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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
68/69

ドキドキ! 潜入大作戦(失敗) 

 皆さま、明けましておめでとうございます。

 今年も奴隷実験体をよろしくお願いいたします。

 そして、少しお知らせを。

 ストーリープロットを大幅に見直し、設定を練り直した『改稿版』を制作しています。

 ゆくゆくは改稿版を主に執筆していこうと思ってますので、どうぞよろしくお願いします。

 まぁでも、ストックはまだありますので、暫くはこちらの投稿は止まらないと思うので、遠い目で見といてくれれば幸いです。

 では。

   

 面白ければブックマークを押してくれると嬉しいです。

 また、誤字脱字があれば報告をお願いします。

「............は?」


 スッとした細身の身体、切れ長な灰色の瞳に短い黒髪。

 七五三木で黒髪となれば、当主の血縁者。ハウメアには兄がいると聞いたことがある。

 

 この人が......。


 顔からは感情が読み取れないその男は、全くと言って良いほど美丈夫で、世の女達は顔を見ただけで、頬を上気させながら懸想してしまうだろう。

 

 そう、世の女達は(・・・・・)


「今一度問う。私の妻になって欲しい」


 疑うでも、心配するのでもなく、告白されるとは思わなかった。

 いや、誰も、思わないだろう。

 見ず知らずの人間が、花畑に転がってるのに、そいつに求婚する奴が何処にいる。

 

「......」


 ここにいた。


 怪しまれないように、最大限美しい見た目にしたのが仇になった。

 まさか、惚れられるとは。

 だが、それでいい。

 失敗ではあるが、間違った訳ではなかったようだ。

 まだ、ゲームオーバーになっておらず、スタートボタンを押せば、再度、潜入を再開できる。

 中に入ってしまえば、段ボールを被って動くなり、エロ本で釣って麻酔銃で眠らせるなり何でも出来る。

 今、この状況を打開すれば。僕の勝利だ。


「返答は如何に?」


 倒れた僕の右手を救い上げる様に優しく掴み、表情はなくとも瞳の奥から燃える恋慕の炎が見えた。

 

「―――も、申し訳ございません。まだ、仕事中ですので」


 立ち上がり、身嗜みを整えると、手を離し、厳静の横をすり抜けようとするが。


「待て」


「っ......何でしょうか?」


「まだ、返事を聞いていない」


 こいつマジか。

 男の身長や顔から察するに恐らく十五歳から十八歳。つまり高校生くらいの年齢だろう。

 そして、今の僕は精々十二歳ほど。つまり小学生だ。

 

 目の前のあれ()は、突然花畑に現れた小学生に求婚した限りなく変態に寄りの人間であると推測される。


 最早、どっちが不審者か分からない。


「仕事が残っておりますので」

 

 もう一度同じ言い訳を並べ、声によって繋がれた鎖を引きちぎると、縁側に向かって駆けた。

 がしかし、初めて恋をしった男はそんな小手先の言葉で切り抜けれる程、甘くなく。


「―――そうか、お主は給仕の者であったか」


 いや、最初に気付けよ。メイド服着てただろう。


 駆けながら、後ろを振り向きくと、静厳が消えていた。

 まるで、元から誰も居なかったかのように、僕の痕跡以外残っていない。

 頭に疑問符を浮べながら、靴を脱ぎ、軒下に隠すと、立ち上がる。


「ちょうどいい。給仕と言うのなら、私の食事の席まで共をしてくれ」

 

「ッ!」


 何時の間に移動したんだ。

 花畑からここまで距離がある。一直線に走り抜けたのに、周りには静厳の声を聞きつけた従者だけ、追い抜かされたのに気付かなかった? もしや祝福か?


「貴方、静厳さまに早く付き従いなさい!」


 同じメイド服を着た、年を召した壮年の女性。おそらく、上司だろう。

 ここで下手に、動けば、怪しまれてしまう。ここは、大人しく従っておこう。


「......はい」


 トタトタ廊下を走り、悠然と歩く静厳の後ろを追いかける。


 何だ何だ。

 なんなんだこの状況は。


 想い人に会う為に、潜入したら、まさかのその兄に見初められ、追従している。

 

 頬から冷汗が滴り、出来るだけ、怪しまれないように、横切る人から顔を背ける。


 予想の斜め上をゆく事態に、どうしたものかと必死で思考を巡らせ、ていると、更に追い打ちをかけるように、聞き慣れた足音が聞こえてくるではないか。


 ハウメアだ。


 考えろ。

 足音が聞こえてくるのは、左の曲がり角の奥から、この歩く速さだと、ハウメアが先に出て来ると予測される。

 ならば、変身した小さな身体を生かし、静厳の陰に隠れるのはどうだろうか。

 いいや、どうだろうかではない。もう、それしかない。

 『お兄様そいつは誰ですか?』『私の妻になるモノだ』『クンクン......この匂いはエリス。―――あんた浮気したわね!』

 何てことになるかもしれない。

 だから、静厳と一緒にいる所を見られるのはまずい。

 

 猶予もない今、苦し紛れの作戦でも、やるしかないのだ。


 決意を胸に、身体を右にずらし、外に落ちるギリギリを攻めながら、自信より大きな身体に密着するように距離を縮めた。


 もう直ぐ、見える。

 後......直ぐ。


「......む」


「ぐふっ!」


 あとちょっと、と言う所で突然、静厳が足を止めた。

 角から見えるハウメアに全神経を集中していた自分は、それに反応することが出来ず、勢いを殺すことなく、鍛えられた男の身体に追突、間抜けな声を上げながら、そのまま後ろにグルグルと後転しながら、外の砂利の上に落ちて行った。


「......何そいつ」


 頭から落ちた僕は、後転の途中で止まったような、仰向けの状態で尻を上に上げた、何とも珍妙な態勢で制ししており、自身の足の隙間から見えた、廊下に立つハウメアの顔は何とも冷やかなものであった。

 初めて会った時は、ずっと怒りの顔。

 恋人になってからは情熱的な表情。

 しかし、今のハウメアの顔は、今まで見たどれとも違い、真に興味のないと言った感じの無感情であり。

 辛うじて、瞳からは何の感情も読み取れない氷のように冷たい何かが、僕の臀部に突き刺さったのみだった。


 恥ずかしさと、今まで向けられたことのない感情による、寂しさが入交、顔を上気させながら、さっ、と立ち上がり、『失礼しました』と蚊のなくような声でそう言うと、静厳の後ろに隠れるように立った。


「庭園の花畑で作業をしているところを見つけた」


 自身のへまにより、想像していた最悪のルートに入ったのを確信した。

 心の中で『話すなー!』と念じながら、バレた時を想定して、言い訳と代償を考え始めた。


「あっそ」


 しかし、会話は続くことなく、短くそう言うと踵を返し、自分達が行こうとしている方向に向かってスタスタと歩いて行ってしまう。

 内心ガッツポーズをしながら、ほっ、と息を吐き、今だけは兄妹の不仲に感謝した。

 

「......」


 そんな、去り行く妹を目で追い、何やら考えているのか腕を組み動かない兄。


 食事がすんだら、どさくさに紛れてハウメアに付いて行こう。  


 そうと決まれば、自分の陰を薄め、給仕に徹することにしようと、意気込んでだだっ広いダイニングルームへ。

 相変わらず、和洋折衷のような内装が気になるところではあるが、今はそんなことを気にしている余裕はない。


 何故なら......。


「......」


「......」


「......」

 

 図書館のような静謐な雰囲気が周囲に漂っている。

 豪華絢爛の食事が載った大きなテーブル。

 僅か、三つの席に当主である正十郎、そしてハウメアと静厳。

 

 何だこの食事風景は。

 葬式会場かここは。何で誰一人話さないんだ。

 いや、話さないのは別にいい。僕の所でも、食事中は会話しないから。

 

 でも、こんな思い空気ではない。


 まるで、叱られた後のような何とも言えない張り詰めた感じに、思わず顔を顰めてしまう。


 あらかじめ、誰が何の役目か決まっているようで、僕の仕事は存在せず、ただ、静厳の席の後方に木になって固まっていた。

 そんな中、黙々と食べる三人に、この雰囲気を意に介することなく己が役目をテキパキとこなすメイド達を見ていると、不意に視線を感じた。


「......」


 肌に刺さるそれを辿ると、正十郎の目と合ってしまう。


「お前は誰だ?」


 全身の血の気が引いた。

 首元にナイフを突き付けられているような、感覚に陥り、全身の筋肉がこわばり、上手く動かない。


「私の従者です」


「従者だと? ―――」


 両手に持った食器を机に置き、くいっと手招きする。

 恐怖で動けずにいると、さささ、といつの間にか僕の後ろにいたメイド達が、左右の両手を掴み、正十郎の傍まで連れて行った。

 その間、恐怖と焦りから脳が混乱状態になり、思わずハウメアに助けの視線を送る。が、変身している僕に何も思っていないらしく、周りの状況を確かめようともせず、ただ黙々と食事を続けていた。


 助けて―――!!


 小さな身体を更に小さくし、震えている様はまさに小鹿のよう。

 普通だったら携帯のように小刻みに振動している僕を見て、笑ってしまうものだ。

 実際、あまりの怯えっぷりにメイドの何人かはクス、っと声が漏れていた。

 それでも、直ぐに顔の筋肉を定位置に戻すことが出来るのは、やはりプロだからだろう。


 いいや、そんなことはどうでも良い。


「............」


 怖い! 怖い! 怖い!

 

 て言うか近い!


 手を伸ばせば後頭部を触れるほど近くに、正十郎の顔面がある。

 短い獅子のような黒髪、顎と鼻下の髭、見ているだけで人が殺せそうな鋭い眼光、角ばったその顔からは、怒っている訳でも、ましてや笑っている訳でもない。

 ハウメアと同じように何も思っていないのか、それとも感情を胸の内にしまっているのかは分からないが、兎に角何を考えているのか分からなかった。


 汗をだらだら描きながら、必死に視線を外そうと目だけをグルグル動かしている僕を、見て、ハウメアを一瞥すると『まあ、いい』と一言。


「お父様、従者を苛めるのはおやめください」


「苛めてなどおらん。―――それより、その者を下がらせよ。身体の震えで皆地震かと、飛び出してしまうぞ」


 至極真剣な声音から繰り出されるその言葉に、無を貫いていたメイド達が一斉に噴き出してしまい、一瞬、どっと沸いた。


 そして、丁度その時に、ハウメアは食事が終わり、部屋を出て行こうとする。


 丁度いい。このままハウメアに付いて行って、機を見て変身を解こう。


「失礼しま「お待ちくださいお父様」......す」


 出て行こうとする僕に待ったをかける。


「このメイド。私は痛く気に入りました。宜しければ私の専属に」


 何言ってんだこいつ。


 あまりの唐突な事態に、正十郎も顔に出さないが困惑しているようで、言葉に困っていた。

 出て行ったハウメアに視線を送る当たり、何か察しがついているのだろう。

 

『お願いします』


 念を込めた視線を送るが、ふっ、と笑いグラスを持ち、僕の想いを一蹴する。


「―――良い、元々私にはかかわりのないこと。好きにするがいい。私は何も干渉せぬ」


 このクソジジイ!

 

 飲み物を飲む正十郎を恨めしそうに見ていると、『それでは、失礼します』と何時の間にか食べ終わっていた静厳が立ち上がり此方を見る。

 直ぐに表情を戻し、視線を下に向け『失礼します』とどさくさに紛れて、先の命令を遂行しようと、頭を下げ、部屋を出よとするが。


「どこに行こうとしている。今日から私の専属だ」


「......」


 声で制しされ、『ついてこい』と一言。


 あーどんどんこじれていく。


 自身の潜入能力の乏しさに、心の中で失笑しながら、夜までになんとしても終わらせようと意気込み、大きな背中に向かって歩いていくのだった。



 


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