申し訳ございません 【7】
その時、ドアを開けてまた一人、室内に入ってきた。噂をすれば、と言う諺の通り、入室してきたのは当のチェレミー本人であった。
「あら__」
何も知らないチェレミーが屈託のない笑顔で声を掛けると、只でさえギスギスしたその場の空気が、更にややっこしい雰囲気に変じた。
「あ__」
メイドたちの醸し出す、不穏な空気にチェレミーが少し気押された様に立ちすくんだ。
「あ、あの、わたくし、お邪魔でしたかしら__」
「いいえ!」
ラシーヌが、ぐわっと身を乗り出すように言った。
「お嬢様になんの落ち度も御座いません。悪いのは、全てあの、タツローとかいう流れ者でございますわ!」
「え?」
「チェレミー様、何とおいたわしい__」
脈絡の無いラシーヌの言葉に、チェレミーはキョトンとして?マークを浮かべるばかりだった。
「とにかく!」
ラシーヌが決然と言い放った。
「このラシーヌが来たからには、あんな男のほしいままにはさせませんわ。どうかチェレミー様はご安心なさいませ!」
「ラシーヌさんたら」
全く意味不明の言葉を連発するラシーヌに、くすくす笑いながら、チェレミーが言った。
「それより、聞いて下さいますか?たった今、タツロー様の御側で御用を勤めてまいりましたの」
「お嬢様__?」
幸せを満喫するように語るチェレミーの無邪気な物言いに、ラシーヌが不思議そうな顔を見せた。
「タツロー様ったら……まだこの仕事に不慣れなわたくしの事を気遣って……とっても優しくて慎み深い方ですの」
ラシーヌの目に燃え上がる炎を前に、ライザとアンジェリカは怯えて肩を寄せ合っていた。