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約束と契約2  作者: オボロ
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#4 浄化の代償



「これは、浄化だね。」


琴音は、マリアがヴィゼの手首を掴んだことで起きた現象を、そう告げた。


「まぁ、浄化と呼ぶには少し弱いが、内にある悪いもの……、悪意とか、邪心とか、悪魔が悪魔と呼ばれる所以ゆえんのような、そういう毒素を排出させているんだと思うよ。以前、マリアに触れて、同じ現象が起きただろう?きっと、その時に、幾らかの毒素が既に抜けていたんで、今回、ここまで内に入ることが出来たんだと思う。なら、もっと内に入る方法は簡単だ。毎日、マリアに触れ、その上で、善行を重ねていれば、やがては見えない壁など無くなり、神社を自由に出入りすることが出来るようになるだろう。まぁ、頑張りなさい。」


「毎日、触れる?ゼンコウ?」

「え?触れる?マリアに?いや、ゼンコウって、何?」

「ゼンコウ?」

「ゼンコウって?」

「???」


使い魔達は、衝撃的な言葉と意味不明な言葉に、頭を悩ませていた。


「毎日、マリアに触れることで毒素を排出させる———ということは分かった。で、ゼンコウとは何だ。何をする?」


B・Bは、階段をのぼり、戻ろうとする琴音に、問いかけた。

琴音は、足を止め、振り向いて言った。


「清掃だよ。神社の敷地内で、お前さん達が動ける範囲を、全部、綺麗にすること。それが、お前さん達の善行となる。善行とは、それくらいのことでも十分なんだよ。あとで着替えと道具をもって来させよう。そうそう、食事もね。人が思いを込めて作ったものには力がある。それを知るには、いい機会だと思うよ。」


そう言って、琴音は戻って行った。

マリアも、「あとでね。」と、言って、行ってしまった。


「わたし達は、これからどうすれば?」


残されたB・Bと使い魔達は、他に聞く人が居ないので、その場に残っている凪に聞くしかなかった。


「すぐにマリアが戻って来る。それまでは、森の中に入ってじっとしているといい。」


言って、凪も階段を上って行ってしまった。


「………。」


これ以上、先に進めないB・Bは、階段を見上げることしか出来なかった。

今の自分が、マリアにも凪にも、手すら届かないほど低い場所に居るしかないことに、胸が締め付けられるようだった。


「主様……。」


ノラがB・Bの腕に触れた。


「B・B……」


クロがB・Bの顔を覗いた。


「B・B……」

「B・B…」

「B・B…」


バトもヴィゼもドドも、B・Bの近くに寄って来た。


1人ならば、挫けていたかもしれない。

だが、B・Bは1人ではない。

ずっと昔から、何百年も一緒に居る、今では家族のような存在である、使い魔達が居る。


「お前たちが居てくれてよかった……。」


口に出して言ったのは、初めてかもしれない。

それくらいに今、1人ではないことが心強かった。






「B・B?どこ?」


森の中で隠れていたB・B達は、近付いて来るマリアの声を聞いた。

しばらくすると、ジャージ姿のマリアが、大きなリュックを背負い、手籠を持って、生い茂る草木を掻き分け、森の中を進んで来るのが見えた。


「何やってるんだ?こんな所まで。向こうで待っていればよかっただろう。」


B・Bは急ぎマリアに近づき、背負っていたリュックと手籠を奪い、よろつくマリアに手を貸した。


シューッ‼

「っ‼」

「きゃあ!」


マリアに触れた瞬間、B・Bの手から煙が噴き出した。

驚き、B・Bの手を振り払ったマリアは、バランスを崩し、倒れそうになった。


「危ない!」


それを防いだのは、クロだった。

慌てて、倒れそうになるマリアの身体を横から両手で捕まえた。


シュワーッ‼

「くっ‼」

「ダメ!」


物凄い量の煙が噴き出し、マリアは尻もちを付くような格好で後ろに倒れることで、クロから離れようとした。

しかし、ここは草木生い茂る森の中。

マリアのお尻の下は、フカフカなベッドでもソファでも芝生でもない。


「「「「危ない!」」」」


ノラとバトとヴィゼとドドが、倒れるマリアの身体を止めた。

脇から、前から、後ろから———と、伸びて来た四つの手がマリアを支えた。


シューッシュワーッ‼


尋常ではない量の煙が噴き出した。

辺り一面、噴き出した煙で真っ白になった。

だが、マリアには、もう逃げようがなかった。


「ごめん、ごめん、ごめんね。」

シューッシュワーッ‼

「え?あれ?え?」


煙で何も見えない中、マリアは自分の身体が浮き上がるのを感じた。

自分の身体を抱えている“腕”があるのが分かった。


「じっとしていろ。」


B・Bの声が聞こえた。


どこかに座らされた後、マリアを抱えていた“腕”は離れた。

同時に、煙が噴き出す音は消え、辺り一面の煙は徐々に薄くなった。


「やれやれだな……。」


ようやく煙は消えて、森の中が良く見えるようになると、マリアは、自分が大きな木の枝に座っていることを知った。

B・Bは、隣の枝に座り、幹に背を預けていた。

震える両手を握っている。

使い魔達は、下の方で、全員がぐったりとなっていた。


「なんか……、本当にごめん……。」


マリアは、自分に触れたことで、全員が痺れて動けなくなっていることを知った。

自分に触れないように———と、すればするほど、裏目に出ていたような気がした。






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