#19 使い魔達の大冒険⑤
「全員で入って、ゴールにある箱の中から次の場所のヒントを持って行ってください。制限時間は15分。制限時間になると、迷路の中に煙が充満します。このライトを空に向けてください。救助隊が救出します。」
巨大迷路の前で、案内役の女子生徒から説明を受けた使い魔達は、全員揃って、入り口から巨大迷路に入った。
「ボク、こっちだと思う。」
最初の分かれ道で、バトが右に行こうとすると、後ろを歩いていたドドが呟いた。
「なんで?わかるのか?」
クロが聞いた。
ドドは自信なさげに答えた。
「なんとなく。そんな気がするんだ。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
四人は考えた。
そう言えば、ルイーザの件でゴシップクラブの場所を探した時、辿り着くことが出来たのは、ドドだけだった。
ノラもバトもクロもヴィゼも、逃げるように帰って来ることしか出来なかった。
試してみる価値はあるかもしれない。
四人は互いに頷き合い、ドドに進路を任せることにした。
「じゃあ、ドド、先頭を歩いてくれ。」
迷路の中には、仕掛けが幾つもあった。
突然、足元がふわふわになって歩きにくくなったり、横から水をかけられたり、大きなベルが鳴ったりする場所もあった。
それでも、行き止まりにはならなかったので、先に進むことは出来た。
「あれ?あそこ、出口だ。」
10分ほどたった頃に、バトが出口と書いてある場所を見つけた。
「すげぇ。一度も引き返さなかった。」
クロが感動していた。
「本当、誰にでも一つぐらい得意なことってあるんだね。」
ヴィゼがまたしても、褒めているとは思えない言葉で、ドドを褒めた。
「この中にヒントがあるんでしょ?」
ノラが、出口から出てすぐの場所に置いてあった箱を見つけて、開けた。
中には紙が数枚入っていた。
「全部、もらっていいのかな……。」
「全部ってことは無いだろう。他のグループの分じゃないのか?」
念のため、2枚取って広げて見た。
2枚とも、同じヒントが書かれていた。
「あれ?じゃあ、俺たち一番かも。」
バトが残りの紙の枚数を見て言った。
残りの紙は4枚。
グループは、自分達を含めて5つだった。
俄然、やる気が出て来た。
ヒントを見詰め、考えを巡らす。
解読するまで、随分と苦労した。
「自転車?2年5組……」
「?2年5組って、最初の教室だよ?」
「教室の中に自転車は無かったと思う……。」
「じゃあ、外?」
「‼自転車置き場だ。」
バトは、ハッと閃いた。
「自転車置き場って、あっちにあったよ。ここに来る時、見えた。」
クロが、自転車置き場があった方向を指差して、言った。
使い魔達は、次の場所、2年5組の自転車置き場へ向かった。
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
《2年5組》と書かれてある場所の自転車置き場に、自転車はたくさん置いてあった。
この中から、次の場所のヒントが書いてある紙を探すのは、困難のように思えた。
「ここの自転車を一台ずつ調べていくの?」
ヴィゼが不安げに呟いた。
バトは少し考えて、置いてある自転車をいくつか見て、言った。
「今までもそうだけど、隠してあるっていうよりも、置いてあるって感じだと思う。分かりにくい場所には無いと思う。分かりやすい場所……。そう、自転車のカゴの中を見ていこう。」
使い魔達は、二手に分かれて、端から一台ずつ、自転車のカゴの中を覗いて行った。
すると、一台の自転車のカゴの中に、明らかに怪しげな箱型の缶があるのを見つけた。
元々は何の缶だったのかを分からないようにしているのか、黒いビニールテープが貼られている。
黒いビニールテープに上に、黄色のビニールテープで描かれているのは、ドクロマークだ。
「この中に爆弾が入っているのかな?」
ノラは耳を近づけてみた。
時計の針のような音は、聞こえなかった。
「時限爆弾じゃないのかな……。」
「開けてみる?」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
ヴィゼの問いに答える者は居なかった。
「これを持って、2年5組に行こう。」
決心したバトが、最終決定を下した。
「おめでとう!」
ドクロマークが描かれた缶の箱を、持って戻って来た使い魔達を、2年5組の生徒達は拍手で迎えた。
「君達、一番乗りだよ。他にチームより、ずっと年が下なのに、すごいよ。謎解きが早かったのかな?それとも、くじ運が良かったのかな?どちらにしても早かった。文化祭終了まで、まだまだ時間があるのに…。」
教室の前に立って、いろいろ話をしていた男子生徒は、とてもうれしそうだった。
受け取った缶の中身を確かめもせずに、使い魔達を褒め捲った。
「あの…、爆弾は?止められるんですか?」
バトが聞いた。
一番だとか、早かったとかは、どうでもよくて、爆弾を止めることが出来なければ、見つけたことに意味は無かった。
聞かれた男子生徒は、急にほころんでいた顔を引き締め、真面目な顔になった。
「あぁ、大丈夫だよ。ごめんね。謝るよ。君たちが、こんなにも真剣に受け止めてくれると、思わなかったんだ。素直な君達を巻き込んでしまって、本当に済まなかった。ごめん。」
男子生徒は、頭を下げた。
その場に居る2年5組の生徒達全員が、男子生徒にならって頭を下げた。
「僕たちのクラスでやっていたのは、謎解きゲームなんだ。この学校に爆弾が仕掛けられているっていうのは、その設定。だたの設定であって、実際には爆弾なんて仕掛けられていないんだ。学年を超えて、他のたくさんのクラスに協力してもらっているのに、思っていたより参加者が少なくてね。周りの人達の目を引いていた君達に、参加してもらおうと、画策したんだ。まさか本気にするなんて思わなくて…。でも、本気にしてるっぽいなって、感じていたのに、そのままにしていたのも事実。本当に爆弾を見つけたいって、そう思って、本気で、真剣に取り組んでいる姿を見て、応援している人たちがたくさん居たんだよ。ありがとう。ぼく達が考えて作り上げた謎解きゲームは、君達のお陰で大成功だ。感謝している。だから、これは、1番だったご褒美ではなく、僕たちからの感謝として、もらって欲しい。」
男子生徒は、他の生徒が奥から持って来た大きな箱を受け取り、その箱を、使い魔達に差し出した。
「ありがとう。来年もまた、遊びに来てくれ。」
代表して、バトが箱を受け取った。
全ての謎解きをバトが請け負っていたので、誰も反対しなかった。
「あの缶の中には、何が入っていたの?」
ずっと気になっていたヴィゼは、聞いた。
爆弾が入っていなかったのなら、開けてみれば良かったと、少し後悔していた。
「見てみる?」
「うん。」
缶を持っていた女子生徒が聞いた。
ヴィゼはすぐに頷いた。
女子生徒は、使い魔達全員が見えるように、缶を近づけて蓋を開けた。
「「「「「………。」」」」」
中に入っていたモノを見て、使い魔達は言葉を失くした。
缶の中に入っていたのは、“バクダン”と書かれている一枚のメモだった。
感謝として受け取った箱の中には、日本のお菓子がたくさん入っていた。
よくわからないうちに巻き込まれていた謎解きゲームだったが、終わってみれば、色々なゲームをタダで出来たし、お菓子もたくさん貰えて良かったと、使い魔たちは思った。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。