おてやわらかに 【7】
「それでは__」
懐からハンカチを取り出し、チェレミーがタツローの膝に手を添えた。
「お召し物が__」
「いや、その、別にこれ位で」
タツローの穿いたボロボロのズボンにかかった茶を、チェレミーが拭き取り始めた。
「少しの間です、ご辛抱下さいませ」
そう言いつつ、チェレミーは顔を伏せ、タツローとは目を合わせないようにして、懸命に膝にかかった紅茶を拭い取っていた。ビシャビシャになるほどこぼれた訳ではないのだが、チェレミーは何やら無我夢中で手を動かしているようだった。こぼれた紅茶を拭きとるというよりは、何か意味も分からずその動作を懸命に、ただひたすら繰り返しているように思えるチェレミーだった。
“これは__”
その意地らしい姿を見て、タツローが小さな感動を覚えた。
チェレミーは恥ずかしいのだ。やはり温室育ちの令嬢、布地を通してとは言え男の体に手を触れる事に、やはり相当の恥じらいと言うか、抵抗感があるのだろう。にも拘わらず、チェレミーは一心にタツローの膝を拭き続けていた。世の中には、このような汚れ無い少女も確かに実在するのである。水商売の女の間では、客にわざと飲み物をこぼしてはふき取る名目で手を触れたりズボンを脱がせたりするサービスが当たり前であるが、世の中の垢にまみれていない深窓の令嬢にとっては一大決心なのだろう。
「__失礼致しました」
適当にタツローのズボンを拭った後、チェレミーは後ろに下がって頭を下げた。何やら居た堪れないように俯いたままのチェレミーは自分を見失っているのかどうか、タツローと目を合わせる事も出来ないほど身を固くしていた。恐らく自分で自分が何をやっているのかすら分からないのではあるまいか。別に自分が何をしたという訳でもないのに、チェレミーは真っ赤な顔で身を縮めるようにそこに立ち竦んでいた。その、清らかとも可憐とも言い難い姿に、タツローは言いようの無い感覚を覚えていた。だが__
“アカン__”
タツローも、自分のその想いの正体は把握している。