#18 使い魔達の大冒険④
「今、7組がすごいことになってるらしいよ。」
1年3組の甘味処の前の廊下に居た女の子達に、別の女の子達が声を掛けた。
「外国人の男の子が5人も来ていて、すごく綺麗な男の子と橘君がもめてるって。面白そうだから、行ってみようよ。」
甘味処のお客の中にも、興味を持った女の子は居て、甘味処を出て、7組に向かう女の子が続出した。
「5人の外国人の男の子って……。」
マリアは、不安げにB・Bを見た。
凪は、確信を持って言った。
「まず、間違いないだろう。行くぞ。」
凪は、B・Bに言い、席を立った。
「あっ、わたしも行く。」
マリアも一緒に、甘味処を出て、7組に向かった。
「次の場所に向かわなくちゃならないんだ。早く、暗号を渡してください。」
ノラは、橘和樹の正面に立ち、片手を出して催促している。
橘和樹は、両手を腰に当て、偉そうにしているが、そっぽを向いて、子供のようにすねた口調で短く言った。
「いやだね。」
「なんでだよー。」
クロが文句を言った。
「いやだからだよ。君たちは、ここでリタイヤだ。」
「意味が分からない。」
バトが、信じられないという顔で、橘を見た。
バト達は、2年5組で、都ヶ丘高校に爆弾が仕掛けられていると知らされた。
文化祭が終わるまでに見つけなければ、学校だけではなく、周辺の住宅にも被害が出ると聞かされた。
だから、爆弾を探さなくてはならなかった。
その為には暗号を解いて、次の場所へ行かなければならないのに、暗号を渡すのは嫌だと駄々を捏ねて、次の場所に行くのを阻止するホストの神経が、理解できなかった。
馬鹿なのだろうか?
馬鹿なのかもしれない。
「橘、ルールなんだから渡してやれよ。」
別のホストが助け舟を出してくれた。
「いやだね。ぼくよりも目立つヤツに、手がかりなんて渡したくない。」
埒が明かなかった。
「あぁ、ごめん。こればかりは生まれつきだからね。僕自身にもどうすることも出来ないんだ。でも、どうなんだろう。君は、どう思う?」
ノラは、近くに居たメイド姿の女の子の髪の毛を、少しだけ手に取り、言った。
「大人げないと思わない?美しいことは罪なのだろうか?だとしたら、この世の女性たちは、すべて罪人になってしまう。そんなこと、悲し過ぎる。僕には耐えられないよ。」
ノラは、そう言って、手にした髪にキスをした。
キャー―――‼
教室の中、女子達の悲鳴が上がった。
卒倒する女の子まで現れた。
もう、1年7組の男子たちに言葉は無い。
日本の小学生は、絶対にそんなことはしないと、断言出来た。
「あなた達、何をしているの?」
悲鳴を聞いて、慌てて駆けこんで来たのは、マリアだった。
マリアの後ろには、凪とB・Bが居た。
「ぼくたち、爆弾を見つけなくちゃならないんだ。次の場所の手がかりが欲しいのに、この人、渡してくれないんだ。」
ヴィゼは、マリアに助けを求めるように、説明をした。
マリアは橘を見た。
「どうして渡してあげないの?」
「僕が気に入らないんだって。」
答えたのはノラだった。
「なんで?」
「ノラが、この人よりも女の子達の目を引くのが嫌なんだって。全く、くだらないよ。」
バトが痛烈に言った。
クロもドドも言う。
「ノラが目立つのは仕方ないよ。」
「うん。ほぼ生まれつきだからね。仕方ないと思う。」
「仕方ないことを理由にして、嫌がらせをしているの?」
「いや、いや、そんなことはしていないよ。」
マリアに責めるような目で見られて、橘は慌てた。
これでは、まるっきり悪者だった。
「これが次の場所のヒントだよ。」
諦めて、内ポケットから紙を取り出す。
ノラに差し出すと、ノラはにっこり笑って受け取った。
「ありがとう、お兄さん。はい、バト。」
すぐに、受け取った紙を、バトに渡した。
バトは、即、紙を開き、解読にかかった。
他の使い魔達は、マリアの傍に駆け寄った。
「マリア、その恰好、可愛いね。」
「うん。かわいい。良く似合ってる。」
「B・B、来てたんだね。」
「狐も来てたのか。」
B・Bは、無事に使い魔達と会えたことに、ホッとしていた。
凪もホッとしてはいたが、心配なこともあった。
「無銭飲食はしていないだろうな。」
「ぼくたちはしていないよ。」
ヴィゼは、言って、クロを見た。
ノラとドドも、クロを見た。
クロは一人、別行動をしていて、見つけた時、輪投げをしていた。
「おれだってしてないよ。嘘じゃないよ。いいよって、言われたことしかしてないってば。本当だよ。マリア、信じて。」
「うん。信じる。爆弾見つけたら会いに来て?一緒に何か食べよう?」
「「「「うん。」」」」
使い魔達は、揃って返事をした。
「わかったぞ。次の場所へ行こう。」
バトが解読して、使い魔達は、マリア達と分かれた。
1年7組の騒動は、これで幕を閉じたわけだが、ノラの出現で、へそを曲げてしまった橘は、ノラ達が居なくなった後、再び、女の子達に囲まれ、すぐに機嫌を直していた。
注目を浴びている5人の外国人の男の子も、マリアの知り合いであることは、あっという間に広まった。
「月城さんって、何者なの?」
こんな詮索をする者まで現れていた。
「次は外に出て、巨大迷路だ。」
使い魔達は、階段を下りて、外に向かった。
どこに行っても、使い魔達は、注目の的だった。
今年一年、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
一月三日までは、毎日、更新します。