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約束と契約2  作者: オボロ
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#1 月城家の戸惑い



マリア・グレースは、黒石神社で宮司を務める月城琴音の孫娘だ。

トール・グレースと言う名のイギリス人と結婚した琴音の娘の朔乃の長女で、グレース家の先祖がわした『悪魔との契約』の所為せいで、ずっと悪魔に命を狙われ続けていた。

毎年、夏休みになると家族と一緒に遊びに来ていたので、月城家の人達は、マリアという女の子のことは、よく知っていた。

マリアが、琴音と同じように“える”体質であることも、皆、口にせずとも知っていた。

しかし、グレース家に伝わる『悪魔との契約』のことも、その契約の所為で、マリアが悪魔に、ずっと命を狙われて続けていたことまでは、知らなかった。

なので、突然、琴音と一緒に暮らすことになったと聞かされても、「なんで?」と思うし、

マリアの他に、6人もイギリスから来て、神社で働くことになったと、突然、言われても、何が何だか、さっぱり分からなかった。

それでも、琴音の決定は絶対なので、黒石神社で働く新太あらた元暁もとあき陽菜乃ひなのも、琴音の家のことを任されているまどかも、それなりに覚悟を決めて、マリアを含む7人が来てからのことを考えた。


「マリアちゃんは巫女装束でいいとして、他の6人は、いきなり巫女装束ってわけにはいかないだろうな。」


元暁が言った。

イギリスから来るなら、着物を着るのは初めてかもしれない。

初めてならば、着付けが必要になるわけで、6人を着付けるとなったら、1人では無理だ。

着たら着たで、着なれない着物を着て働くとなれば、転んで怪我をしてしまう危険がある。


「ジャージでは見た目が悪いし、私服という訳にはいかないぞ。」


新太が言った。

神社で働くことは、神職といわれるほど神聖なもの。

それなりの格好をしなければいけない。


「じゃあ、作務衣さむえは?」と、元暁。


作務衣とは、着物を動きやすくしたようなモノだ。

見た目にも、然程、神社の中で、違和感はないかもしれない。


「そうだな、作務衣ならいいな。」


新太は、ようやく賛成した


「あとはサイズだけど、フリーサイズなら大丈夫かしら?」

「身長はどれくらいだろう。やっぱり外国人だから大きいのかな?」

「女の子でしょ?そんなに大きくないわよ。マリアちゃんのお友達なら、マリアちゃんと同じくらいか、少し大きいぐらいなんじゃない?」

「だったら、フリーサイズで大丈夫でしょ。明日、早速買って来ましょうか?」


4人は、どんどん計画を進める。

琴音は、4人の話を遮った。


「そんなものは、まだ用意しなくていいよ。それより、小さめの掃除用具を揃えておくれ。小学生でも使えるような大きさのものだよ。軍手とか、箒とか。熊手もあった方がいいかね。」


「なんの話ですか?イギリスから来る子達の話をしているんじゃないんですか?」

「あの子達の物は、まだ必要ないよ。来てから用意すればいい。急がなくていいよ。」


琴音に言われ、作務衣の準備は、後回しになった。


「部屋はどうしますか?」


望は、新な質問を、琴音にぶつけた。


「お友達でも、7人で1部屋は狭いですから、もう1部屋、用意しますか?」

「いや、とりあえずは、マリアが使う部屋だけ用意すればいいよ。布団の用意も、マリアのだけでいいからね。」

「え?いいんですか?他の子達は自分で持って来るんですか?……あっ!ベッド?ベッドじゃないとダメだから、簡易ベッドを持って来るんですか?だったら、あの部屋じゃ狭いんじゃ……」


勝手に解釈して慌てる望を、琴音はたしなめた。


「落ち着きなさい。慌てなくて大丈夫。それもこれも、来てから考えれば済むこと。何も特別なことはしなくていいんだよ。毎年、マリアが来る時と同じようになさい。後から朔乃達も来ます。いつも通りでいいんです。」


黒石神社に関わる月城家の者達の、マリアと6人が来るにあたっての話し合いは、“いつも通りのこと以外は何もしない”———で、終わってしまった。




何の準備もせぬまま、日は過ぎ、マリアが来る日になった。

マリアを迎えに行ったのは、元暁だけだった。


「本当に、食事の用意をしなくて、いいんですか?」

「いいんだよ。ただ、おにぎりを作ってもらおうかね。」

「おにぎりですか?」

「そう、小さめのおにぎりを12個、用意しておくれ。マリアには、普通の食事を。6人には、朝昼晩と、おにぎりだけで充分。そうさね、お茶ぐらいは用意してあげようかね。それだけでいいよ。それだけで十分だ。部屋の用意も布団の用意も、マリアのだけでいいからね。」


望は、マリアの部屋の準備をして、多めにお米を炊き、料理は2人分だけ用意した。



マリアが到着した。


「これから、お世話になります。よろしくお願いします。」


マリアは一人だった。


「あら?他の子達は?」

「空港には、マリアちゃんしかいなかったよ。別で来るんでしょ?」


一緒に戻って来た元暁が言った。


「マリアちゃん、他の子達、迎えに行かなくて、大丈夫なの?」

「はい。今から迎えに行きます。近くまで来ているはずなので。おばあちゃん、いい?」


望に聞かれ、マリアは笑顔で答えると、琴音を誘って迎えに出た。

マリアと琴音が出て行った後、家に残された元暁は、用意されている食事の少なさに驚いた。


「今から6人も来るのに、この量でいいの?これじゃあ、2人分じゃないの?」

「いいんですって。用意する必要ないって、お母さんが言うんですもの。仕方ないわ。6人には、おにぎりだけでいいって。部屋も布団も用意していないのよ。お母さん、本当はその子達の事、あまり歓迎していないのかも……。」


しばらくして、琴音とマリアが帰って来た。

家に入って来たのは、琴音とマリアだけだった。


「あれ?他の子達は?」


マリアの後ろを確認して、元暁は聞いた。


「うん。しばらくは、森に泊まるわ。」

「森?野宿ってこと?どうして?」


マリアの答えに、元暁は耳を疑うように聞き返す。

マリアは返答に困った。


「うん…。ちょっとね。」

「いいんだよ。しばらくは森で寝泊まりして、周囲の草刈りやごみ拾いをしてもらうことになったから。そうそう、前に頼んでおいた子供用の掃除用具、出しておいておくれ。後でマリアに持って行ってもらうから。あと、子供の古い運動着を5人分、親戚回って集めて来ておくれ。それも一緒に持って行ってもらうからね。急いでおくれ。」


言葉を濁すマリアに代わり、琴音はきっぱりと言った。

元暁は、琴音の、ついでのように付け加えられた言葉に、疑問を持った。


「子供用の掃除用具なんて、どこに持って行くんです?」

「あぁ、マリアに持って行ってもらうからいいよ。これもマリアには良い経験なんだ。」

「何かあるんですか?運動着も……。同じ子供達に渡すんですよね?5人ですか?」

「そう。ボランティアで階段下の掃除をしてくれることになっているんだよ。夏休みだからね。用意、頼んだよ。」


琴音は、スラスラと説明する。

子供は5人。

階段下の掃除。

ボランティア。

マリアも経験を積む。

今は夏休み。

何一つ、嘘はついていなかった。


元暁は、首を傾げながらも、承知して、琴音の家を出た。

望は、マリアに食事を出し、おにぎりを作り始めた。



これで、望と元暁に分かったことは———



お母さんは、

おばあちゃんは、


6人の子達ことが嫌いで、

6人の子達が黒石神社で働くことに、

本当は反対なんだ。



————だった。







2章、始まりました。

お付き合いください。

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