ドラゴンのむぅ+生贄のアリス(1725字)
ドラゴンのむぅが草原で寝ていると、少女が現れた。少女は、むぅの体をぺちぺちと叩く。
むぅは目覚める。
「誰?」
「私はアリスです。竜の生贄として私を捧げるので……その……私を食べてください」
「……えっ? 何? どういうこと?」
むぅは困惑する。
アリスと名乗る少女は、生贄になろうとする訳を話し始めた。
どうやら、アリスには兄がいたらしい。だが、アリスが生まれる前に亡くなったという。
その後、村では原因不明の病が蔓延したそうだ。村の人たちは、ドラゴンの生贄を捧げれば治まるだろうと考えたらしい。
アリスの兄の代わりになる生贄を探すために、アリスの家族は、村から逃げるように旅に出たようだ。
そして、アリスの家族は人間に襲われて全滅したという。
それからというもの、アリスはずっと独りだったようだ。
アリスは孤独に耐えられず、自ら命を絶つことも考えたそうだ。だが、死ぬ勇気もなかったので、結局、何もできずにいた。
アリスはおもむろに涙を流す。
「もういいんです……私なんて……食べられてしまえばいいんです」
むぅは、アリスを見て言う。
「むぅは人間を食べるなんて、しないよ?」
「えっ……食べない、の?」
むぅは少女の姿に変身する。
そして、アリスに抱きつく。
「辛かったね」
「うぅ……」
アリスは声を上げて泣いた。
しばらくすると、アリスは泣き止んだ。
アリスは、ふと思い出したかのように言う。
「そういえば、むぅさんはどうしてここにいるんですか?」
「お昼寝。草むらでお昼寝、気持ちいいよ。一緒にする?」
「はい!」
二人は仲良くお昼寝をした。
―――――――――
むぅは、アリスの泣く声で目を覚ました。
「お父さん……お母さん……」
「アリス、どうしたの?」
「家族の夢を見てしまって……」
むぅは、アリスをぎゅっとする。
「アリス……」
「……」
「心が落ちつくまで、むぅと一緒に暮らさない?」
「一緒に……?」
むぅとアリスは、手をつなぐ。
むぅは、近くの洞窟を指差して言う。
「あの迷宮の奥に、むぅの家がある。ちょっと歩くけど、一緒に来ない?」
「はい! 行きます」
アリスは笑顔で言う。
アリスと手をつないで、迷宮の奥にある家に行く。
迷宮には多くの魔物がいる。
「ここ……怖いです。本当に、むぅさんの家はこの奥に?」
「うん」
コウモリの群れがアリスに襲いかかってくる。
「ひゃ!」
むぅの手から炎が飛び出し、コウモリを燃やし尽くす。
コウモリは悲鳴を上げて消える。
「強い……」
「この辺の敵は弱いから、大丈夫」
15分ほど歩いたところで、アリスの目の前に豪壮な扉が現れる。
「アリス。ここがむぅの家」
むぅが扉を開くと、巨大で豪壮な部屋があった。
奥には大量の宝箱があり、金貨や銀貨・宝石などが無尽蔵にある。
その他、剣や鎧・本などが無造作に置いてある。
アリスは目を瞠る。
「すごい! こんなにお金があれば一生遊んで暮らせますよ!」
「お金って、なに? 綺麗だから集めただけだよ」
むぅは首を傾げる。
「えっ? お金はその……お金ですよ」
「これを使うと何かができるの?」
「そうだよ。お金があれば、幸せになったり……ならなかったり……」
「よくわからない。それより、こっち来て」
この部屋にはいくつか扉が繋がっている。
その一つを開く。そこはダイニングらしく、テーブルと椅子が並んでいる。
「ここに座ってて。むぅは食材をとってくる」
アリスは、きょろきょろしながら言う。
「はい!……えっ? 食材?」
「待っててね」
しばらくして、ウサギのような生き物を持って帰ってくる。
「これ、美味しい。アリスも食べるといいよ」
むぅはウサギにかぶりつく。
「えーと……これを食べるの?」
「うん」
「でも……これ、火を通してないよね?」
「火を通すって、何?」
「火で温めないと、お腹の調子が悪くなっちゃうよ」
むぅが手をかざすと、ウサギに熱が通っていく。
全体的に茶色になった。
「こういうこと?」
「そう! いただきます!」
アリスはウサギにかぶりつく。
「美味しい! お肉を食べたのはいつぶりだろう?」
「好きなだけ食べて」
むぅは、さらにウサギを持ってきて言う。
ウサギは山積みになっている。
「さすがに……そこまでは食べられないよ……」
アリスは苦笑いをする。
「人間は小食。仕方がない。アリスはもっと食べた方がいいと思う」