お土産でくれた宝物の話
グル企画
ワンドロ小説
お題は「東京タワー」「宝物」「はさみ」
みなさんは、ありがた迷惑なお土産をもらった事はあるだろうか。
純粋な行為と親愛からもたらされる、激しくいらないお土産。私の友人だった彼女はそういった物をよく「お土産!」とかわいい笑顔でプレゼントしてくれた。
親しい友人からのプレゼントならあんだって嬉しい。そう思うし思いたいが、まあやっぱいらないものはいらないと私は思うのだ。へんな色と味のよく分からない飴、時計すらついていない東京タワーのミニチュア、一週間前の新聞、おばあちゃんが使ってそうな小さい和ハサミ、カニの甲羅。
「この子はもいもい!」
お土産には全て彼女が付けた名前があった。因みにもいもいはちっちゃいハサミだ。私は使い道の全く思いつかない黒いハサミに戸惑いながらも「ありがとう、よろしくねもいもい」と受け取る。流石に新聞紙は一回読んだ後鍋敷きかなにかに浸かって捨てたが、他のはなんとなく部屋に飾って「全く変なやつだよっ」と呟きながら笑っていた。迷惑だと思いながらも、確かに私にとって宝物だった。
そんな彼女とも、中学以降は引っ越してしまった事もあり、徐々に連絡は途絶えていった。
私は結婚し、実家を離れ、すっかりその友達の事は忘れていた。しかし母が無くなり、久々に実家に帰って来た私は夫と共に家の整理を始め、私の部屋の押し家にしまってあった、その子からのお土産を見つけた。
「なつかしい……」
ハサミなどは錆も来ていないようで、東京タワーのミニチュアと共に持って帰る事にした。まさか私が裁縫を始めるなんてと思ったが、今は趣味でもちょいちょい裁縫やフェルトなんてやっている。手に馴染む小さなハサミはちょっと糸を切るのによさそうで、ありがたく使わせて頂く事にした。
そして、変な事が起こるようになった。
そのハサミを持っている時に気付いたのだけど、糸が見えるようになった。細く、カラフルで、長さも色々な糸。持っている時だけ見えて、離すと見えなくなった。
試しに旦那に持たせてみたけど、見えないよ、と彼は笑うだけだった。
年を取ったせいかあまり驚かなかった私は、その謎よりも、その綺麗な糸を眺めるのが好きになった。
「アナタの意図は深い緑ね。私よりちょっと短いわ」
「へえ、なんなんだろうね」
彼は笑っているけど、信じてはいないようだった。ちょっとしたイタズラくらいに思っているのだろう。
その時、ちょっとした好奇心が湧いた。
この糸、切ったらどうなるんだろう。
そんな事を彼に言えば、じゃあ切ってみなよと笑う。
ほんとに切っちゃうよーと私も笑い、チョキンと切った。
そして、彼が無言で崩れ落ちた。
「アナタ!」
すぐに抱き起そうとして、その重さに驚いた。息を確認し、していない事を確認して思わず叫んだ。
そして、ハサミを見つめた。彼が倒れたのはあのハサミを使って糸を切った直後だ。私の頭がおかしいだけかもしれないが、関係ある様にしか思えなかった。私が殺してしまったのかなと考えて、悲しみと恐怖で体が震えた。
「助けて、かなちゃん……」
思わず呟いた。あの不思議な友人の名を。
その時、リビングの床が、不思議な文様と共に光りだした。
そして現れたのは、昔の記憶のままの姿のかなちゃんと、かなちゃんにそっくりな女の子だった。何故かかなちゃんの頬はすっごいハレていた。
「この度は誠に申し訳ありませんでした」
「でしたっ」
隣の女の子が頭を下げ、既に土下座スタイルだったかなちゃんも頭を下げた。
「そのハサミ、アトロポスの鋏なんです。貴女が切った糸は、生命を具現化した糸で、それをそのハサミで断ち切った為に彼は死んでしまったのです」
死んだ。私が殺した。
なんてことをしてしまったのか。
不思議とかなちゃんを恨むみたいな気持ちは湧かず、よく分からないものを不用意に扱った自分をせめた。なんとなくやばいかもという気持ちは確かにあったのに。
「まあ元気だしなよみくちゃゴッフォェ!!」
慰めようとしてくれたかなちゃんの横腹を思い切り蹴った隣の姉妹?の子は、申し訳なさそうに言った。
「辛い思いをさせてごめんなさい。でも大丈夫です。その東京タワーをお持ちでいてくれたので」
「え、これ……?」
「はい、それはタワー神宮のミニ版ですけど、願いは届きます。一回だけ」
そういわれ、すぐに祈った。
旦那を生き返らせて下さい!神様!
ふっとその東京タワーの置物が光り、頭に確かに声が響いた。
願いは聞き届けたり
「……あれ?なんで俺寝転がってんだ?」
そして彼は、不思議そうに言って私を見ていた。
彼女達は、消えていた。
あれから数日して連絡があり、改めてかなちゃんに謝られた。
あれらのお土産はほんとの意味で宝物だったようで、外の物も何かを宿しているらしく、丁重にお返しした。因みに新聞紙はほんとにただの新聞紙で、そこに乗っていたとある事件の当事者だったらしく、自慢したくてくれたようだった。
なんともお騒がせな事件だったが、そんなすごいものをくれていたという事に気付き、嬉しくなってしまった私は彼女を許し、そのせいでまた事件に巻き込まれる事になるのだが、それはまた、別の話。