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どうせ異世界に来るのならもっと特別な能力が欲しかったよ  作者: まゐ


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14/40

14、国境の騎士

 その後、その2人以外にもトールを知る人達(主に国境警備の若手の騎士達だった)が多く集まって来た。人だかりが通行人の邪魔になりつつあったので、後で騎士達が勤務する所へトールが顔を出すと言う約束をしてその場を何とか収めた。


 俺とノワとの突き合いはノワの勝利に終わり、そんな事を決めた覚えは無かったのだが、部屋まで俺がノワの荷物を運ぶことになってしまった。


 納得いかん。


「トールは人気者だな」


 部屋の前で、疲れた様子のトールを労う意味でそう言った。すると、トールは乾いた笑いを漏らしながら言った。


「ハザンが居れば、こうはならないのですが」


 それを聞いて、俺は「確かに」と思った。


 アイツ顔怖いからな。


 顔が怖い上に、塩対応してる様子が目に浮かぶ。ひと睨みして「散れ」とでも言いそうだ。


「優勝したの?何かの大会で」


 先程の会話を思い出しながら、俺はトールにそう聞いた。すると、トールは丁寧に答えてくれる。


「ああ、はい、少し前にあった闘技大会で、です。大した事は有りません。腕の立つ方々が誰も出ていませんので」


「そうなの?」


「ええ。騎士団における毎年恒例の行事で、各団体から代表者を2人ずつ出してトーナメント式で順位を付けるんです。入ったばかりの新人達は出場する事を目標に頑張ったりもしますが、特に賞品が出るでも無く、また勝利した団体に何かの利があるわけでも無いので、階級が上がるに連れて、皆さん時間の無駄だと避けるようになってしまうんです。ですが、誰も出ない訳には行かないので、毎年近衛からは私が出場していまして」


「それで『雷神』は毎年優勝している」


 ノワが自分の事のように胸を張ってそう言った。


 強い人が出てないとは言っても、毎年というのは凄い事なのではないだろうか。


「まぁ、祭りみたいなものですね。みんなで集まって剣技を披露して盛り上がって。良くも悪くもピエロです」


 そう言って少し笑い、肩をすくめるトール。


 謙虚なのか、はたまた本当にそれ程の事ではないのか。異世界人の俺には判断出来る事では無かった。


「賞品が無い訳では無い。でしょ?」


 俺とトールの間に割り込んでノワが言う。


()()()()に花を贈れる」


 目を閉じて胸の前で両手を組み、うっとりとした声を上げる。


「まぁ、そういうことになってますね」


 ノワの言葉に、トールは苦笑いを浮かべた。


()()()()?」


 またまた知らないワードが出て来た。疑問を呟くと同時に首を傾げる俺に、トールが説明してくれる。


「我々騎士は、結婚もしなければ恋人も作らないのが常です。ほとんどの者が家督とは無縁な為、その方が無用な争いを避けられるんです。市井に愛人を作り子を産ませる者もいますが、その場合も公にはせず、コッソリと養育費だけを渡すのが一般的です。代わりに皆、心に護るべき大切な存在(ひと)を置き、その存在(ひと)の為に命を懸けます。それはその騎士によって、国王であったり国そのものであったりもしますが、大概が高貴な女性で、王家の夫人、姫君や国の重鎮の奥方や、歴代の王妃や王女の方もいます。亡くなられてもそのまま思い続けられる方が多いでしょうか。因みに私の心の恋人はノワ様の母君です」


 色々と衝撃的な内容だった。


 結婚しないし彼女すら作らない上に、愛人作って養育費・・・。オマケに絶対に結ばれない人の為に命を懸けるという。


 俺、絶対騎士にはなりたく無いな。


「毎年母に花をありがとう」


 ノワがトールを下から見上げて微笑んだ。いつもみたいなあざとい作り笑いじゃ無くて自然な笑顔。


 こんな顔も出来るんだな。


 俺はそう思った。


「荷物を置いたら、食堂に行きましょう。ここで部屋を確保するまでに回った宿屋で、神殿の募集について聞いてきました。それらの事も含めて、今後の事を話し合えたらと思います」


 トールが言った。


「そうだな」


 俺は頷いて、そして荷物を部屋の中に運んだ。


 大きさの割に軽いノワの荷物の中からは、天日で干した草の香りがした。




「荷解きをしてから、少し祈りを捧げます。なので申し訳有りませんが食堂へは先に行っていて下さい。後から遅れて参ります」


 迎えに行った部屋の扉の前で、ココナはそう言って頭を下げた。


「祈り?」


 おうむ返しに聞く俺に、ココナは教えてくれた。


「神殿では、朝課、昼課、晩課、夜課と、1日に4回祈りを捧げます。奉仕や何らかの訪問で神殿を出ている際も、可能な限りそれに倣って祈りを捧げるよう努めているのです。けれども今日は、まだ一度も祈りを捧げていませんので」


 神官も色々と大変らしい。


「それはどれくらい掛かるの?10分位?」


 そう聞く俺に、ココナは眉を下げて困った顔をする。


「申し訳ありません。準備も含めて1時間少しでしょうか」


「結構長いね」


 1時間もあったら食べ終わって、話も終わってそうだ。


「じゃあさ、さっきの騎士達の所に先に行っちゃえば?」


 ノワの提案に乗ることにした。




 騎士達の詰所は、俺達が泊まっている宿と国境前の検問所と、問題のセーライ神殿とを線で繋いだ三角のちょうど真ん中辺りにあった。トールはここに何度か来た事があるらしく、迷う事無く俺とノワを案内してくれる。


「詰所と宿舎と、小さいですが訓練所が一緒になっていますので、若手や見習いが多く集っています」


 そう言うトールの足取りは重い。


 ・・・何だか行きたくないみたいだ。


「雷神は乗り気じゃ無いみたいだね」


 ノワがトールの前に回り込んで、顔を覗き込みながらそう言う。


「分かりますか?」


 立ち止まってそう答えるトールは溜め息混じりだ。


「苦手な人が居るんです」


 ちょっと意外だった。


 真面目過ぎる所はあるが、基本的に人当たりが良くて優しい人柄のトール。そんな彼にも苦手とする人が居ると言う事が想像し辛い。


「大体誰だか分かるけど、()()を得意とする人は中々居ないと思うよ?」


 ノワがフォローするみたいにそう言った。


 はぁ、とトールが大きな溜め息を吐いた時、詰所の扉が内側から開けられて誰かが出て来た。それはさっき宿屋の前でトールに声を掛けて来た2人組のうちの1人で、確かアリ・ド・カロンという名前だった。


「あっ、雷神!・・・っと失礼。バロー令息。来て下さったのですか?!」


 出会い頭に憧れの人がいてかなり焦った様子のアリ。驚きはしたものの、声からは嬉しさが溢れ出ている。何だか微笑ましく見えてしまう。


 そのアリの声を聞き付けて、中から他の騎士達も顔を出して来る。それぞれが興奮した様子で、みんな喜んでいるように見えた。


「首元に刺繍が入ってるのが分かる?」


 囲まれたトールを少し離れて見ていると、横からノワが話し掛けてきた。


 言われて、集まって来た騎士達の鎧の首元に覗く制服のカラーを見てみる。と、確かにそこに刺繍をしてあるのが見えた。葉の生い茂った大木の刺繍で、トールのは銀の糸。ここの騎士達の者は殆どが緑色で、1人だけが水色だった。


「あれが騎士の等級を表してるんだよ。1番下が緑で5等から3等。その上が水色で2等、1等と特等。もう一個上が紫で3級から1級と上級。1番上が銀で士長・正長・総長。トールは銀で士長騎士。近衛は士長以上じゃないとなれないんだ」


「へぇ・・・」


 俺はノワの説明を聞いて、今目の前にいる騎士の中でトールが1番上の存在なのだと言う事を知った。


「モチーフは銀星樹という伝説上の聖木。それを国を支える6大公を示す6角形で囲ってある。騎士団のエンブレムだよ」


 その説明を聞きながら、俺はその刺繍を見詰めた。


 何だか、今まで近くに感じていたトールが遠い人のように感じてしまう。


 沢山の騎士達に慕われ、憧れられるトール。


「アキラ、ちょっと中で稽古を見てあげる事になってしまいまして」


 囲まれた中から、トールの困った声が聞こえて来た。


 トールは優しい。頼まれたら断れない性格だ。


「行こっか」


 ノワがそう言って扉に向かって行く。


 若手の騎士達に引っ張られるように中に入って行くトール。それを追いかけて行くノワに続いて、俺も中へと入って行った。

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