申し訳ございません 【13】
思わずチェレミーが口を挟んだ。
「お父様だと?」
チェレミーの一言に、カーバルダ伯爵が大袈裟に肩を竦めて言った。
「メイド風情にお父様などと呼ばれる筋合いはないが__」
流石にこの言い方は問題発言である。普段は使用人たちにも気を使い、このように嫌味な物言いはしない伯爵だったが、やはり親子喧嘩の最中で少し気が逸っているのかも知れない。
「一々主の会話を邪魔するとは、矢張り遊び半分の偽メイドは作法も何も弁えぬと見える」
伯爵自身、今の自分の物言いに後悔を感じているのか、誤魔化す様に慌てて言葉を継いだ。
「どうだね、タツロー君。娘の遊びに付き合わせてわたしも済まないと思っていた所だ。この辺で……」
「お父様!」
さっき皮肉を言われた事も構わず、とうとうチェレミーが父にはっきりと異議を申し立てた。
「約束が違いますわ!タツロー様がわたくしの事を拒否なさるまではお仕えする約束でしたでしょう?」
「口を慎まんか、チェレミー!」
伯爵がまたも声調子を荒げた。
「タツロー君がお前の機嫌を損ねまいとどれだけ気を使っているか分からんのか」
「それはお父様の方ですわ!」
チェレミーも感情を剥き出しにして言った。
「家主であるお父様からそのように迫られて、タツロー様が否と言える筈が御座いませんわ!お父様はお立場の弱いタツロー様を脅迫なさるおつもり?」
「脅迫だと?」
先程の伯爵の一言と言い、御互いに大分気がささくれているようだ。流石にここまで刺激の強い表現を使えば荒れる事は必定、周りで見守るアンジェリカとラシーヌも、不安、と言うより半分怯えながら青い顔で身を強張らせた。マクダルだけは、多少用心深そうな気配なれど、本質的には気楽な野次馬根性でこのやり取りを見物していた。
その、いさかいの原因となった当のタツローだが__ほとんど硬直したように座り込むばかりだった。