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おてやわらかに 【3】

館の一室__タツローが、カーバルダ伯爵から個室としてあてがわれた部屋では、何やら無意味な至福感に彩られた、有耶無耶な時間が流れていた。



「何か、御用はございませんか?」

「え……」

チェレミーの、催促のような問いかけに、タツローが不思議そうに答えた。


「御用、ですか……?」

チェレミーが、何かを期待するような微笑みとともに頷いた。


御用御用と言われても、今現在をもってタツローに、御恐れながらと訴えて出るような御用の筋は別段起こっていないのである。


「……御用は、で御座いますねえ……」


明らかに、何か用事を申しつけて欲しいというチェレミーの心中を機敏に察したタツローは、何か脅迫観念にも似た危機感で何か頼む事は無いかと懸命に頭をひねった。


チェレミーが、一言も発する事無く、息を呑むような気配で待ち受けている。その緊張感の真っ只中を、大海原を一人漂う遭難者のような気分でタツローは頭をひねっていた。

刻一刻過ぎゆく時間が、タツローにとっては追い詰められる様に慌ただしい経過であった。


「……できたら、御茶を一杯……」

漸く思いついた、必死の一言であった。


「御茶でございますか?」

「はあ……」


「御茶の葉は、どの銘柄がよろしいでしょうか?」

「あ……番茶で結構……いや、適当に……お願いします」


「ハイ」

弾けるような笑顔とともに、元気良く頭を下げるとチェレミーは答えた。


「畏まりました」

足取りも軽く、部屋を後にしたチェレミーを見送ると、タツローはふー、と一息付いた。

息詰まるやり取りを切り抜けて、一人放心したような面持ちのタツローが呟いた。


「……エライ気疲れするなあ……」

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