プロロー愚
「つ、遂に来た!やっと高校生だぁーーーーー!!!」
桜満開の四月中旬。
心の底から溢れだした歓喜の念を一言にまとめ、これからの生活に期待を膨らませている純粋無垢な青年...。
いや正しくはラブコメアニメに毒されて、実はこの後にでも廃部危機の部活に誘われないかなとありもしない期待を膨らませているただのオタク。
こと僕、結城 凛は新学期早々好きなアニメの聖地であるこの高校に入学できたという事実だけで先程のような妄想をもう数百パターンはしているのである。
行く先敵なしだと見栄を張ったまではよかった。
しかし5月、6月、と時間は過ぎていくものの一向に例のお誘いは来ない。
流石に脳内シュミレーション百戦錬磨である僕も焦り始めた。
そこで気づいたのである。アニメはアニメ。元々あるはずのない出来事を作ったものがラブコメであり、それが魅力の一つであったのだ。
「しまった、最大の敵は自分だったか。」
と、お門違いな負け惜しみを吐くことしかできなかった。
ふと壁を見ると中学生の時に書いた書道の半紙が目に留まる。
そこには「捲土重来」。簡単に言えばリベンジということである。
その半紙には文字だけでなく強い願望もこもっていることを誰よりも知っている
僕が今、敗北に喫している。
過去から未来への励ましと言ってもいいこの四文字が皮肉なことに己をさらに苦しめてしまっている。
この状況がとにかく、とにかく、情けなかった...。
こうして結城 凛はただの大人しいやつへと逆戻り、いや戻る以前に進んでいないので現状維持をすることになったのであった。
この一か月後、僕の人生が重来するところからこのお話は本当に始まる。