと、お前一人では難しそうだ」


 レオンが慎重に敵の配置を確認している。確かに、レベル14のモンスター3匹同時は、現在のレオンには荷が重いだろう。


「待てよ……煙で動きを封じることはできないか?」


 俺は以前、薬師ギルドの試練でスライムボアの動きを煙で封じた経験を思い出した。ポイズンスパイダーにも同じ戦術が通用するかもしれない。


「バタフライリーフの煙を大量に発生させて、視界と動きを封じよう。その隙にお前が一匹ずつ確実に倒すんだ」


「なるほど、煙幕作戦ですね!やってみます」


 俺は持参したバタフライリーフを大量に燃やし、スパイダーたちの周囲に濃い煙を充満させた。煙に包まれたスパイダーたちは、動きが鈍くなり、攻撃の精度も落ちている。


「今だ、レオン!」


 レオンは煙の中に突入し、動きの鈍ったスパイダーを一匹ずつ確実に撃破していく。俺も後方から回復ポーションで支援を続けた。


 10分ほどの戦闘で、すべてのポイズンスパイダーを撃破。ようやくスカーレットルートの採取が可能になった。


 俺は植物共鳴スキルを使って、スカーレットルートの「声」に耳を澄ませた。この薬草は毒性環境に適応しており、根の部分に強力な薬効成分を蓄積している。しかし、不適切な採取をすると、その成分が分解してしまう。


「慎重に、根を傷つけないように……」


 俺は調理ナイフを使って、丁寧にスカーレットルートを掘り起こした。土の中から現れた根は、まさに血のように鮮やかな赤色をしている。


 《スカーレットルート採取に成功しました》

 《希少植物鑑定 Lv.1を習得しました》

 《危険地帯適応 Lv.1が Lv.2に上昇しました》


「やったぞ!」


 俺とレオンは互いに拳を合わせて成功を祝った。


「おじさんの知識と準備があってこその成功です!煙幕作戦、本当に効果的でした」


「お前の戦闘技術があったからこそだよ。一人では絶対に無理だった」


 帰り道、俺たちは達成感に浸りながら毒ガス地帯を抜けた。レオンは道中、俺のポーションを何本も消費したが、美味しいので全く苦にならないと言ってくれた。


「今度ギルドの仲間にも、このポーションを分けてもらえませんか?特に長時間ダンジョンに挑戦する時は、本当に助かるんです」


「もちろんだ。今回の成功で上級薬師に転職できれば、より高品質なポーションも作れるようになるからな」


 リーヴェンの街が見えてきた時、俺は改めて今回の冒険の意義を実感していた。現実の薬草知識、この世界での新しい技術、そして信頼できる仲間との協力。これらが組み合わさることで、一人では不可能だった課題をクリアできた。


 薬師ギルドに戻ったら、アウローラにスカーレットルートを渡そう。三つの試練すべてをクリアし、いよいよ上級薬師への転職が現実のものとなる。


 レベルも10に到達し、俺の薬師としての実力は確実に向上している。美味しいポーションの技術も、この世界の冒険者たちにとって大きな価値を持つことが証明された。


 夕日に照らされたリーヴェンの街並みを見ながら、俺は次なる目標に思いを馳せていた。上級薬師になったら、さらに高度な調合技術を学べるだろう。そして、この「美味しい薬」の技術を、より多くの人に届けることができるはずだ。

【アルネペディア】

・スカーレットルート: 血のように赤い希少薬草。毒性環境でのみ育ち、強力な薬効成分を含む。採取には高度な技術と戦闘能力が必要。


・トキシックスライム: 毒ガス地帯に生息する紫色のスライム型モンスター。毒攻撃を得意とし、触れると毒状態になる。


・ポイズンスパイダー: 毒性の蜘蛛型モンスター。巣を張って獲物を待ち伏せする習性がある。毒牙による攻撃が危険。


・煙幕作戦: バタフライリーフの煙を利用してモンスターの動きを封じる戦術。ケンイチが過去の経験から編み出した独自の戦法。


・危険地帯適応: 有毒な環境や危険地帯での行動を助けるスキル。毒ガスなどの環境ダメージを軽減し、そのような場所での活動効率を向上させる。

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