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おてやわらかに 【4】

弾むような調子で廊下を進むチェレミーを、ライザとキエナが物陰から見張るような物腰で窺っていた。


「キエナさん、ライザさん__」


チェレミーに声を掛けられると、二人は慌ただしくはたきや雑巾をせかせか動かし、ワザとらしく掃除の仕草を強調した。


「お……お嬢様……」

「いやですわ、お二人とも」

上機嫌、を通り越して、今この瞬間が嬉しくて仕方が無いと言わんばかりの笑顔でチェレミーが答えた。


「今のわたくしはあなた方と同じ、女中の一人でございます。お嬢様は無いのでは御座いませんか??」

「そ、そうでしたわね……」

キエナもライザも困惑の気配を隠そうともせず、言われるがままに返答した。


「何と申しましても、本日只今よりお勤めに就いたばかりの新米でございますので、これからも先輩方のアドバイスを仰ぎたいと存じます。行き届かぬ事も御座いますが、何卒御指導、御鞭撻のほどを__」


「いえいえ__」

「滅相も御座いません__」

丁重に叩頭するチェレミーに向かって、二人も懸命に頭を下げた。


「それでは__」

チェレミーが、改めて二人に向かって叩頭した。


「タツロー様より御用を仰せつかっておりますので__失礼致します」


「ハ、ハイ__」

「御気を付けて__」

キエナとライザも、慌てて頭を下げると、浮き浮きとその場から去ってゆくチェレミーを為す術も無いと言う風情で見送った。



「お嬢様__」

キエナが憂鬱とも、何とも言い難い様な面持ちで呟いた。


「キエナさん……」

ライザも心配そうに声をかける。


「だ、大丈夫ですよ……」

何が大丈夫なのかは分からないが、兎も角心労を患うキエナに、気休めの言葉を掛けずにはいられないライザだった。


キエナは現在二十三歳。

婚約者もおり、もうすぐ寿退職を迎える、この屋敷では二番目に年長の御局様クラスと言える序列のメイドなのだ。結婚を控えてこのまま何事も無く御屋敷奉公を全う出来れば言う事はないのだが、何やら事態はそれを許さぬ不穏な方向へ動き出しつつあるようである。


「キエナさん……」

遠い眼をしたキエナに、ライザが今一度、心底気の毒そうに声を掛けた。


キエナとしても、折角ここまでつつがなく勤め上げた女中奉公だけに無事穏当に済ませたかったが、最後の最後になって予想外の騒動に巻き込まれそうな状況となり、心配もひとしおなのであろう。

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