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 句射譁は重たい口を開いた。

「あのさ、私の家に兄がいること知ってるじゃん?」

「ん?うん。むっちゃかっこいい人だよね。私初めて見た時びっくりしたもん」

 いきなりの言葉に、若葉は戸惑いながらも答える。

「あのね、アイドル活動やってんの」

「ごめん、そっち系に興味無くて...」

「別に。でもさすがに曲ぐらいは知ってると思う」

 時々、句射譁は情緒が不安定になる。いつもは泣き乱したり、ずっと唸っているなど、はっきりと喋ることは少なかった。それが、初めてちゃんと喋れているのだ。若葉は不思議で仕方なかった。いつもは、落ち着いてと声をかけても無駄なのに。むしろ落ち着きすぎて怖いぐらいだ。こんな句射譁は初めて見た。それほど、辛いことなのだろうか。若葉はこれからどんな話をされるのか心配で仕方ない。私が聞いていい話なのかも不安だった。

 そんな不安を句射譁は受け取ったのか少し自嘲気味に笑って、早口で語り出した。

「私の兄さん、天衣無縫(てんいむほう)っていうグループに所属してたの」

「!?あの!?」

 天衣無縫とはたった3年でトップアイドルに上り詰めたユニットアイドルだ。今は4人で活躍しているらしい。アイドルに興味のない若葉にさえ、耳に入ってくるぐらいにクラスの話題に昇っている。

「うん。兄さんってあの顔でケーキなの...だから、昔からよく変人に絡まれやすくて...兄さんは人を信じやすいし。だから、私が隣についてまわって。兄さんにとっちゃ迷惑な事だったかもしれないけど...でもね。アイドルになりたいって言って芸能界に入って、私も高校に入って会う時間なんか無くなっちゃった...それで兄さんどんどん私を置いてって、人気になって。時々顔をぐしゃぐしゃにしながら帰ってきてたから、やめたら?って何回も言ったの。でも兄さんまだもちょっと頑張るって笑って...私がもうちょっときつく言えばやめてたかもしれない。私が母さんと父さんにちゃんと言えば説得してくれたかもしれない...ふ...そうすれば、こんなことに、ならなかったかもしれないのに...う゛...ふっ...」

 気づけば、句射譁は涙を流していた。こんな静かな泣き方を若葉は見たことなく、その場で狼狽えることしか出来なかった。

「何があったの?皂紫さんに」

「う゛...ひっ...うう...ん。話すよ。あのさ、レイプされたの」

「レイプ?」

「うん。兄さんが誰かにレイプされたの。で、右腕が無くなっちゃった。相手はファンのフォークだって。でも、警察は取り扱ってくれなくて...無意味だって。ケーキなんだから。仕方ないって...しかも、事務所からは辞めてくれって自分から居なくなってくれって...ケーキっていうことが世間にバレたから。受け入れて貰えなくなったから、だって。今、SNS見ても兄さんへの批判の文しかなくて...クラスの話題も全部それ。もうヤダ。」

「...そんなのおかしいよ...」

 句射譁の話に若葉本当に少しの言葉しかかけてあげられなかった。その言葉を聞いて、句射譁は無理に笑顔を作った。見てる方が痛くなるような、とても無理がある笑顔だった。

「仕方ないよ。それがこの世界の回り方だもん」

「それでいいの?本当に?仕方ないの?」

 諦めたように言う句射譁を若葉は問い詰める。

「仕方ないんだよ!どんだけ叫んだって!何百万の人には勝てない!無意味なんだよ!全部!全部!」

 句射譁は声を荒らげて泣き叫んだ。

「句射譁がそう言うんなら別にそれでいいよ。でも、私がそういう目に会う可能性だってあるんだよ?私はそこで諦めて欲しくない」

 寂しそうな顔で若葉に言われて句射譁の瞳が揺れた。

 確かに若葉もケーキだった。若葉も兄のようにそういう目に会う可能性はある。しかも、女子高生だ。もう、成人間近の兄でも敵わなかったフォークに敵うはずがない。もっと酷い目に会う可能性があるのは目に見えている。

「ごめん。でも、本当のことだから...私どうしたらいいのかわかんない」

「大丈夫だよ。少しづつ、少しづつ、一緒に考えていこ」

 目をさまよわせて答える句射譁に優しく若葉は答える。そして、まだ涙を流している句射譁を抱きしめた。

「私の彼女かっこいい」

「そりゃそーでしょ」

「んふふ。私、若葉が恋人で良かった」

「うん。私も句射譁が恋人で良かったよ」

 2人の周りに甘い空気が流れる。それに我慢ができなかったのか、1人の生徒が近づいてきて

「あの、図書室ってことを忘れないでくださいね?」

 と、声をかけてきた。

「「すみませんでした」」

 2人は一緒に頭を下げて謝る。そして、顔を見合わせて一緒に吹き出した。

すみませんでしたm(_ _)m

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