#17 使い魔達の大冒険③
「3年2組って、2階の前の方だよね。」
階段を下りて来た使い魔達は、バトを先頭に、2組を目指していた。
廊下を進み、4組の前を通り過ぎると、前方、3組の先、おそらく2組だと思われる教室の前に、人だかりが出来ていた。
「外国人の男の子が、すごく上手なんだって。」
私服の女の子達が、使い魔達の隣を追い抜いて行った。
「クロだ!」
使い魔達は、すぐに気付いた。
赤と白の幕が掛かっている3年2組の教室は、お祭りをイメージしている作りになっていた。
夏に聞いたことのある音色を耳にして、この音にクロが引き寄せられたに違いないことを、使い魔達は確信した。
「すみません。通してください。」
バトは言いながら、中に入った。
バトの後ろから、次々と使い魔達は教室の中に入ることが出来た。
クロの姿は、すぐに見つけることが出来た。
「次は、3番を狙って。」
「うん。」
番号が書かれているペットボトルが、逆三角形の形に並んでいる、その前に、クロは立って居た。
赤い法被を着た女の子に促されて、黄色い輪を持つクロが、狙いをつけていた。
3と書かれているペットボトルに向けて、えいっと、手首を使って輪を投げた。
クロが投げた黄色い輪は、3と書かれているペットボトルを、輪の中に通して落ちた。
「成功です。」
「わぁ、全部成功したわ。」
「すごーい。」
パチパチパチパチ―――
赤い法被を着た女の子の判定を聞いて、集まっていた生徒達が歓声を上げ、拍手が起こった。
「へへへ…」
得意げな顔をしたクロが、集まった人達をぐるりと見回す。
そして、見知った顔を見つけて、固まった。
「……っ‼」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
ドドだけは、困ったようにおどおどしていたが、他の3人は、どれも怒った顔をしていた。
クロは、どう言えば良いのか分からなくて、苦笑いを浮かべた。
「やぁ、どうしたの?怖い顔をして……」
「そうかい?君はとっても楽しそうだね。」
腕組みしたノラが、冷たく言った。
「遊んでいる場合じゃないんだ。君も手伝って!」
ヴィゼがクロの腕を掴んで、ヨーヨー釣りと書かれている所へ連れて行った。
「これで、ここに来ました。」
赤い法被を着た男子生徒に、バトは解いた暗号が書かれている紙を見せた。
赤い法被を着た男子生徒は、合点が言ったように微笑み、釣り針が付いた糸を、バトの前に差し出した。
「チャンスは、これ1本。失敗したら、お金を払って、もう一度、チャレンジするか、2年5組に戻って、別の暗号を解くか、選んでね。」
「………。」
バトは、水に浮かんでいる水風船を見た。
中に水が入っているだけの風船と、水の他に紙が入っている風船があった。
「クロ、これ取って。」
バトは、1つの水風船を選んで、クロに言った。
何が何だか分からないクロだったが、自分が断れる立場ではないことだけは分かるので、糸を受け取り、バトが指定した水風船の前に座った。
「……がんばります。」
バンッ!
クロが釣り上げた水風船を、バトは容赦なく割った。
クロは一発で、難なくバトが指定した水風船を釣り上げた。
「誰にでも一つぐらい特技ってあるもんなんだね。」
ヴィゼが、誉め言葉とは思えない言葉で、クロを褒めていた。
「次は、1年7組のNo.1だ。」
バトが、次の場所を解き明かした。
キラキラしたラメ入りのカーテンを使って、豪華さを演出した1年7組の教室は、メイド姿の女子生徒と、タキシード姿の男子生徒で、喫茶店をやっていた。
衣装に準備金のほとんどを充てたため、メニューは珈琲と紅茶とパンケーキだけとなった。
それでも、お客は来るのだから不思議だ。
それもこれも、№.1ホストのお陰であると、1年7組の生徒達は、感謝していた。
「やぁ、子ネコちゃん達。ぼくに会いに来てくれて、ありがとう。」
白いタキシード姿の橘和樹が、一輪の赤いバラを手にし、ホストになり切って登場すると、テーブル席に座る女子達は、皆、目をハートにした。
都ヶ丘高校の生徒も居れば、他校の生徒も居る。
メニューが少ない為、お客の回転が速く、売り上げは伸びていた。
1年7組のメイド&ホストカフェは、“橘和樹”で集客しているようなものだった。
1年3組の“マリア・月城・グレース”で集客している甘味処と似ているかもしれない。
しかし、無自覚で集客しているマリアと違い、橘は、ノリノリで集客していた。
調理には全く関わらない。
橘は、呼び込みと接客だけをしていた。
まさに、ホストだった。
「キャーッ」
廊下から黄色い悲鳴が聞こえた。
「かわいい外国人の男の子がいるの。」
「こっちに来てる。」
教室に入って来た女の子達が噂していた。
「………?」
内容を耳にした橘は、教室から顔を覗かせて、廊下を見た。
明らかに目を引く外国人の男の子が5人、こっちに向かって歩いて来ていた。
「すみません。No.1の人って、どの人ですか?」
緩いウェーブのかかったプラチナブロンドを赤いリボンで一つに纏めた、綺麗な顔をした青い目の少年が、メイド姿の女の子に声を掛けた。
橘を見て、目をハートにしていた女の子達は皆、今度は、その少年を見て、目をハートにしていた。
「ナンバーワンは、ぼくだけど?」
橘の対抗心に、火が付いた瞬間だった。