表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束と契約2  作者: オボロ
14/30

#14 沁みついた毒素



B・Bは、マリアのクラスがやっている甘味処の前に居た。


マリアは、次の1時間半は配膳係になるので、引継ぎの為、教室の中に入って行った。

「ここに並んでいれば入れるから———」という、マリアの言葉に従い、大勢の人が甘味処に入る順番を待っている、その列の中に居た。


「………。」


誰が見ても外国人のB・Bは、列の中でも目立っていた。

いつもの作務衣さむえ姿ではなく、黒ずくめのスーツでもなく、ラフな私服姿は、雑誌の中のモデルではないかと、目を疑いたくなる。

周りに居る女の子達が、うっとりとした目で見つめるのも、仕方なかった。


「あの…、日本語、わかりますか?」


2人の女の子が近づいて来て、恐る恐る話し掛けて来た。

B・Bは、マリアと同じ年頃の私服姿の女の子2人を交互に見て、小首を傾げた。


「分かりますが、あまり得意ではありません。」


嘘ではなかった。

日本語は分かるけれど、日本語の意味は複雑で、理解するのは難しい。


「分かるってぇ。」

「やったー。」


女の子2人は、B・Bが、日本語が分かると言ったことに喜んでいた。

頬を少し赤くして、互いに何か話せと促している。


「………。」


B・Bは、はしゃぐ2人の女の子を眺めながら、昔の自分なら、これをチャンスに、言葉巧みにたぶらかして命を奪っていただろうと、思った。


若い娘2人分の命だ。

どれほどのエネルギーが得られるだろう。


「………っ‼」


考えて、ハッとした。

今、悪魔としての自分を、はっきりと感じた。

マリアに触れても何も起きないのは、抜け出る毒素が無くなったからだと思っていた。

しかし、そうではなかったのだ。

抜け出る毒素が無くなったからといって、全ての毒素が抜け出たわけではなかった。

みついてしまっているのだ。

沁みついてしまった毒素は、そうそう簡単には取り除くことが出来ないのかもしれない。

そして、沁みついてしまっている毒素こそが、悪魔たる所以ゆえんのようなものなのかもしれなかった。


「………。」


よくよく考えてみれば、ヒトではない本来の姿に、B・Bは日本に来て以来、一度も戻ったことがなかった。

戻ろうとも、戻りたいとも思わなかった。

無意識のうちに戻ることを、拒んでいたのかもしれない。


使い魔達が身を削り、蘇らせてくれた、継ぎはぎだらけの恐ろしい姿。

使い魔達以外、誰にも見せたことは無かった。

もしも、あの姿のままならば、マリアには絶対に見せたくない。


沁みついてしまった毒素は、どうすれば取り除くことが出来るのだろうか……。


ようやく、手が届く所まで来ることが出来たと思っていたのに、やっぱり、まだまだ手は届かないのか……と、B・Bの気持ちは、落ち込んだ。











「どうしたの?美味しくない?」

「………っ!」


突然、目の前にマリアの顔があって、B・Bは驚いた。

B・Bは、マリアのクラスの甘味処の中に居て、抹茶アイスクリームを食べていた。


B・Bを案内したマリアのクラスメイトは、B・Bを一番目立つ真ん中の席に案内しようとしていたが、それに気づいたマリアが、そのクラスメイトにお願いをして、マリアと話がしやすい隅の席に、B・Bを案内した。

抹茶アイスクリームを頼んだのは、一番無難なものだと、マリアが薦めたからだ。

毎日、お茶を飲んでいるので、抵抗なく食べられると、思ったのだろう。



マリアは、B・Bの本当の姿を、見たことが無い。


本当の姿を見たら、どう思うのか………

どんな顔をするのか………


そんなことを考えて、ぼんやりしてしまっていた。



「いや……、おいしいよ、とても。」


B・Bは笑顔を見せた。



「あれ?」

「?」


廊下の方が、急に騒がしくなり、マリアとB・Bは、振り向いた。


「あの、すみません。順番をお待ちください。」

「すまない。急用があって、人を探している。」


止めるクラスメイトの横から顔を出したのは、なぎだった。


「凪!」

「!」


マリアとB・Bは驚く。


マリアの声で、マリアの居場所が分かった凪は、入り口からまっすぐマリアとB・Bが居る席に向かって歩いて来た。

もう1人現れたモデル並みのイケメンが、またもやマリアの知り合いだと分かり、甘味処の好奇の目が、マリア達に集まった。


「どうしたの?凪。」


凪は、B・Bが座るテーブル席の向かい側に座り、B・Bを見てにやりと笑い、言った。


「琴音に言われた。おチビさん達が居ない。多分、マリアの学校の文化祭に行ったに違いない。だが、お金を持っていないはずだ。B・Bを探したが、B・Bも居ない。おそらく、B・Bもマリアの学校に行ったのだろう。B・Bもお金を持っていないはずだから、お金を持って行ってくれないか————とな。無銭飲食では、マリアが恥をかく。仕方がないから来た。」


言われて初めて、お金が必要であったことに、B・Bは気付いた。

お金を使ったことの無いB・Bは、お金を必要としたことが無かった。

しかし、人間社会には、必要な物だ。


「す、すまない。」

「まぁ、いい。わたしにも同じものを頼む。」


凪は、マリアに、B・Bと同じ抹茶アイスクリームを頼むと、ぐるりと甘味処を見渡し、聞いた。


「で?おチビさん達は?」

「………分からない。会っていない…。」

「………。」

「………。」


B・Bと凪は、これから起こる不安に、何も言えなくなった。






「お待たせしました。抹茶アイスクリームです。」


マリアだけは、まだ何も気付いていなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ