本編予告 2
タツローたちとやり取りしているリベルナは『拳法無宿』で少しだけ登場してます。
「申し遅れました、わたくし、チェレミーと申します」
戸惑うタツローに代わって、少女が上品に答えると、タツローは、明らかに動揺の気配を見せた。何かを言おうとしたタツローよりも一瞬早く、チェレミーと自己紹介した少女が言葉を継いだ。
「こちらはタツロー様、私の……」
少女__チェレミーが再びタツローに意味をハッキリ込めた眼差しを送ると、タツローは決定的に弱り果てた表情で目を反らせた。
「わたくしの……」
チェレミーが、今から言わんとする言葉の甘酸っぱい感じを噛み締めるように、夢見る瞳で、ため息をつくように言った。
「だんな様ですの……」
その一言を合図にしたように、タツローが天を仰いで嘆息した。
「だんな様ねえ……」
まあ、そんな所でしょ、と言わんばかりの口ぶりで、娘がタツローの価を値踏みするような目付きを露骨に向けた。傍から見てみるに、彼女の胆のうちでは相当にタツローの男としての価値が目減りした模様である。見るからに腕一本で世の中を押し渡っている拳法自慢の無宿者といった風貌から、賞金稼ぎの武芸者が人買いから貰い下げた少女に趣味でメイドの格好をさせて、そこら中を連れまわしている、そんな程度の図式が頭に浮かんでいるのかもしれない。
「で、そのだんな様のタツロー様だけど……」
娘が言うべきことをまとめるように、言葉をいったん切った。
「何でわざわざあんた、だんな様のこと、紐につないでたの?」
「アン、それは……」
またまた大っぴらに幸せの声を上げたチェレミーの傍らでは、なんとも律儀に調子を合わせるが如く、タツローが下を向いた。娘も、ええ加減にせい、という顔付きであきれた様子である。
「わたくしの身を案じての事ですわ」
恥じらうように身をよじりながら話すチェレミーの姿に、いよいよタツローはどうしようもなく追い詰められた様子である。
「身を案じてねえ……」
それで腰紐とは、娘ももうこれ以上その話題に触れる気力も無い模様である。チェレミーを無視して、疲れきった声音でタツローに対し、更に質問を続けた。
1は『拳法無宿』に移しました。
こちらも是非お読み下さい。