#12 文化祭に抱く期待と恐怖
コンッ!コンッ!コンッ!コンッ!
ダンッ!ダンッ!
バタバタバタバタッ!
「そっち持って!」
「こっち押さえて!」
放課後の校内では、明日に迫る文化祭に向けて、準備の追い込みに励んでいる生徒達がたくさん居た。
マリアのクラスでも、勿論、多くの生徒が居残って、教室内と外を甘味処らしい雰囲気に作り上げていた。
「おりがみ、まだまだたくさん必要になるから、どんどん作ってください。」
クラス委員の津谷美羽が、折り紙班の女子達に言った。
折り紙班は8人居て、津谷を合わせた8人の女子達が、和をイメージする様々なモノを、折ったり切ったりしながら折り紙で作っている。
「あら、月城さん、上手じゃない。」
「本当、もう鶴は完璧ね。」
マリアが折った鶴を見て、同じ班の女子達が褒めた。
マリアに鶴の折り方を教えたのは津谷で、津谷は他に、紙風船の折り方もマリアに教えていた。
「じゃあ、次は、これ、作ってみる?」
津谷は、今しがた作り終えた和傘を、マリアに見せた。
「うん。教えてほしい。」
折り紙が得意という訳ではなく、折り紙を覚えたいという理由で、この班に入ったマリアは、喜んで和傘を教えてもらうことにした。
マリアのクラスの飾りつけは、主に折り紙で締められていた。
すだれやよしずに、折り紙で作った和風のモノを貼り付けていく。
それだけでも十分に、和の雰囲気は出ていた。
明日は全員、自分の浴衣を持って来て着ることになっている。
おそろいの白い襷を掛け、女子はエプロン、男子は前掛けをする予定だ。
大きな鍋もコンロも、用意出来た。
器も箸もスプーンもある。
メニューの材料は、全て揃っていて、明日、文化祭が始まるまでに、下準備を済ませておけば、OK。
学校の行事で、こんなにもワクワクするのは、初めてかもしれなかった。
「明日が楽しみ。」
マリアは、つい、言葉にしていた。
初めての文化祭が、こんなにもワクワクするのが嬉しい。
初めて通う日本の学校で、クラスの人達と一緒にやる、初めての行事が、こんなにもワクワクするもので嬉しかった。
「わたし達も楽しみ。」
「そうそう、楽しみ。」
「絶対、みんな、楽しみにしていると思う。」
折り紙班の女子達が、意味ありげにマリアを見た。
「お客さん、きっといっぱい来るよ。」
「月城さん目当てに、絶対たくさん来るよ。」
「なんたって、月城さんの浴衣姿だもん。来るよねぇ。」
「ねぇ。」
「?」
彼女たちは、とても楽し気に言っているが、言っていることの意味が分からなくて、マリアは首を傾げた。
フフフっと、彼女達は笑うだけ。
だが、津谷が、あっさりと種を明かした。
「月城さんが浴衣を着るってこと、かなりもう噂になっているの。月城さんは知らないかもしれないけど、あなた、結構、人気あるのよ。」
「え⁈」
何が?
何の?
あまりに突然の発言に、マリアは混乱した。
頭の整理が出来ていないマリアを、そのままにして、津谷は、止めを刺した。
「明日は、このクラスの売り上げに、しっかりと貢献してもらいますからね。」
「⁈」
一体、どういうことだろう……?
にやりと笑った津谷に恐怖を抱き、マリアの思考は停止した。
「文化祭は明日だったね。」
夕食を食べている時、琴音は唐突に言った。
「……っ‼……うん。」
一瞬、ぎくりとしたマリアは、琴音の目を見ることが出来なかった。
昨日までの反応と、明らかに違っていることに、マリア自身、気付いていなかった。
昨日までのマリアは、初めての文化祭が楽しみで仕方ない、という感じだった。
文化祭のことは、何を聞かれても、マリアは浮かれていた。
しかし、今日のマリアは、初めての文化祭が怖くて仕方ない、という感じだ。
文化祭のことは、今は何も考えたくないように見えた。
「明日は、準備で早く行かなきゃならないから、もう寝るね。」
誰とも目を合わさず、逃げるように部屋へ戻るのも、不自然だった。
「………。」
「………。」
「………。」
琴音と凪とB・Bは、不審げに、マリアが出て行った戸を見詰めている。
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
使い魔達は、互いに目配せして、頷いていた。
パンっ!パパンッ!
花火が上がり、都ヶ丘高校の文化祭が始まった。
開催と同時に一般公開も始まり、都ヶ丘高校の生徒ではない人達が、続々と校内に入って来た。
「3年3組、お化け屋敷やってまーす!」
「巨大迷路ありまーす!参加してみてくださーい!」
「11時から体育館でバンドやりまーす!」
呼び込み役の生徒達が、チラシを配りながら大声を上げていた。
「マリアのクラスって、1年3組だよな。」
『都ヶ丘高校文化祭』と書かれているパンフレットを手にしたバトが呟いた。
「なぁ、あっちからいい匂いがする。」
「だめだよ、クロ!マリアのクラスが先!」
ふらふらっと、歩き出そうとするクロをヴィゼは捕まえて、目的地に向かった。
ノラもドドも一緒だ。
5人は、マリアの様子が気になって、こっそり都ヶ丘高校に来たのだった。