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スカイダイヴ  作者:
1/1

雲海よ、世界を飲み果てろ

極光とはこのことだろう。静かなる雲海の日の無き暗き世界に、数多の光が交差する。それはまるで雷のようであり、また、雲の切れ間より射す日光のようでもあった。


 瞬く存在の正体は黒鉄の体躯。


 この世界、ラドニア雲海を制す覇者の機械。


 死の雲海を滑るように走るその姿はさながら、海上を駆ける船の様にも見える。


 乗り込むのは人間はではない。人間の形を模した人形である、はずである。


 が、


 その一つに今、一人の少女が搭乗していた。


 名はカテラ。この世界に生まれ落ちたばかりの旧人類である。




「くそっ…なんでこんなことに!」



 コクピットで悪態をつく。しかしぼやいたところで状況は変わらない。


 私は目覚めた時からここにいた。正確にはこの機体の中にである。


 眠ってからどれだけの時間が過ぎたのかは分からないが、少なくとも、数百年は時が過ぎている。なぜならば、機体のモニターに映る時間の数値が計測不能になっているからだ。


 それにこの機体は式典用で非武装な上に装甲も丸裸に近い。


 しかもだ、星の環境は一向に改善していないうえに悪化している。


 私が眠った時はこんな暗闇ではなかったはずだ。太陽はまだ健在だったはずで、闇に包まれた世界ではなかったはずだ。


 私を追ってきている機体は恐らくだが、ミツミネ機関で開発中だったはずの侵食する雲海を移動できるスケート靴を履いた人型兵器『ライドギア』。


 徐々に距離を詰めてきている。このままでは追いつかれるが、相手の意図が不明だ。


 式典用の機体に何を求めているというのか。それとも狙いは私なのか?


 冷凍睡眠から起きたばかりの人間に何を欲しているのか分からない。


 相手の機体は武装しているのは、先ほどから鳴り続けているロックオンアラートで分かる。だが攻撃はしてこない。こちらからの無線通信も無視し続けている。


 いい加減、どうにかしたい状況だった時、急に通信にノイズが走る。



「こえて…いる?あ…こしで…」



 ノイズ混じりに聞こえてくる声は男の物だ。モニターの索敵領域に青のピンが立つ。味方の反応だった。二機いる。



「どこからの通信!?誰でもいいから何とかして!」


「…了解!、そのまま飛び続けろ!回避行動はとるな!」



 ノイズを押し越えて返事が聞こえた。


 次の瞬間、一瞬のアラートの後、雲海の影から光が見えて、私の機体を掠めるかと思うような位置から閃光が煌めく。


 次には後ろに詰めていた機体を一機撃墜していた。後ろの機体群がばらけるように散開したが、判断が少し遅かったようだ。


 ばらけた位置にあらかじめ予測していたような攻撃が遠くから着弾し、瞬きの間には、あれだけいた機体群は全滅し、雲海に沈んでいった。



 目の前に辛うじてわかる程度だが赤い色の機体が雲海の影から姿を現した。


 私の乗っている機体より、一回り程大きい。私の時代の、いうなれば旧時代の兵器、通称『滑空機・偽装(ダミー)ギア』だった。


 静かに近づかれ、マニピュレータから飛び出した有線通信の糸が私の機体に張り付いた。



「無事で良かったよ、同胞」



 今度ははっきり聞こえる。若い男の声だった。分からないが歳でいえば私とそう変わらないだろう。



「状況が把握できない。貴方たちは誰?ここは何処?あいつらは何?」



 ありったけの質問をぶつける。ようやく手の汗は引いてきて、ちょっとだけ落ち着いて来た。



「まあ、ソレらの話は家に着いてからでいいだろう。君の機体はライドギアだ。ホッパー無しでも飛べるだろ。道案内はする。ついてきてくれ」


「わかった…」



 赤い機体が先行して飛ぶ。遠目に、青い機体が見える。ズームして確認すると長距離戦用の狙撃銃のような武装を装備している。先ほど、機体群に射撃を撃ち込んだのは恐らくあの機体だろう。



「安心していい、あの青い機体も僕の仲間だ。シュナ、挨拶は?」



 男の声に反応したのか青い機体はこちらに振り返り、敬礼して見せた。私もマニピュレータを操作してぎこちなく敬礼する。


 くらがりの雲海は相変わらず闇に包まれており、うっすらと見える月明かりと機体を巡る光だけが光源だ。


 私の機体を守る様に配置しているこの二機は明らかに旧式だ。偽装ギアが背中に積んでいるコンテナのような冷却装置と、足元に見えるホッパーがそれを物語っている。



「こんな…」


「こんな旧式で良く戦えたものだって?」


「いや……、そうだな…」



 言葉を当てられて反応に詰まる。



「いやいや、君がいてこそ出来た作戦だ」


「囮が居たからってこと?」


「そうだね。それもあるかもしれない。いやいや、冗談。本気にしないでくれよ」


「…ふん」


「僕らのギアは偽装ギアだがパイロットは凄腕だからね。自分でいうのもなんだけど」


「シュナって子も?」


「シュナはまだ半人前。特技が狙撃ってだけであとは凡かな」



 それにしては良く三機も落としたものだ。私が乗っているライドギアの索敵範囲外からの狙撃だった。通常ならあり得ないほど熟練していなければ出来ない技量だ。


 青いギアはマニピュレータを器用に操作し、やれやれと言った風の動作をしている。



「まだ着かないの?」


「もうすぐ『(アウト)』だ。そこに赤の戦艦がある。あと少しだよ」



『滝』とは雲海に点在する円形の大瀑布、奈落の事だ。落ちれば、命はまずないだろう。通じるのは世界が、ひいては地面があった場所で、現在は『輪廻の底(エンドライン)』まで真っ逆さまである。


 そんなところに船、いや戦艦があるというのだ。少し訝し気になる。



「随分辺鄙な場所にあるんだね、赤の戦艦とやらは」


「正確には戦艦じゃない、戦艦群だ」


「戦艦群?」


「さ、見えて来た」



 モニターに映る光景に私は絶句した。大中小様々な戦艦が滝の中心に集まっている。


 くらがりの世界が光り輝いており、まるで星の様だ。



「ようこそ。ここが数多の星々、戦艦群『クォーレイス』」


「クォーレイス…」



 見惚れている私を、若い男の一言がこの世界の現実を突きつける。



「人類の安住の地、『ラスト・エデン』は滅び去った。ここが唯一の楽園だ」

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