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 1943年11月26日アドルフ・ヒトラー総統は、東プロイセン州のインスターブルクにある飛行場に展示された新兵器の視察に赴いた。そこで、地上展示のメッサーシュミットMe262を見たヒトラーは、そのジェットエンジンによる高速性能に、防空用の局地戦闘機としてではなく、攻撃機、軽爆撃機としての価値を見出した。Me262を攻撃機、軽爆撃機として生産させようとしたヒトラーに、エアハルト・アルフレート・リヒャルト・オスカー・ミルヒ空軍元帥は、「総統閣下。Me 262 が、爆撃機ではなく、戦闘機であることは、どんな子供でも分かります」と反論した。


 そこから、アドルフ・ヨーゼフ・フェルディナント・ガーランド空軍少将が、戦闘機として生産するようヒトラーを翻意させることに成功する。ヤマブシを乗せた2人乗りのMe262を、対艦・対空・対地攻撃の誘導爆弾、誘導ロケットの誘導標準機として用いることを提案したのだ。そして、その偵察や、その護衛の戦闘機をMe262で揃えることも。Me262で飛んだことのあるガーランド自身は、「Me262が普通の爆弾をばら撒いたとしても、そんなものが当たるはずがない」と、本土防空用の局地戦闘機としての運用を念頭に置いていた。


 ジェットエンジンの高高度での高性能の利点を捨てるような、ヒトラーの主張する地上攻撃、爆撃任務など、戦闘機隊総監にして、本土防空作戦の指揮を取っていたガーランドには容認できるものではなかった。連合国軍の昼夜を問わない爆撃が、ドイツ各地に損害を与えていただけでなく、枢軸側の同盟国にも、その牙を剥いていたからだ。1943年7月から8月にかけて行われたハンブルク空襲で、ヒトラーは、ドイツ空軍への防空任務ではなく、英本土への報復爆撃を命じていた。インスターブルグで、ヒトラーは、英本土への報復爆撃を撤回することになる。


 11月になると、中国華北からフランス領インドシナを突破する作戦距離2400kmにも及ぶ”一号”作戦と、それと連動するイギリス領インド帝国インパールを確保する”ウ号”作戦共に成功裡に終わったことが、日本陸軍から伝えられていた。日本海軍による一連のインド洋通商破壊作戦は、ベンガル湾、アラビア海から、ケープタウンの港を空襲するまでに至っていた。そして、8月31日のヤマブシ40名の到着によって、ヒトラーの西部戦線の防衛戦略に変化が現れていた。



 7月上旬に、“ツィタデレ(城塞)”作戦の中止が決まると、東部戦線の枢軸軍は、ゆっくりと秩序だった後退を始めていた。月産1500両近い戦車生産量のソ連を相手にした時間の経過とは、相対的に、ソ連を利するだけだ。訝しみながらも、ソ連軍は、枢軸側の撤退した地域を回復していく。そして、11月になると、少しずつ撤退を続けるドイツ軍の攻勢防御に組み込まれたヤマブシの与える損害が、ソ連の戦車の月間生産量を上回る勢いになっていた。日本の連合国側への攻勢が続き、アメリカやイギリス、カナダからの援助物質も滞り始める。ソ連は、援助物資の再開どころか、公に対日参戦を求められるようになっていた。


 東部戦線での攻勢防御は、ティーガーI重戦車で構成される独立重戦車大隊を中核に、航空偵察写真の解析結果により、「パツィーフィク(太平洋)」1個小隊から4個小隊を組み込んで、ドイツ陸軍または軍団直轄の作戦として実施されている。塹壕や対戦車砲など、航空写真に写っているものは、16cm誘導迫撃砲弾によって、たちまちに消えていった。戦車や装甲車などの戦闘車両や、トラクターやトラック、ジープなどの軍用車両も、例外ではない。陸軍や武装親衛隊では、「パツィーフィク」の存在を隠蔽する為に、重迫撃砲で破壊された車両には、偽装の為の戦車砲やパンツァーファウストを撃ち込んでいた。


 ドイツ陸軍の16cm重迫撃砲の射程距離が短いので、大口径の多連装ロケットランチャーのロケット弾に、”ねじ込み式誘導部品”を組み込もうとしたが、他国の安定翼と異なり、ロケット推進を用いて回転しながら飛ぶスピン方式では上手くいかなかった。”ねじ込み式誘導部品”を取り付けられる安定翼のついたロケット弾が、レール上にある発射機を開発するのは容易だったが、「パツィーフィク」の存在を暴露するのを恐れて、15cmと30cmの新型多連装ロケットランチャーは後方で秘匿している。


「KVやT-34を撃破しすぎたのか、T-60や軽装甲車が出てくるようになったな」

「どうでしょう? KVやT-34は、後方で数を揃えているのかもしれません」

「それじゃあ、前線に出てきているのは、連中が言うところの”2人乗り棺桶”というわけか」

「こっちのパンターも、故障ばっかりですからね。まだ使えるようになるには、時間がかかりそうです。それにしても、あの陸軍総司令部(OKH)直轄のフェルディナント部隊ですが、いつになったらご自慢の71口径を撃ってくれるんですかね?」

「知らん。大規模な反抗作戦とやらまではお預けらしいが、それもいつのことやら……」

「見た目も、俺らのティーガーよりも(いか)ついんですよ? それなのに、何もしないで撤退だけするなんて、燃料が勿体無いだけじゃないですか?」

「そう言うな。俺たちのティーガーも、フェルディナントも、右から左へと簡単に動かせるようなもんじゃない。いざという時の備えと思っておけばいいさ」

「まだ生まれていない卵を気にかけるなと言いますよ? 少佐」

「何もないよりは遅れてくるほうがましとも言うだろう? 中尉」


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