表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第001話 子供を助けても異世界転生はしない

鬼一きいちまた明日な」

「ああ。また明日」


 高校のクラスメイトに手を振り、帰宅部の俺は教室を出る。


 季節は残暑の残る九月。辺りは黄昏に染まる頃。学校の外に踏み出すと生温い風が肌を撫でた。


「わぁ~」

「きゃっきゃ!!」


 帰り道の途中の公園では子供たちが遊んでいる。


 長閑な風景だ。こんな光景が見られるのも陰陽師達が人に害を成す"あやかし”から守ってくれているからだ。


 妖というのは妖怪や悪霊と呼ばれる人に害を成す存在たちの総称のことだ。小さな妖でも数十人単位で犠牲が出るのはよくあることだし、大きな妖ともなれば町規模での被害が出る。


 そんな凶悪な妖を調伏して日本を守護しているのが、高い霊力を持ち、妖に対して対抗手段を持っている陰陽師と呼ばれる人間たちだ。


 俺もれっきとしたその陰陽師の家系の長男だけど、全く霊力がないことが分かってからはそっちの訓練や教育は一切されなくなり、一般人として育てられた。


 そのため、陰陽師に関しての知識も能力もないに等しい。


 ただ、その平穏は非常に危ういバランスの上に成り立っている。ちょっとした出来事でその均衡が簡単に崩れてしまうくらいには……。


「「「「「きゃー!!」」」」」


 通り過ぎようとしていた公園から多数の悲鳴が上がった。


「~~!?」


 俺はビクリとして思わず振り返る。


 そこには成人男性よりも背が高く、プロレスラーよりも筋骨隆々な、二足歩行の緑色の肌を持つ存在が、まるで粒子が集まるように徐々に体を構成している光景があった。


 頭には天に向かって伸びる二本の白い角が生えており、般若のように恐ろしい顔に、獰猛そうな真っ赤な瞳を持っている。それは、まさに鬼と呼ぶにふさわしい容姿だ。


 その手には、もはや一本の木と言ってもいい程の太さがあるこん棒が握られていた。


 そいつの数メートルほど前には、腰を抜かして動けなくなってしまった小さな子供が鬼を見上げて恐怖で涙を流している。ただ、あまりの怖さに顔を引きつらせ、泣き叫ぶことすら忘れていた。


 どうやら逃げ遅れてしまったようだ。


「くそっ!! なにやってんだ!!」


 俺は静かに叫ぶ。


 その言葉は、逃げようとしない子供よりも、その子供を助けるために鞄を投げ捨てて駆け出した俺に向けて言い放った言葉だ。


 霊力がない俺があの鬼に敵う可能性はゼロ。明らかに無謀でしかない。それなのに小さな子供を放っておくことができず、足が勝手に動いていた。


 俺は全速力で子供に向かって走る。


「グォオオオオオオオオオオッ」


 完全に体が構築された鬼が咆哮を上げた。奴が視線を落とし、目の前にいる子供を見つけると、ニヤリと口端を釣り上げてこん棒を振り上げる。


「くそっ」


 子供まで残り三メートル。


 足がちぎれてしまいそうな程に痛むが、構うことなく力の限り駆け抜けてヘッドスライディングするように飛び込み、その勢いのまま子供を突き飛ばした。


 その瞬間、世界がスローモーションで動き出す。


 視線を上に動かすと巨大なこん棒が俺めがけてゆっくりと落ちてきていた。


 動け!! 動け!! 動けぇええええええええ!!


 必死に心の中で叫んで体を動かそうとするが、周りの景色同様にゆっくりとしか動かすことができない。俺は躱すのを諦め、なんとか防御しようと必死に腕を動かす。


 ――ドゴォオオッ


 徐々に落ちてくるこん棒。俺に当たった瞬間に世界のスピードが元に戻った。


 ――ボキボキボキボキッ


「ぐわぁあああああああっ!!」


 辛うじて腕を頭の上でクロスすることが出来たが、こん棒を叩きつけられて骨が折れる音が脳内に響き渡り、激痛が全身を襲った。


 俺は地面をボールのようにバウンドして転がっていく。痛みで朦朧とする意識の中、変な映像が頭の中に走馬灯のように流れ始めた。


 それは剣と魔法があるファンタジーな世界で大賢者と呼ばれた男の人生。


 その名もアルフレッド・ソロモン。その男は魔術を極め、膨大な魔力を持つ最強の人物だった。


 俺はその映像がなんなのか感覚的に理解した。その大賢者は何を隠そう俺の前世の姿。それと同時に魔術の記憶が蘇る。


「パーフェクトヒール」


 俺は自然に呟いていた。体の周りを淡い光が包み込み、次の瞬間には体中から痛みが消えた。


「どうやら問題ないみたいだな」


 折れたはずの俺の体の骨は完全に元通りになり、鬼から受けた傷なんてなかったみたいに綺麗さっぱりなくなっている。


 この世界でも問題なく魔術を使えるようだ。


 俺は《《魔力によって身体強化を施し》》、ヒョイっと飛び起きた。


「よくもやってくれたな」


 俺は左手で右肩を押さえ、右腕をグルグルと回しながら鬼に向かって歩き出す。しかし、鬼は俺に目もくれず再び子供に向かってこん棒を振り上げていた。


 子供は俺が突き飛ばしたせいか気を失っている。


「人がせっかく助けた子供だというのに何をするつもりだ? プロテクション」


 俺は鬼に文句を言いながら子供に向かって掌を向けて魔術名を唱える。その瞬間、子供の周りに半透明のドームが形成された。そのドームは結界であり、外部からの攻撃を防ぐ効果を持っている。


 もう攻撃を始めていた鬼は、こん棒をそのまま結界に叩きつけた。


 ――バギィイイイイイイッ


 結界に阻まれたこん棒は、その頑丈そうな見た目とは裏腹にあっけなく折れてしまう。


「たいした事のない武器だな。硬化魔術くらい付与しろよ」

「グォオオオオオオオオオオッ」


 俺が武器に何の工夫もしないことに呆れて首を振ると、こん棒が折れたのが俺のせいだと気づいた鬼が、苛立たし気な表情を隠さずに襲い掛かってきた。


「ただ突っ込んで来るなんてゴブリンと同じだぞ? ファイヤーボール」


 複雑な動きもなく、ただ直進してくる鬼に対して掌を向けて別の魔術を唱える。その直後指の先からゴルフボール大の炎の球が発射された。


 ――ボッ


 その炎は弾丸よりも速く突き進んで鬼に着弾。


「グォオオオオオオオオオオッ!?」


 その部分から一気に燃え広がって鬼の体を真っ赤な炎が包み込んだ。


 五秒後。


 そこには塵一つ残っていなかった。

お読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ