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6、再会

 残る2人が、交互に俺に襲いかかって来る。それを避けながら俺は考えた。


 たったの一晩習っただけで、こんなに戦えるようになるものだろうか。


 大男達は、ボディガードか何かだろう。いわゆる『腕に覚えのある』人種、戦闘が仕事みたいな奴らだ。そいつらの動きが完全に見える。見えて、次の動きが読めて、どこを打つべきかが分かる。その上でこちらの攻撃が狙い通りに入る。


 確かにこいつらはトールよりは遅い。だからといってそう簡単には行かないと思うのだが・・・。


 考えながら、俺を捕まえ損ねてタタラを踏んだ1人目の大男の後ろを取ると、その首の後ろに回し蹴りを入れて気絶させた。


 あと1人・・・。


 騒ぎを聞き付けたのか、ギャラリーが増え始めた。モタモタしてると、人混みに紛れて取り逃がしてしまうかも知れない。


 急がなくては。


 そう思ったとき、3人目の大男が、ギャラリーの1人の腰から剣を奪った。そのギャラリーを肩で弾き飛ばして倒し、そして俺に向かって剣を構える。


 この世界では一般的な、両刃の長剣だった。二刀流のトールがメインで使っているのもこれと同じタイプで、昨夜少し戦い方を習っていた。それを思い出す。


「長剣は切り裂くと言うよりかは突き刺す、或いは叩き割る為の武器です。対峙する場合はなるべく相手から見た自分を細く見せた方が有利なので、構えはこうです」


 言いながら剣を片手で待ち、その手を前に構えて体を横向きにする。あれだ、三銃士とかフェンシングみたいな構え方だった。


「長剣と片刃の剣でしたら、片刃の方が有利と言われていますが、剣自体の重さでは負けているので、折られない様に注意が必要です。切り掛かって来たのを受けたら、可能な限り早く流して下さい。理想は、相手の手を打って剣を落とさせる。やってみて下さい」


 言われて何回も練習した。最初はゆっくり。徐々に早く。最後にはトールの剣を落とす事に成功した。


 3人目の大男の前で俺は、両手で持っていた剣を片手に持ち替える。そして左足を引いて斜に構えた。


 向こうが先に来た。長剣を両手で構えて、振り上げながら走って来る。視線が俺の脳天を見る。どこを狙ってるのかがバレバレだ。


 近付いて来た3人目の大男の間合に入る寸前に、俺は右足を大きく踏み込んだ。膝を深く曲げて姿勢を下げて、滑る様に進んで相手の下に潜り込む。


 俺がそのままの位置に止まっていると思っていたのだろう、3人目の大男は進み続けて止まれない。顔だけで俺を追いつつ、剣はさっきまで俺の頭があった場所に振り下ろされた。


 俺は、そんな様子を下から見上げつつ、3人目の大男の手を峰で打った。簡単に手から離れる長剣。ついでに足を引っ掛けて転ばせ、うつ伏せに倒れたそいつの後頭部を思いっ切り殴って気絶させた。


 ギャラリーが響めいた。その中からサリアが喜ぶ声が聞こえた。


「やったわ、アキラ凄い!」


 喜んでくれるのは素直に嬉しい。犯人とその関係者を捕まえられたのも良かった。でも、


 そう思いながら剣を鞘に戻し、そして俺は自分の両手を見詰めた。


 何で、こんな急に強くなったんだろう・・・。


 その時、ギャラリーを押し分けて俺の方へと向かって来る人が居る事に気付いた。


 トールだろうか。


 そう思って見ていると、1番前に居る人と人の間をグッと広げて、トールでは無い黒いフードの男が姿を現した。


 なんか、見た事ある気がする。


 そいつは、周囲の人に軽く会釈しながら前に出て来る。そして俺を見て、小さく手を振った。


 ・・・。


「久しぶりー、覚えてる?僕だよー」


 そう言ってフードを後ろに下ろす。中から現れる、見覚えのある容貌。


 のっぺりとした日本人顔。癖のない黒い髪を肩の辺りまで伸ばした長髪の、同年代の少年の顔。


「・・・ノワ、様?」


 それは、俺がこの世界にやって来たその日に、第3夫人の邸宅の前で出会った半神の少年だった。


「やだなー、アキラまで()って付けて。呼び捨てで良いよー」


 言いながら俺に駆け寄って来た。そして目の前に立つと両手を掴んで握り締められる。


「ゴメンね、一度帰って父さんに会ってたら遅くなっちゃった。事件解決出来た感じ?あはは、僕要らなかった?てかアキラ強くなったねー、流石()()()()()様」


 ニコニコと機嫌良く喋りまくるノワに圧倒されてしまう。けれども、分からない事が引っ掛かってしょうがない。


 ゴメンね?遅くなった?僕要らなかった?


 何の事だ・・・?


「えっと、」


「ん?」


「何で俺、謝られたの?」


 気になるのはそこだけじゃ無いが、とりあえず順番に聞いていこう。


「え?」


 逆に疑問を投げ掛けられる。


「いやだからさ、ゴメンねって言ったでしょ?家に帰ったら遅くなったって。何の事だか話が見えない」


 俺がそう言うと、ノワは「あー」と言いながら視線を斜め上に向けて首を傾げた。


「僕ね、時々王城に行くんだ。薬草師だから薬草を届けたりするの。あと孤児院の運営とかお手伝いしててね、その報告とかがあるから。で、この前行った時にさ、兵達が揉めてたんだ。何かなー?って思って聞いてみたら、帰って来た、ハザンって言ったっけ?あの護衛兵の代わりに誰がアキラの護衛をするのか揉めてたんだよ。みんな日本語が出来ないからヤダーって押し付け合い。酷いよねー。で、誰も行かないなら僕が行こうか?って言ったの。そしたら「是非お願いします」って言われちゃってさー」


「ハザンの代わり?ノワが?」


 ハザンが言っていた交代要員、中々来ないと思っていたら、そういう事だったのか。けど、代わりがノワ?こんな凄い人(神?)が一緒に来てくれるとか、良いのか?


「僕が護衛に付く事を知らせる手紙を送った筈だけど、来てなかった?変だなぁ」


 そう言ってノワが首を反対側に傾げた。その時、最初に気絶させた男が呻きながら起き上がる。


 まずい。


 そう思った時、ノワが「おっと」と呟きながらサッとしゃがんだ。しゃがんで地面に手を付いて、そしてグッと何かを掴む仕草をする。地中から現れる、黒い、影の様に揺らぐ、幻の様な鎖。並ぶテントの影に沿って伸びて、起き上がった男の腕と胴を纏めて縛り付ける。その鎖は一本だけでは無く、まだ気絶している3人の大男達も同様に縛り上げた。


 鮮やかな手腕に俺は「おー」と歓声を上げた。


「ついでにこっちもお願い」


 じいさんを引きずるサリアがこっちに向かって声を張る。


 そうだ、忘れていた。


「ノワ、あのじいさんも犯人の一味だから一緒に縛り上げてくれないか?」


 俺はノワにそうお願いした。そしてノワを見る。


 ん?


 その時のノワの様子を見て、俺は何事かと思った。


 ノワの目は大きく見開かれて、その瞳いっぱいにサリアが映っていた。


 サリアを映したままで足を一回トンッと踏み鳴らす。すると追加でもう一本鎖が伸びて、サリアが引きずっているじいさんを縛り上げた。合計5人が繋がれたその鎖を、ノールックで俺に手渡す。


「はい」


「え?あ、うん。ありがとう・・・?」


 疑問形でお礼を言う俺を全く見ずに、ノワはサリアの方へと歩いて行った。


「お怪我は有りませんか?」


 片手を軽く握り締めて自分の腰に回し、反対の手を胸に当てる。そのまま前屈みになってサリアと視線を合わせて、彼女の顔をすぐ目の前で見詰めながら笑顔でそう聞く。


「あ、はい。大丈夫、で、す」


 突然現れた知らない男に、謎に紳士的対応をされて引き気味でそう応えるサリア。


「もしかして、ノワ様ですか?現国王の甥の」


 その特徴のある外見から、ノワを見た人はすぐに彼の正体に気付く。以前そうトールから聞いていた。だからサリアも気付いたのだろう。


「はい、そうです。よくご存知で」


 そう答えて、サリアの手を取り、しっかりと握り締めるノワ。


 と、その時、ギャラリーがざわつき始めた。ノワの存在に気付いて騒がしくなったのかと思ったがそうじゃ無かった。国境警備隊を率いてトールがやって来たのだ。


 蜘蛛の子を散らすように居なくなるギャラリー。


 黙認されているとはいえ、真夜中の市は合法的な商売では無い。ギャラリーも、市に来ていた他の客達も、そして店を出している者達も、荷物を纏めて逃げて行く。


 後に残った、犯人達5人と、俺とサリアとノワ。


「アキラ、無事ですか?」


 俺を見付けたトールが大きな声でそう言う。俺は、トールに向かってノワから渡された鎖を掲げて見せた。繋がれた男達から小さな呻きが漏れる。その呻き声の中で、場違いな会話が響いた。


「特に怪我も無くご無事でしたら、この後一緒にお茶でもいかがでしょう?」


 ノワがサリアに向かってそう言う。


 ・・・これは、ナンパか?


「・・・は?」


 サリアの戸惑いの疑問符が響き渡った。

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