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約束と契約2  作者: オボロ
11/30

#11 神使を連れた訪問者



「ただいまぁ。」

「おかえりなさい。」


放課後の文化祭準備を終えて帰宅したマリアは、夕食の準備をしてくれているまどかが居る台所に顔を出した。


まどかは、琴音の家の住居人が増えてからも、毎日、琴音の家に通ってくれていた。

掃除や洗濯は、マリア達がやるようになっても、食事だけは自分がやると言って、絶対に譲らなかった。

望は琴音の娘で、マリアの叔母にあたる。

高校生であるマリアに、家事の一切をやらせるわけにはいかないと、思っているのかもしれない。

それも理由の一つではあるだろう。

しかし、最も大きな理由は、凪とB・Bの存在だろうと、マリアは思っていた。

凪は神使だ。

大昔から、黒石神社の神・御弥之様みやのさまに仕えている、大きな白い狐だ。

そして、B・Bのことも、神使ではないにしても、神使に近い者に違いないと、望は勘違いをしているようだった。

最近では、ご飯とみそ汁と小さな小鉢に入ったおかずが、凪にも、B・B達にも、用意されている。

凪は、食事など要らないと、最初は突っぱねていたのだが、「折角なのだから、一緒に食べましょう。」と言った、琴音のひと言により、凪も一緒に食べるようになった。



「おかえり、マリア。まどか、これは?どうやって切るの?」

「おかえり、マリア。まどか、こっちは?」


ヴィゼとバトが、望の夕食作りを手伝っていた。


初めは、危ないから———という理由で、手伝いを断っていた望だったが、子供の姿をした使い魔達に、何度も「手伝わせてほしい。」と、お願いをされては、断り続けることは出来なかったようだ。

今では、二人の使い魔達が順番に交代して、望の手伝いをしている。

望も、使い魔達も、楽しそうに料理をしていることが、マリアには嬉しかった。



マリアは、自分の部屋に向かい、自分の巫女装束に着替えて、再び、家を出た。

今では恒例となってしまっている凪のしごきを受ける為だ。


「あ、マリア。帰って来たの?おかえり。」

「おかえり、マリア。今から練習?」


黒石神社に入ると、箒を手にしたノラと、塵取りとごみ袋を持ったドドに遭った。

いつの間にか、ドドの顔中にあったニキビは消えていて、そばかすのある可愛い男の子になっていた。

規則正しい生活をしているからだろうと、マリアは思っている。


「うん。ただいま。凪、どこにいるか分かる?」


「おかえり、マリア。狐なら、祠のところに居たぞ。」

「なんか、葉っぱあげてたよ。マリア、おかえり。」


拝殿の方から歩いて来たB・Bとクロが言った。

B・Bもクロも、軍手をして鎌を持っていた。


「ありがとう。行ってみる。」


マリアは、本殿に向うことにした。


「………?」


明らかに他の参拝客とは雰囲気の違う女性が2人、参道を歩いて来るのが見えた。

2人とも和服を着ている。

歩き方から、和服に慣れているのが分かった。

一見、夜の商売をしている女性のようにも見える。

綺麗な女性ひとだが、怖い印象も与えていた。



「こんにちわ、元暁もとあきさん。琴音様はいらっしゃいますでしょうか?」


女性は、マリア達をちらりと見ただけで声はかけず、元暁を見つけて近づいた。

名前を知っていたので、知り合いであることはわかった。


「あ、これは、これは、日下くさか様。お久しぶりでございます。純白ましろ様もお変わりなく。ただいま、宮司をお呼びいたしますので、社務所の方でお待ちください。陽菜乃ひなのさん、宮司に連絡をお願いします。」


「おまちください。」


凪が現れた。

琴音の所へ向かおうとしていた陽菜乃は、足を止めた。


「折角ですから、自宅の方へご案内いたします。白石神社の宮司自らの御訪問です。余程重要なご用件がおありなのでしょう。社務所では、人の目と耳がありますので、黒石神社宮司の自宅にて、ゆっくりと伺わせていただきます。よろしいでしょうか?」


白い袴姿の凪は、姿勢正しく、毅然とした態度で、対応していた。



「………。」

「………。」

「………。」

「………。」

「………。」


マリア達は呆然と眺めていた。



「まっ、いいでしょう。純白、行くわよ。」


つんと澄ました女性二人は、凪の後ろを歩いて行った。












「………。」

「………。」

「………。」

「………。」


琴音の家で、琴音と凪は、白石神社の宮司である日下くさかみやびと、白石神社の神使・純白ましろと、向き合って座っていた。

凪が用意したお茶を、のほほんとすする琴音を見て、雅はイライラしていた。

最初に口を開いたのは、雅だった。


「聞きましたよ。ここの神社には妖が居ると。初めは冗談かと思っていました。イギリスに居た跡継ぎのお孫さんが、ようやくやっと日本に来ることになったと聞き、それを良く思わないモノが良からぬ噂を流しているのではないかと思い、今日は、事実を確認しに伺わせていただきました。それがどうです?妖が4人も居るではないですか!4人も、ですよ!どういうことなのですか?何があったのです?もう追い出すことが難しくなってしまったとおっしゃるのなら、僭越せんえつながらお手伝いをさせていただきたいと思っております。さっそく、今夜にでも追い出しましょう。」


やや前のめりの体勢で、雅は琴音に詰め寄った。

琴音は、変わらず、のんびりと、お茶を啜りながら言った。


「いやいや、全員で6人だよ。あの子達は、ここで穢れた身を祓っているだけさ。元々は、妖と、ひと言で言ってしまえるようなモノですらなかったんだ。それが、身を祓い清め、ここまでになった。これから先も、此処で働き身を祓い清め、此処で働くにふさわしいモノになっていってもらう。そう邪険にせず、見守っていておやりよ。あの子達は、あの子達なりに、頑張っているのだから…。」


怒りに頭がいっぱいになった雅は、身体をわなわなと震わせた。


信じられない。

許すことなんて出来ない。


言葉にせずとも、言いたいことは分かった。


「わたくしは認めません。」


ようやく、唸るように呟いた。

わなわなと震える身体は止まらなかった。


「雅さま…。」


心配した純白が声を掛けた。

俯いていた雅は、覚悟を決めたように顔を上げると、琴音をキッと睨むように見て、今度は、はっきりと言った。


「わたくしは、絶対に認めませんですからね!」

「気を付けてお帰りなさい。あまりカッカしていると、階段を踏み外しますよ。」


琴音は、全く動じなかった


七曜しちようの方々にも、お伝えします。お邪魔しました。」

「失礼いたします。」


捨て台詞を残し、雅は部屋を出て行った。

純白は、深々と琴音に頭を下げてから、雅を追いかけて、出て行った。


「やれやれ。」


2人が出て行った後、琴音は、疲れたように溜息を吐いた。


「………。」


凪は、何も言わなかったが、2人に用意したお茶を片付けながら、心配そうに琴音の様子を窺っていた。






「お待ちください、雅さま。」





「………。」


マリアは、明らかに怒っている形相をして足早に神社を出ていく雅の姿と、その後を慌てて追いかける純白の姿を、何者であるのかも分からず、ただ、何事かと思いながら見ているだけだった。







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