#15 使い魔達の大冒険①
使い魔達にとって、都ヶ丘高校の文化祭は、どこもかしこも楽しそうで、にぎやかなレジャーランドのようだった。
「いらっしゃい、いらっしゃい。屋台ゲームやってまーす。いかがですかぁ?」
赤と白のストライプの幕で囲まれた教室の前で、ねじり鉢巻きをして赤い法被を着た男子生徒が呼び込みをしている。
BGMは、太鼓の音と笛の(ね)音。
日本に来たばかりの頃に、聞いたことのある祭囃子に、釣られるように引き付けられたのは、クロだった。
黒石神社の夏祭りの時、B・Bと使い魔達は、神社の中には入れなかったので、階段下に並ぶ屋台を見て回ることぐらいしか出来なかった。
階段下に並ぶ屋台だけでも、見て回るには数も種類もたくさんあって、楽しかった。
しかし、階段の上では、もっと楽しいことが行われているらしかった。
もしかしたら、ここにあるのが、そうなのかもしれない。
クロは、期待に胸を膨らませて、中に入った。
「ここから撃ってください。三回撃てます。倒した人形の種類と個数で景品が決まります。」
真っ先に目がいったのは、階段状の棚にたくさんの小さな人形が並んでいる場所だった。
傍には行けないように机がずらりと並んでいで、赤い法被を着た女子生徒が、お客さんらしき都ヶ丘高校の制服を着た男女に、作り物の銃を渡していた。
「………。」
クロは、並んでいる机の一番端の机から、射的の様子を見ていた。
「キングを三つ倒すと、わたあめか。」
お客の男の子が、横に立って居る看板を見て言った。
「………?」
クロも看板を覗き見たが、クロには何が書かれているのか分からなかった。
男の子は、机に肘を置いて銃を構え、狙いを定めて引き金を引いた。
「あー。」
男の子が残念そうな声を出した。
何も倒れなかったので、外してしまったらしい。
「もう一回。」
何かを銃にセットしていた。
弾を込めているのとは、動作が違っていた。
再び、構えて引き金を引く。
パンッ!
「当たった!」
音と共に人形が倒れ、お客の女の子が声を上げた。
嬉しそうな顔をした男の子は、再度、銃に何かをセットした。
そして、もう一度、構えて、引き金を引いた。
パンッ!
「あー、隣!」
人形は倒れたが、希望していた人形ではなかったのだろう。
男の子は悔しそうだった。
「二個ですね。この中から二個選んでください。」
赤い法被を着た別の女子生徒が、箱を持って来て言った。
お客の女の子は、隣に居る男の子に目配せして、箱の中に手を入れた。
「ありがとうございました。」
「………。」
「………。」
「………?」
教室を出ていく男の子と女の子を、赤い法被を着た女子生徒と一緒に見送ったクロは、赤い法被を着たその女子生徒と目が合った。
「どうしたの?」
「何かあった?」
赤い法被を着た別の女子生徒達が近寄って来て、三人の女の子に見られたクロは、何か自分は悪いことをしてしまったのかもしれないと思い、逃げる準備をした。
何か問題を起こしたら外出禁止にすると、琴音に言われているからだ。
「日本語、分かる?」
最初に目が合った女の子が聞いて来た。
「………。」
クロは、こくりと頷いた。
「これ、やる?」
「いいの?」
人形を指差し聞かれて、すぐにクロは目を輝かせた。
「お金、持ってる?」
別の女の子に聞かれた。
「?」
聞きなれない言葉に、クロは首を傾げる。
あとから来た女の子二人は、どうするの?という顔で女の子を見たが、クロに声を掛けた女の子は、にっこりと笑った。
「人形を倒しても、何もあげられないけど、人形を倒せるか試してみる?」
この人間は、もしかしたら、日本の天使なのかもしれない。
日本では、天使は人間のふりをして、生活しているのかもしれない。
「うん!」
クロは、嬉しくなって、笑顔で答えた。
「あれ?クロが居ない!」
突然、ヴィゼが叫んだ。
校舎に入り、3階に上がって、少し歩いたところで、一番後ろを歩いていたヴィゼは、前に居るはずの4人が、3人になっていることに気付いた。
誰が居ないのかは、3人を見れば、すぐに分かった。
「ドドの隣を歩いていたはずだ。どこで逸れたの?」
「3階に上がって、すぐかなぁ。気付いた時には、もう隣にクロは居なかったよ。」
ドドは、今更のことのように言った。
「なんですぐに言わないの!」
ノラが怒った。
「あいつ一人にして、問題を起こさないわけがない。」
「問題を起こしたら、全員、外出禁止になるんだぞ。」
「あ、そうだった。ゴメン…」
ヴィゼが絶望的に言い、バトもドドを叱った。
使い魔達は皆、琴音の言葉を覚えていた。
「とにかく、戻ろう。階段近くの教室に入った可能性が高い。」
クロを除いた4人の使い魔達は、今来た廊下を戻って、クロを探すことにした。
「今、何組?」
「四組。」
「四組かぁ。」
「あと一組ぐらい欲しいよねぇ。」
とある教室の前で、生徒達が集まり、相談している。
「なんか、注目されていないんだよなぁ。」
「目玉になる何かが足りないんだと思うよ。」
「目玉って何さ。」
「うーん。例えば、あの子達が加わるとか…。」
「え?」
「あぁ。」
「いいと思う。」
「小学生でも出来るようにしてあるしね?」
「でも、日本語が分からなきゃ、ダメじゃん?」
廊下を歩いて来る4人の使い魔達を見ていた。
「じゃあ、試してみようか。」
生徒の一人が、悪巧みをするような笑みを浮かべて、言った。