藹藹喫茶
ある日の昼の事。
とある喫茶店の中にあるテレビを2人の男性が見ていた。
『次のニュースです。アイドルの児玉皂紫さんがフォークのファンに暴行に会い...』
と、テレビの中でニュースキャスターが告げている。
それを見たこの喫茶店 、藹藹喫茶の店主、瑞光菫は顔を顰めて呟いた。
「嫌なニュースだな」
それを見た菫の友達の寒空冬麓は笑いながら
「店主がそんな顔してちゃ駄目だろ」
と菫をからかった。
菫は少しムッとしたが、すぐに営業スマイルになり、わざとらしく聞いた。
「お客様、今日は何のご用件で?」
冬麓がこの店にやって来る時は大体が菫に頼み事がある時なのだ。
「用件?あ、そうそう子供預かる気ない?」
「子供?」
いきなりすぎる話に菫は破顔し、素っ頓狂な声を上げた。
「子供?いや、お前がクズってことぐらい普通に知ってたけど、まさか子供まで作るとは…」
「勝手に妄想しないでよ」
勝手に想像を膨らませていく菫を冬麓は冷ややかな目で見ていた。
「違うよ。俺の子じゃない。桜子ちゃんの娘の桃花ちゃんのことだよ」
「桜子ちゃんの?」
ちなみに桜子とは菫の大学生時代の後輩だ。
いつも明るく、元気で前向き思考なので娘の桃花を預かってくれっていうことは菫にとって考えられないことだった。
思考が停止した菫をみて、冬麓は説明を始めた。
「桜子ちゃんがフォークで桃花ちゃんがケーキなことは知ってるよね?」
「ああ」
桜子はフォークだ。夫もフォークだったらしいが、何故か桃花はケーキだったらしい。それは風の便りで聞いたことがある。
「桜子ちゃん今まで抑制剤で衝動を抑えてきたわけだけど、さすがにもう金が底をつきそうなんだって」
抑制剤とは、ケーキには甘い匂いを抑える効果が、フォークにはケーキの匂いを感じにくくさせる効果がある薬のことだ。
近年では飲むことが普通になってきたが、まだまだ値段は高く、手に入れることが難しい。
その抑制剤を2年間飲み続けれた桜子はすごいのだ。
「で、もう私と一緒に住んでたら危険な目に合わせてしまうかもしれないって、菫に桃花ちゃんを預けようって決心したわけ。で、それを伝えろ。って言われたのが俺」
「なら、俺が預かればいいだけの話なんだな?」
「そう」
菫の質問にこくんっと冬麓は頷く。
「わかった。引き受けるよ」
「ん。ありがと、じゃあ俺帰るから」
そう言いながら冬麓は立ち上がった。
「え?もうちょっといてもいいのに」
「俺も暇じゃないんでね」
そう言い残して冬麓は店を出ていった。1人残された菫は
「よっしゃ、午後の仕事も頑張るか」
そう言って厨房へ向かった。