申し訳ございません 【2】
「おはようございます、チェレミーさ……」
ラシーヌは、声を失った。
「チェレミーさま?!」
それっきりでラシーヌは一言も無い。無理も有るまい、いつも見慣れたチェレミーの、初めて見るその出で立ちに流石のラシーヌも言葉が出ない様子である。
ラシーヌの目の前に立っているのは、自分と同じメイドのエプロンドレスに身を包んだ、この館の主カーバルダ伯爵の一人娘チェレミーであった。
目を丸くしてこちらを凝視するラシーヌの視線に流石に気恥ずかしい想いなのか、チェレミーは照れくさそうな上目遣いで、身を縮めるように肩を竦めていた。
「お嬢様、その、御姿は__」
「……おかしいですか……」
「__い、いいえ!」
驚きのあまり言葉も無いラシーヌだが、ともかくチェレミーの気分を慮って力強く答えるのだった。
「そのような事は、決して!」
「そうですか」
心から幸せそうな笑顔で答えるチェレミーに、ラシーヌの胸は更に熱くときめくのであった。
「それでは、ラシーヌさん。わたくしも仕事が御座いますので失礼致します」
「あ、いえ、こちらこそ__」
まるで本物の新米メイドのように初々しく叩頭したチェレミーに、ラシーヌも会釈を返した。
「……」
忙しそうにその場を後にしたチェレミーを見送って、暫し放心状態のラシーヌだった。
「あ……あの……」
そんなラシーヌに後ろから、何やら申し訳なさそうに声を掛けたのは女中の一人、アンジェリカ。
「あ__」
振り向いたラシーヌは未だに心ここに在らずという面持ちであった。