表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束と契約2  作者: オボロ
21/30

#21 選ばれた者



「では、少し休憩にしよう。」



くたくたなっているマリアに、凪が言った。

文化祭の前より、七曜神楽しちようかぐらの練習は、難しくなっていた。


文化祭が終わってから数日後、マリアは、寸法を合わせる為、七曜神楽の衣装を着てみることになった。

初めて見た七曜神楽の衣装は、明らかに巫女装束とは違っていた。

琴音が神事に着ているものとも、違っていた。

七曜神楽は、次に宮司となる者が舞う神楽なので、衣装は、男にでも、女にでも、着られるようなものでなくてはいけない———と、琴音は言った。

巫女神楽を舞った結衣ゆい朝衣花さいかは、巫女装束の上に、綺麗な薄い衣を着ているような衣装だったが、マリアが着る七曜神楽の衣装は、凪が着ているような白い袴姿の上に、きらびやかな厚手の着物を、もう一枚、着ているような感じだった。

厚手の着物は、腰のあたりから下が、前と後ろに分かれていて、後ろの裾は、ものすごく長かった。

引きりながら舞うようになってしまうが、それが正しい長さであるようだった。


そして、その次の日の練習から、弦が張られていない弓と、刃は無く、鈴が付いている矢を、凪はマリアに持たせるようになった。

綺麗な装飾を施されている弓と矢は、七曜神楽に使う為に、作られた物らしかった。


「代々、黒石神社の宮司となる者は、この神具を持って、七曜神楽を舞う。御弥之様みやのさまが弓を引いて邪気を払っていたからだ。その為、黒石神社の宮司も、邪気払いには弓を引く。琴音もそうだし、いずれ、マリアもそうなる。だからこそ、琴音はお前に、弓を習うよう勧めたのだろう。まぁ、七曜神楽の為でもあっただろうが……。」


確かに、弓を習っていて良かったと、マリアは思った。

舞の中で、弓を射る真似をするところが、幾つもあった。

弓を引いたことが無ければ、弓を引く姿勢を覚えるところから始めなければならなかった。

弓の重さにも、矢の長さにも、慣れているからこそ、動きに手間取ることはなかった。

それでも、美しく舞うのは難しかった。




「精が出るね。どう?お祭りまでに間に合いそう?」


地べたに座り、汗を拭きながらスポーツドリンクを飲んでいるマリアに、元昭もとあきが声を掛けた。

元昭は、マリアの母・朔乃さくのの兄である新太あらたの息子だ。

禰宜ねぎである父・新太を見て育ち、黒石神社で働く道を選んだらしい。

いつも笑顔で、爽やかな好青年。

元昭の怒った顔を、マリアは見たことがなかった。


「難しいです。でも、なんとかなるように頑張ります。」


マリアは、情けない笑みを浮かべ、元昭に答えた。


秋祭りまで、あと2週間を切った。

足の先、指の先までも、美しく見せて舞うことは、まだ出来ているとは思えない。

去年の夏祭りで見た結衣と朝衣花の巫女神楽は、足の先、指の先まで、美しかった。



「マリアちゃんが、次の宮司なんだね。」


元昭が、ぽつりと言って、マリアの隣に座った。

いとこではあるが、ゆっくりと二人で話したことはなかった。


えるって、どんな感じなの?」

「え?」


突然に、予想外なことを聞かれ、マリアは驚いた。

元昭は、マリアからの返事を待つことなく、続けた。


「ぼくはさ、視えるようになりたかったんだ。凪様の本当の姿を視ることが出来なければ、宮司にはなれないって、父さんから聞いてね。それからずっと、視えるようになりたいって思っていたんだ。マリアちゃんが視えるって聞いた後も、いつか、ぼくも視えるようになるかもしれないって、ずっと思っていた……。」

「宮司になりたかったんですか?」


マリアは聞いた。

話を聞いた限り、宮司になりたいから、視えるようになりたいと、言っているようにしか聞こえなかった。

元昭は、「まぁね」と言って、少し笑った。


「神社で働くからには、宮司になりたいって、そりゃあ、思うさ。子供の頃、どうして父さんは宮司じゃないのかって、聞いたことがあってね。その時、父さんが言ったんだ。神使である凪様のお姿を視ることも出来ない自分が、宮司になれるわけがないってね。怒っているみたいだった……。でもね、今は、あの時の父さんの気持ちが、少し、分かるんだ。どうして自分には視ることが出来ないんだろうって、悲しかったんじゃないかな?って……。」

「怒っているのに、悲しいの?」

「そう。悲しいって、認めたくなくて、怒ったんじゃないかなって、思う……。ぼくは認めちゃっているから……。」

「元暁さんは、悲しいの?」


マリアは、元昭の顔を覗いた。

寂しそうではあるが、泣いてしまいそうではなかった。


「うん。どんなに望んでも、無理なものは無理なんだって、諦めなきゃならないことが悲しいよ。ぼくは、マリアちゃんが羨ましい。ごめんね。視える所為せいで色々と大変だったってこと、聞いているのに、羨ましいなんて、冗談じゃないよね?でも、覚えておいて?君は、この神社の神様に選ばれたんだ。御弥之様が、自分の神使である凪様と共に生きる宮司として、君に奇才ちからを与えた。視えることは、選ばれた者のあかしだ。誇るべきだよ。」


元昭は、まっすぐにマリアを見て、力強く言った。


「………。」


マリアは驚いて、言葉が出て来なかった。


視えることを、誇りに思ったことは、一度もなかった。

知られたくないと思い、ずっと隠してきた。

羨ましい———と、言ってくれる人が現れることも、言われる日が来ることも、考えたことなどなかった。


元昭は、言いたいことを言い終えて、立ち上がった。


「七曜神楽、頑張ってね。応援しているよ。」


マリアに声を掛けた時よりも、晴れやかな顔をしていた。

話すことで、思いが晴れたのかもしれない。

マリアは、目の前が、ぱぁっと、明るくなった。


「元暁さん、わたし、頑張ります。」


マリアも、力強く言った。

疲れが一気に吹き飛んだようだった。


視えることも、七曜神楽も、頑張ろうと思った。


次の宮司として、みんなに認めてもらえるように。

選ばれた者として、元昭に認めてもらえるように。

選んで良かったと、御弥之様に思って貰えるように。



そして…


琴音と凪に、安心してもらえるように。




「ありがとうございました!」



マリアは、手を振りながら立ち去る元昭に、頭を下げた。


叶わなかった望みを口にするのは、勇気が必要であることを、マリアは知っている。

それでも、元昭はマリアに伝えた。

諦めるためだったのかもしれない。

だが、元昭は、責めるわけでも、けなすわけでもなく、勇気づけてくれた。

励ましてくれた。

懐の深い、温かい人であることが伝わって来た。


「………。」


マリアは、元昭から元気と勇気をもらったような気がした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ