表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束と契約2  作者: オボロ
13/30

#13 都ヶ丘高校のお祭りの始まり



「わぁ、かわいい。」

「ちゃんと、和風してるぅ。」

「甘味処の雰囲気、出てるね。」


マリアのクラス、1年3組は、大盛況だった。


「お団子、三つ、お願いします。」

「おしるこ、四つ、お願いします。」

「あんみつとお団子、二つずつ、お願いします。」


厨房は文化祭開始から大忙しで、今、調理係のA班は、こんなはずではなかったと思いながら、汗だくになっていた。

B班は今、配膳係で、C班は今、呼び込み係、D班は今、自由行動になっている。

それぞれの係と自由行動は、1時間半ごとに交代する決まりになっていた。


「1年3組で甘味処をやっています。よろしかったらどうぞ。」


C班になっているマリアは、校舎の中を、チラシを配りながら歩いていた。

『少なくても20人には、絶対に声を掛けてくださいね。』という脅しの言葉と共に、津谷つたにから渡された紙に書かれていたのは、呼び込みの際に、必ず言うべきセリフと、活用するべきセリフだった。


「1年3組で甘味処をやっています。よろしかったらどうぞ。」


まずは、そう言って、チラシを渡す。


「へぇ、外人?日本語上手いじゃん。」

「いやぁ、浴衣に白いエプロン、可愛いよね。名前、何て言うの?」


馴れ馴れしく名前を聞かれたなら、


「1年3組に来てくれたら教えますよ。絶対に何か注文してくださいね。」


と言う。


「写真、撮っていい?」


という言葉には、


「写真を撮るスペースも用意してありますので、ぜひ、1年3組に来てください。」


だった。

あとは、笑顔で手を振り、急いで立ち去り、また、別の人に声を掛ける。

果たして、1時間半で20人に声を掛けるのは、多いのか、少ないのか……。

マリアは、分からないまま、声を掛けていた。


「へぇ、甘味処ね。」


マリアからチラシをもらった私服の男の子が、チラシの文字を見てから、興味深そうにマリアを見た。

一緒に居るのは、私服の大人しそうな女の子だった。

どちらもマリアと同じぐらいの年頃で、おそらく二人とも都ヶ丘高校の生徒ではないと思われた。


「わざわざイギリスから来て、何やってんの?宮司になりたいんじゃないの?」

「……っ⁈何の話ですか?」


突然の、マリアの身の上を知っているような発言に、マリアは驚き、男の子の顔を凝視した。

知っている顔ではなかった。

それは確かだった。


「ま、いいや。じゃあね。」


男の子は、そう言って、手を振り去って行った。

一緒に居た女の子は、軽く会釈をしてから、男の子の後について行った。


「………。」


マリアは、不思議に思いながら、2人を見送った。


校内で呼び込みをしているのは、マリアだけではなかった。

各クラスに呼び込み係の人は居るようで、それぞれがクラスの出し物に沿った格好をして、呼び込みをしていた。

マリアと同じようにチラシを渡す人も居れば、クラスと出し物が書いてある大きなボードを持って歩いている人も居る。

体育館でやる劇の題名と公演時間を書いた段ボールを被り、まるでロボットのように頭と腕を出して歩いている人も居た。


「あれ?マリアちゃんじゃん。」


「………?」


調子の良い、軽い声で呼ばれた。

振り向くと、何処の王子様かと思うような白いタキシードを着た男の子が、立って居た。

背景にバラが描かれているのではないかと思うような登場だった。

周りには、目をハートにしている女の子が5~6人いたが、タキシードの男の子は、その子達から離れ、マリアに近づいて来た。


「やっぱ、可愛いよね。似合ってるよ、浴衣。すっごくいい。」


歯の浮くようなセリフを躊躇うことなくスラスラ言うあたり、王子様ではなくホストなのだろうと、マリアは判断した。

編入して来た当初、何度か話し掛けてきたことのある男子生徒だった。

いつも女子達に囲まれている印象がある1年7組のたちばな和樹かずきだ。

話し掛けられる度、取り巻きの女子達にマリアが睨まれていることを、橘は気付いていないのだろう。

今も、先程まで一緒に居た女子達に、マリアは睨まれていた。


「ホスト…、似合ってます。」


ハマり役ですね———とは、胸の内にとどめておいた。


「そう?マリアちゃんも後で来てよ。サービスするからさ。」


どんなサービスなのか、聞くのも恐ろしかった。

後ろに居る女子達の目が、鋭く光ったような気がした。


「ありがとうございます。3組にもいらしてくださいね。」


サービスはしないけれど……

これも、胸の内にとどめておいた。

そして、マリアは走って逃げた。











「………。」


1年3組に戻ると、廊下に人が溢れていた。

甘味処に入る人が並んでいるらしかった。


「あ、月城さん、おかえりなさい。」


整理券を配りながら、注文を先に聞いていた沢井さわい萌々ももが、マリアの姿に気付いて手を振った。

すると、溢れ出ていた人の目が、一斉に振り向いた。


「うおぉーー‼」


雄たけびと共に、人垣が動いた。

フラッシュの光で、目の前がチカチカした。


「………っ‼」


恐ろしくなって後ずさりしたマリアは、足が絡んで転びそうになった―――

―――が、後ろから支えられた。


「危ないぞ。気をつけろ。怪我をする。」

「………。」


キャー――っ‼


途端、女子達の悲鳴が聞こえたような気がした。


「文化祭と言うのは、どこも人ばかりだ。ここがマリアのクラスか?」


B・Bだった。

もう、マリアに触れても、煙が出ることは無かった。

それでも、社殿に入ることは出来ないのだから、神域は奥が深い。

いつになったら、御弥之様はB・Bと使い魔達を認めてくれるのだろうか———と、マリアも気にはなっていた。


「誰?」

「誰?誰?」

「外人?外人でしょ?イギリス人?」

「月城さんのお友達?兄弟?」

「彼氏?彼氏じゃない?」


ヒソヒソ声が聞こえた。


「………。」


マリアは聞こえないふりをした。


ふと見ると、B・Bは1人だった。


「あれ?1人?あの子たちは?」


マリアは、B・Bの周りを見て、聞いた。


「あれらは、わたしよりも先に来ているはずだが……、まだ来ていないのか?」

「ええ。他を見て回っているのかもね。」


B・Bが、不思議そうに首を傾げていたのだが、マリアは、あまり気にしていなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ