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約束と契約2  作者: オボロ
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#5 B・B達の奮闘



「まずは、森の中に道を作ろう。」


B・Bは、マリアがリュックの中から取り出したジャージの上下を受け取り、それをじっと見つめながら、今しがた心に決めたことを口にした。


「そうですね。そうしないと、わたし達の身が持ちません。」


ノラも、ジャージの上下を受け取り、それを抱き締め、実感を込めて言った。


マリアに触れたことで、B・Bと使い魔達は、30分ほど、全く動けなくなった。

B・Bと使い魔達にとって、マリアに触れることは、それくらい、辛い思いをすることなんだと、マリアは、改めて知った。

しかし、それを繰り返すことで、いずれは、神社に入ることが出来るのだから、耐えて欲しいとも、思った。


「道具はこれ。」


マリアは、リュックの中から、軍手と熊手と鎌と斧、トングとビニール袋と、麻袋を取り出した。


「これを手にはめて、草を掴んで引き抜くの。引き抜けない草は、これで刈り取る。枝とか木とかは、これで叩いて、折ったり切ったりするの。この道具は、ある程度の力が必要だから、B・Bが使った方がいいわね。どっちも怪我をしないように気を付けて使うこと。いいわね?抜いたり刈ったりした草は、これで集めて、これで取って、この袋に入れる。折ったり切ったりした枝や木は、こっちの袋に入れる。袋がいっぱいになったら、こっちの袋は、ここをこう結んで、こっちの袋は、ここをこう引っ張って口を閉じるの。そして、それぞれ新しい袋を広げて使う。これの繰り返し。わかった?」


一つ一つの道具の使い方を、身振り手振りで教えていくと、意外にも全員がすぐに理解した。


「こういう草は、これで……えいっと…、あぁ抜けた。」

「抜けない草は……っと、へぇ、簡単に刈れるんだな。」

「この辺の草は、こうやるといいかも。」

「抜いた草と刈った草は、これで集めて……。」

「これで取って……あ、掴めた。で、袋に入れる。簡単じゃん。」


鎌は3本あるので、全員が何かしらの役目につくことが可能だった。


「この辺りから森を抜けるまでの間の草と木を、まずは片付けることから始めよう。」

「枝や木は、B・Bに任せるとして、草を刈るのは、僕とヴィゼとクロ。集めるのがドドで、袋に入れるのは、バト。これでいいね。」

「ま、妥当だな。」

「クロは別の遊び見つけて、サボらないでね。」

「誰がサボんだよ。」

「が、がんばるよ、ボク。」


B・B達が、自分達で考え、やるべきことに大体の見当をつけたことを見届けたマリアは、手籠の中から包みを取り出し、B・B達の前に広げた。

包みの中には、重箱があり、重箱の上にはおしぼりがあった。

更に、マリアはお盆を取り出し、ポットと紙コップを並べた。


「これはおにぎりです。」


マリアは、重箱のふたを開けて、言った。

重箱の中には、綺麗に並んだおにぎりが12個入っていた。


「このおにぎりは、わたしの叔母に当たるまどかさんが作ったものです。これはおしぼり。このおしぼりで手を拭きます。綺麗にした手でおにぎりを掴んで、口に運んで食べてください。1人2個です。このポットにはお茶が入っています。日本茶と呼ばれる緑茶です。このコップに注いで飲みます。」


一通りの説明をして、マリアは、おしぼりをB・B達に一つずつ配った。

お盆の上に並んだ紙コップに、ポットのお茶を注いで見せる。


「おにぎりと一緒に、このお茶もどうぞ。人が思いを込めて作ったものには力があります。このおにぎりを食べれば、おばあちゃんが言っていた言葉の意味が、きっと分かるはずよ。ゆっくりと、味わって食べてね。食べ終わる頃に、また来るわ。」


全てを言い終えると、マリアは立ち上がった。

立ち上がったマリアを見て、B・B達は慌てた。


「まさか、1人で戻るつもりか?」

「ええ。」


「無理だろう?」

「……ありえない。」

「あんだけ大騒ぎしたのに?」

「バカなの?」

「やめた方が良いと思うな……。」


「随分じゃない?」


口々に反対するB・B達に、さすがにマリアはへこんだ。

大丈夫だと、胸を張って言えないことも、情けなく思った。


「とにかく、無事に戻れそうな所までは、一緒に行く。触れなくても済むように、何かを持って行こう。」


B・Bは辺りを見回し、落ちていた長くて太い木の枝を拾って、マリアに渡した。


「これで、足元の確認をしながら歩け。もしも倒れそうになったとしても、触れずに支えられるよう、わたしはこれを持って行く。」


B・Bが手にして見せたのは、二股に分かれた太い木の枝だった。


マリアは木の枝で足元の確認をしながら、ゆっくりと慎重に森の中を進み、B・Bはマリアの後ろから、マリアを見守りながら歩いた。

いっそ、悪魔の姿になって、マリアを抱えて飛んだ方が良かったのではないかと、マリアがふらつく度に、B・Bは思った。

こんな風に、人間の身を案じる日が来るとは、思っても居なかった。

手振り去っていくマリアを見て、切ない気持ちになることも、信じられなかった。






「おいしい……」


おにぎりを一口食べたクロが呟いた。


「………。」

「………。」

「………。」

「……うん。」


他の四人も、感動しているのがわかった。


なんてことはない、日本の主食である『お米』というものを握って固めたものだ。

初めて食べたものだから、そう感じるだけだと、思うことは簡単だった。

しかし、そう思うことが出来なかったのは、泣きたくなるほどの感動が押し寄せて来たからだ。

なぜなのかはわからない。

これが、『力』なのだと、思ってしまえば、納得せざるを得なかった。




―――人が思いを込めて作ったものには力がある。それを知るには、いい機会だと思うよ。


人が思いを込めて作ったものには力があります。このおにぎりを食べれば、おばあちゃんが言っていた言葉の意味が、きっと分かるはずよ。ゆっくりと、味わって食べてね———




身体が…、心が…、温かくなる。

二人の言葉が、身に染みていくようだった。






この日から、B・B達の日課は決まった。




朝、昼、晩———と、食事は日に3回。

3食とも、おにぎりを2個と、ポットのお茶だけだったが、B・B達は満足だった。

間に休憩を挟みながら、階段下の清掃と、森の中の除草作業を、延々と続けた。

マリアに触れるのは、朝と夜の2回。

B・B達は1人1人、マリアの両手を握って挨拶をすることで、浄化と言う名の毒素の排出をしていた。


「おはよう、マリア。」

「おやすみ、マリア。」


挨拶を口にしている時間が、マリアに触れている時間だ。

早口で言うか、ゆっくりと言うかは、それぞれがその時、自由に決めることになっていた。

本人の意識が大切だ———という、琴音の考えに従った結果だった。




森に入ってから、B・B達が寝泊まりしている大きな木までの道のりを、マリアが楽に通えるようになったのは、B・B達が森の中の手入れを始めた、3日後の朝だった。






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