表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうせ異世界に来るのならもっと特別な能力が欲しかったよ  作者: まゐ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/40

21、シグナル

 ずっとデコが痛かった。正確にいつから痛み出したのかは分からない。けれども、この街に入ってからずっと痛かったのは間違いない。


 その痛みが強くなっていくのを、俺は焦りの中で感じていた。


 セーライ神殿、そこに近付くに連れて増して行く痛み。


 ナバラの森の前では、痛みと共に足がすくんだ。その足のすくみの原因は分かっている。


 神であるテラのオーラ。


 テラが静まる事によって、そのすくみは綺麗に消えた。デコの痛みもそれと共に、いつの間にか消えていたので、俺はその原因が同じだと思っていた。


 けれども今は痛みだけだ。


 足のすくみとデコの痛み、多分、その原因は違うんだ。


 恐らく、そのデコの痛みの原因は、あの時のナバラの森にもあったのだろう。


 そしてそれは、今()()にある。


 それが何にせよ、俺にとって歓迎出来る物では無いのだろうな、と思った。


 進むに連れて増す痛み。


 体が、()()()()()()と訴えている様な気がする。行く事で、何か良く無い事が起こる予感がする。デコが、警告を発している。


 でも、進まない訳には行かない。


 ココナを、彼女を止めなければ・・・。


 どうか、間に合ってくれ。


 祈りながら走る。走って分かれ道を右に曲がった。


「アキラ、こっちです」


 俺の後から続いていたトールが、その分かれ道で左側を示す。


 確かに左側に進めば、セーライ神殿への門があった筈だ。それは分かっている。けれども・・・、


 そっちじゃ無い。


 デコの痛みがそう告げていた。


 俺は、トールの声を無視して右側へと進む。


「アキラ?」


 戸惑いの声を上げるトール。俺は心の中で謝った。


 ゴメン。でも、急がないとダメなんだ。


 気持ちが急いでいた。


 そのまま進んで、次を左に、次の三叉路の真ん中を進む。左右の壁が消えて高い生垣になり、それが徐々に手入れのされていない単なる雑木になり、その木々の勢いが増して行って最終的には道が消えた。


 そこは袋小路で、行き止まり。けれども周囲よりも空気がひんやりとしていて、そこに至る迄とは違う空気が流れていた。


「アキラ、どこへ向かっているのですか。ここは・・・?」


 追いついて来たトールがそう聞いた。その後ろから付いて来たノワは、ただ無言で俺を見ている。


 ふと、冷たい空気の流れを感じた。その空気の流れの元を探す。左側、少し下の方。


『此方でございます』


 急に、その場にいない人の声が聞こえた。


 年老いてしゃがれた男の声。


『お急ぎ下さい。北東の方角と王都の側の村の外れで御座います』


 左下から、建て付けの悪い重い扉が開く様なギーッという音が聞こえた。そしてそこから、冷たい空気が一気に流れ出て来て、続けて木々の間から人の手がニュッと出て来た。その手が木々を左右に掻き分けて無理矢理道を作り、そこから人が現れる。俺のすぐ目の前、頭からマントを纏った男だった。


 近い・・・!


 そう思って焦る俺に、マントの男はそのままぶつかった。いや、ぶつからずに()()()()()・・・。


 なんだ・・・。


 驚き固まる俺を全く意に介さずマントの男は袋小路に出て、そしてその後からもう2人、同じ様なマントの男と、そして老人が続いた。


 老人は、生成りのローブと、何かの刺繍の入った布を巻いたブーツに、板前みたいな被り物を頭に乗せるという、かなり独特な格好をしていた。


 その全員が、俺をすり抜けて行った。まるで、俺がその場に居ないみたいに。


『後は任せた』


 2番目に出たマントの男が、老人に向かってそう言った。


 それを聞いて恭しく頭を下げる老人。腰を90度に曲げるその礼の仕方は、見た事がある。


 風が吹いて、2番目に出たマントの男のフードが少し捲れ上がる。中から覗く癖の無い黒髪と日本人然とした堀の浅い顔立ち。


 一瞬、ノワかと思った。間違い無くそれはノワの顔。けれどもその声はノワよりも低く、背はノワよりも高い。それによくよく見れば、ふっくらと張りのあるノワの頬と比べて、無駄な肉の剃り落とされた精悍な顔付きをしている。


 ノワが大人になったら、こうなるのかも知れない。


『陛下』


 先に出たマントの男が、急かす様にそう呼び掛けた。それに対して頷く、大人なノワ。


 ・・・待て。『陛下』って、王様とかに対する敬称だったよな・・・?


 マントの男達が、今俺達がやって来た袋小路を逆に出て行く。反対に老人が、今し方出て来た木々を掻き分けて、その中に消えた。


 気付くと、その3人共が消えていた。


「アキラ?」


 トールが、俺の肩を叩きながら呼び掛けた。


 俺はビクッとなってトールを振り返った。


「トール、今の・・・」


 今の、誰?


 そう聞こうと思った。けれども、トールの顔を見て俺は気付いた。


 俺にしか、見えて無かったのか・・・?


 今来た袋小路を振り返る。そこにいる筈の2人のマントの男の姿は無かった。


 過去を見たのか・・・、或いは未来か・・・。でも、何で突然・・・。


 少し考えて、そして思い至る。


 俺には()()が、()()()のだ・・・。


 ナバラで一度やった事だ。テラの過去を覗き見て、その代償として俺の未来を引き寄せた。


 恐らく、今見たのはこの場所の()()()()()()()()。多分、今の3人が()()とか、()()()()()()とかは、どうでも良いのだ。


 俺は、3人が出て来て、そして老人が戻って行った左側の木々を見た。木々の間に両手を掛けて、左右に一気に開く。木々は見た目よりもしなやかに曲がって、新しい道を作り出した。


 俺が、()()()()()()()()()だ。


 ココナを危険から守る為に、ココナが()()()()()()()()()()に行かせない為に。その為に、俺が先に()()に辿り着く必要があるのだ。


 現れた新しい道、木々を押し開いた先には、小さな扉があった。片開きの、縦に細長い扉。取手も何も無いその扉を、俺は押した。


 ギーッという音と共に冷たい空気が流れ出て来る。


「!、これは・・・」


 トールが息を飲み、驚きを含んだ小声でそう呟く。


 デコがズキンッと痛む。一瞬、前に踏み出すのを躊躇った。


 大丈夫だ。痛みはバロメータ。何かのシグナル。俺の体に、害は無い。


 自分にそう言い聞かせて、俺は足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ