#16 使い魔達の大冒険②
「君達!こっち、こっち。」
「?」
クロを探すために、廊下を戻って来た使い魔達に、手招きして呼ぶ男子生徒が居た。
「良かった。日本語、分かるんだね。」
使い魔達が近くまで来ると、男子生徒はホッとしたように微笑み、そして、今度は神妙な面持ちになって、一番近くに居たノラに紙を渡した。
「声には出さず、これ読んで。読める?」
「‼」
「‼」
「‼」
紙をもらったノラと、横から紙を覗いたバトとヴィゼは驚いた。
日本語が読めないドドだけが紙を見ようともせず、きょとんとしていた。
「良かった。日本語、漢字も読めるんだね。なら、安心だ。一緒に頑張ろう。さぁ、中に入って。」
男子生徒に促されるまま、使い魔達は、教室の中に入った。
ドド以外、使い魔達の顔色は悪い。
「あの…。」
困惑する使い魔達を代表して、ノラは質問しようとしたが、男子生徒は片手を出して、ノラの発言を制止した。
「今から説明するから、ここに座って待っていて。」
男子生徒は、それだけ言って、教室の前の方へ行ってしまった。
教室の中には、ノラ達の他に、四つのグループが居て、それぞれのグループで、ノラが持っている紙と同じ紙を持っているようだった。
ただ違うのは、青褪めているノラ達とは違い、他のグループは、どこか嬉しそうで、わくわくしているように見えた。
「お待たせしました。混乱を防ぐ為、皆さんにだけ、お伝えしました。先程、お渡しした紙に書かれている通り、この学校には、今、爆弾が仕掛けられています。爆発したら、校内に居る人間は勿論、周辺の住宅にも被害が及びます。制限時間は、この文化祭が終わるまで。その前に、爆弾を見つけてください。今から新たにもう一枚、お配りします。お手にした方から、爆弾を探してください。それでは、お願いします。」
「どうぞ。」
「!」
「!」
「!」
「!」
いつの間にか、すぐ傍に来て居た女子生徒が、白い封筒を差し出していた。
「………。」
「ありがとう。」
受け取るのを躊躇うノラに代わり、バトが白い封筒を受け取った。
すぐに、封筒の中から紙を取り出し、広げる。
紙には、暗号のようなものが描かれていた。
「何?これ。」
ヴィゼが目を丸くした。
「この暗号を解かなきゃ、爆弾が見つからないんだろ?見つけなきゃ。マリアは知らないんだ。」
バトは必死の形相で、暗号を見詰めた。
「おぉ!」
数分後、一つのグループが、暗号を解いたようだった。
誇らし気な顔をして、教室を出ていく。
ドドは、出ていくグループを眺めながら、不思議そうに呟いた。
「爆弾、みんなで探した方が早く見つかるのに、どうして解いた暗号、みんなに教えてあげないんだろう。」
確かにそうだと、使い魔達は思う。
近くに居た、封筒を持って来た女子生徒を見た。
女子生徒は、困ったように微笑み、言った。
「最初に見つけたグループは、ご褒美が貰えるの。」
ヴィゼがカッとなった。
「早く爆弾を見つけて、みんなを助けるよりも、ご褒美なの?」
「日本人は、みんなそうなの?」
ノラも怒っていた。
「そんなことないわ。今回のこれに関してだけよ。爆弾を見つければ、あなた達にも分かるわ。」
女子生徒は、困り切った顔で、弁解していた。
助けを求めるように、教室の前の方に居る男子生徒を見た。
男子生徒は、女子生徒を見て、首を横に振っていた。
どいつもこいつも!
「………。」
ヴィゼは拳を握りしめていた。
「わかった!」
更に一組が出て行って数分後、ようやくバトが暗号を解いた。
紙を握り、立ち上がる。
「行こう。」
全員に目配せして、教室を出た。
「暗号の答えは何だったの?」
ヴィゼが聞いた。
教室の中には、まだ二組残っていたので聞けなかった。
「3年2組、ヨーヨー。」
「なにそれ。」
「行ってみれば分かるよ。」
バトの答えに、ヴィゼは首を傾げた。
ノラが妥当な結論を言った。
ドドはついて来るだけだった。
「これを使うのよ。」
「………。」
天使のような女子生徒に銃を渡されたクロは、作り物だと分かってはいたが、おもちゃであることを知った。
先程の男子生徒が、何かをセットしているのを見た。
何をセットしているのかまでは、分からなかったが、それが輪ゴムであったことも、この時、知った。
「これを、こうやってセットするのよ。」
女子生徒は、輪ゴムの掛け方もクロに教えた。
「ここが引き金。指で引っ張ると輪ゴムが飛ぶわ。よく狙ってね。」
「うん。」
クロは、並んでいる人形たちを見た。
どれも紙が貼ってあるだけの人形だった。
キングが居て、クイーンが居て、騎士が居る。
カボチャや、お化けも居るし、動物も居た。
どんなコンセプトで作られた人形なのか、全く分からない。
とにかく当てて倒そうと思い、クロは引き金を引いた。
パンッ!
「当たった!」
女子生徒が言った。
「………。」
クロは、意外にも勢いよく輪ゴムが飛んだので、驚いた。
「キングよ。すごい。」
女の子に褒められ、気を良くしたクロは、次もキングを狙った。
パンッ!
「また当たった。今度もキングよ。」
「へへっ……」
ちょっとカッコイイかもしれないと、自分自身に照れながら、再び、キングを狙って引き金を引く。
パンッ!
「またキングよ?すごいわ。」
3回連続のキング命中に、射的係の女の子達が驚いて集まって来た。
「すごいわ。今日初よ。」
「おめでとう。」
「すごい、すごい。」
「びっくりしたわ。」
女の子に囲まれ、褒められて、クロは有頂天だった。