第006話 治癒魔術ダメ、絶対。
「そこまで驚かなくてもいいだろ?」
「兄さんいつの間に!?」
「何を言ってるんですか!? 霊力がなかったはずの秋水君がいきなり《《使えないはずの》》術を使えば誰だってこうなりますよ!!」
「そうよ!! シュウ君は一体いつの間に治癒術なんて覚えたの!?」
露骨に驚く三人に対して若干引きながら言えば、父さんと母さんが俺に詰め寄る。
そういえば俺って霊力ゼロだから本来陰陽術が使えないのか。
魔術は俺にとって当たり前に使えるモノだったからうっかり忘れていた。
魔術って言っても分からないだろうし、治癒術を覚えたということにしておいた方が良いだろう。
「今日かな」
一応記憶を思い出したのが今日だし、鬼一秋水になってから初めて使ったのも今日だ。だから、今日が使えるようになった日ということにしておこう。
数百年前なんて言ったところで信じてもらえないだろうし。
「一体今日何があったんですか!!」
「どういうことかちゃんと説明しなさい!!」
首を傾げながら答えれば、二人から更なる追及が重なった。
流石に二人とも近いっての。
「ほら、今日転んだって言ったじゃん。あの時ピーンって閃いて使えるようになったんだよね」
「そんなことあるのかしら……」
「それはごもっともですけど、実際使えていますからね……」
俺は二人を押し戻して適当な言い訳を述べると、二人は顔を見合わせて俺の言葉を疑問視しながらも、術を使ったのは間違いないので否定できずに黙り込んでしまう。
「おいおい、別に骨折を治すくらい他の術士でもできるだろ?」
「何を言ってるんですか!? そんなことできるわけないでしょう!!」
俺が軽い気持ちで尋ねたら、父さんが血相を変えて否定した。
「えぇ!?」
「そうよ。治癒術は希少な能力なの。適性がなければ使えないはずなのよ。基本的にとある一族とその系譜に連なる家系の陰陽師だけが使うことが出来る、ということになっているわ。それがどういうことか分かる?」
母さんが父さんの言葉を引きついで治癒術ついて説明した上で俺に問いかける。
うわぁ……。
陰陽師のことを知らなかったとはいえ、まさかこっちで治癒魔術に当たる技術がそれほどにレアな力だとは思っていなかった……。
これは三人が驚くのも当然だ。
異世界では魔術師なら《《大体》》使えるからなぁ。
「前代未聞で滅茶苦茶目立つ。その上その家系の息もかかっていないから争奪戦になる?」
俺は自分がやらしてしまったことを実感しながら、母さんの説明を聞いた上で思いついた内容を返した。
「そう。そういうこと。よくできました。もしかしたらその家系の人間が取り込もうとしてきたり、無理なら命を狙ってくる可能性もあるわ。だから今後誰かの前で治癒術は使っちゃダメよ」
「マジかよ……」
母さんは俺の答えに満足そうに頷きつつさらに補足しながら忠告する。俺は呆然とするしかなかった。
家族の危機を救ったのに危うく俺が目指す普通の幸せの道が一瞬で潰えるところだった。
危ない危ない。使ったのが家族の前で本当に良かった。次から本当に緊急事態の時と家族しかいない時以外で治癒術は使わないように気を付けよう。
俺は普通の幸せのためにそう心に誓った。
「それから言っておきますが、一般的な治癒術はあんなに一瞬では治りませんからね」
「……」
さらに追い打ちをかけてきた父さんの言葉に俺は何も言えなくなった。
まさか《《一般的な魔術師でも使える》》ただのヒールでこれほどの事態になるとは思わないだろ普通。
この調子じゃ四肢欠損も一瞬で治るパーフェクトヒールなんて使った日には蜂の巣をつついたような大騒ぎになるに違いない。さらに上のアレなんて使用したらヤバいことになるのは目に見えている。
治癒魔術ダメ、絶対。
これを俺の人生の指標にしていきたいと思う。
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