俺(ダンジョンマスター)と黒髪の少女(2731字)
『あなたはダンジョンマスターに選ばれました。』
声が聞こえる。なんだ?
俺はどうやら洞窟の中にいて、ダンジョンマスターとやらに選ばれたらしい。
『最初に、あなたの仲間を召喚します。どのような仲間がほしいですか?』
仲間と突然言われても……。
強い仲間で、人型で、話が通じて……。
一定の知力も必要だ。いっそ仲間として、悪魔なんてのはどうだ?
そう思って考える。すると突然頭に声が響く。
『それでは、新しい仲間を召喚いたします』
俺はその声に、洞窟から出て、少し先に進むと、洞窟に新たな仲間が現れた。その姿は黒い髪の少女。
「あなたがダンジョンマスターですかー? なんかパッとしない人ですねー」
「パッとしなくて悪かったな」
「それで、私は何をすればいいんでしょうか?」
「お前は俺の部下ってことか?」
「違いますよー! ただのサポーターです!」
サポーターねぇ…… まあ、とりあえずこの少女には名前をつけてあげよう。いつまでも黒髪だと味気ないからな。
「そうだな……。よし、お前の名前はルノエーだ」
「私の名前ですかー!? ありがとうございますー!!」
それから、ルノエーに色々な事を聞いた。まずここはどこなのか、そして俺は何者なのか。
ルノエー曰く、ここは『始まりのダンジョン』と呼ばれている場所で、人間族が住む世界とは別の場所にあるらしい。
そして、この世界に人間は1万人ほどしかいないらしく、残りは全てモンスターらしい。
さらに、この世界で生きていくために、最低限の知識だけ与えて、後は自分で学んでくれと言われた。
「つまり、俺はダンジョンマスターに選ばれたけど、知識が全く無い状態で、いきなりダンジョンを作れってことだろ?」
「そうなりますねー」
なるほどなぁ……。確かに、ルノエーがいなければ詰みの状況だ。しかし、そんな状況でもワクワクしている自分がいる。
「さて、ダンジョンを作るにしても、何をしたらいいのかわからないし、とりあえず外に出るか」
「えっ? 外に出るんですかー?」
「ああ、何か問題でもあるのか?」
「いえ、別に問題はありませんが、お勧めはできませんねー」
「どうしてだ?」
「この世界には、レベルというものがありまして、モンスターを倒すことで経験値を得て、レベルが上がると身体能力が上がったり、スキルを覚えたりするんですよー」
へぇ〜、ゲームみたいな設定だな。これは面白くなりそうだ。
「ちなみに、ルノエーのレベルはいくつなんだ?」
「私ですかー? 今は4ですねー」
4ってことは、俺よりは低いんだな。
まあ、そりゃそうか。
「ちなみに、外に出るなら、街に行く必要がありますよー」
「街があるのか? じゃあそこに行こう」
「わかりましたー。ところで、ダンジョンマスターさんのお名前はなんと言うんですかー?」
「俺の名前は……。あれ? 思い出せないぞ? 俺は一体誰なんだ……」
「ダンジョンマスターさんの事は、これからマスターとお呼びしてもいいですかー?」
「好きにしてくれ」
こうして、俺は自分の名前が思い出せないまま、ルノエーと共に街を目指すことになった。俺は今、ルノエーと一緒に洞窟を出て、森を歩いている。
「マスター、ここから近い街までどれくらいかかると思いますかー?」
「うーん、森の中で視界が悪いうちは何とも言えんな」
「じゃあ、私に考えがありますー。とりあえず歩きましょうー」
「わかった」
それからしばらく歩くと、小さな川が見えた。
「それで、次は何をすればいいですかー?」
「え? ああ、そうだな……。じゃあ、まずはこの川を調べてくれないか?」
「はい、わかりましたー。『サーチ』」
ルノエーは魔法を唱えると、川に両手をつけた。
「ふむふむ、なるほどー。この川は毒のようですー。恐らく、魚はいないでしょうねー」
「そうか、ありがとう。でも、なんでそんなことがわかるんだ?」
「それは、この川の水が、毒の魔力を帯びているからですねー」
「なるほど、それで毒か……」
「はい、そうですー。それと、この辺り一帯の植物は全て毒草なので、気をつけてくださいねー」
「そうか、わかった」
「他には何かしますかー?」
「そうだな……、この近くに村とかはないのか?」
「村はいくつかありますけど、そこはモンスターの住処になっていますねー」
「なるほどな。でも、そのモンスターってどんな奴らなんだ?」
「そうですねー、ゴブリンやオークなんかが多いですねー」
「そうか、ありがとう」
さて、これからどうするか……。
「よし、とりあえず街に行ってみるか」
「それがいいと思いますー」
この辺りは木々がないので、奥にある街が見える。
それから、俺たちは街に向かって歩き出した。
森に入り、視界が悪くなる。
歩いても歩いても一向に街が見えてくる気配がない。それどころか、全く違う方向に進んでいる気がする。
「なあ、ルノエー。本当にこっちの方向であってるのか?」
「はい、あってますよー。あともう少し歩けば見えてきますよー」
「そうか……」
それからしばらく歩くと森を出て、ようやく街らしき建物が見えるところまでやってきた。
「やっと着いたな……。それにしても随分遠いところにあるんだな……」
「はいー。ここは魔王軍の勢力圏に近い場所にある街なのですー」
「なるほどな。それで、この街はなんていう名前なんだ?」
「この街の名前は、イゼスと言いますー。人口は2万くらいの街ですー」
「へぇ〜、結構多いんだな」
「はいー。ちなみに、イゼスは商業都市とも呼ばれていて、多くの商人や冒険者がやってきますー」
「ほう、じゃあここに行けば何かあるかもしれないな」
「はいとおもいますー」
その後、ルノエーを連れて街の中に入ると多くの人間が見かけられた。
その人たちは男が多く、みんな武装している。
「ルノエー、あれは何をしてるんだ?」
「あの人たちですかー? 彼らは武器屋に防具屋、宿屋などに出入りしていますねー」
「なるほど、じゃあ俺はまず宿を探そうかな」
「わかりましたー。では、こちらの方へどう