申し訳ございません 【5】
タツローは、過去を振り返っている。
瞼を閉じてみれば、色々有った。
殆どロクでも無い思い出ばかりだったが。
一所不定の武芸者家業で身を立てるというのは、中々たやすい事ではない。如何に時代が経済振興の途上にあるとはいえ、否、なればこそタツローのように何とてとりえの無い、潰しの利かぬ不器用者に世間の風は冷たいのである。
仕事を干されるきっかけとなったのは、八百長破りであった。
バカな事をした、と今になって我ながら自分の短慮に後悔の念仕切りと言った按配であった。今まで、星を売った事はあったが買った事はなかった。一つには貧乏で売る一方だと言う懐事情もあるし、矢張り若さから来る気負いも否めない。しかし、こう言ったやり取りは人間関係を円滑にする、一種の挨拶のような一面もある。中には、実力が明らかに上であるにも拘らず、格下の相手から星を買ってやると言うベテランも居た。そういう大物が駆け出しの若手から星を買い上げても、誰もその行動を卑しいとは思うまい。買ってもらった方も、自分はそこまで評価されているのかと発奮する。無論こういった行動に対し、若造を懐柔しようと言う露骨な人気取りだと揶揄するものも少なくは無いのだが。
女性関係でも、惨めな思い出ばかりだった。それだけに、タツローの女性観は多少屈折している。
過去には都合4回同棲を繰り返したが、最後には追い出されるような結末で締められるのであった。
相手は水商売とか流しの踊り子とか、男あしらいに慣れた、世間ずれした女ばかりであり、タツローのような糸の切れた風船のような昼行灯など、気まぐれで引き込んだと思ったらアッサリと放り出すくらいお手の物である。
タツローのほうも、成り行きに身を任せた挙句、相手の方で情が湧いたら少しばかり気も変わるはずだとか甘っちょろい事を考えていたから同衾生活など長続きするはずが無い。