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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
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七五三木邸へ

 面白ければブックマークを押してくれると嬉しいです。

 また、誤字脱字があれば報告をお願いします。


 前にもお話したように、今年最後の投稿になります。

 再開日は年明け、一月頃を予定しております。

 

 時間は進み、夜。 

 やることをやって、自室の机の前に座り、物思いに耽っている最中。

 

 結局、この日は、ハウメアは僕達と話すと直ぐに帰ってしまった。


 去り際、『決闘が終わるまでここには来ないから』と宣言。

 止めようとする声は、彼女の背が見えなくなってから発した為、想い人の耳には入ることはなかった。。


 ミリアの件。ハウメアに話そうと思ったのだ。

 

 しかし、状況が状況だ。

 ゆっくり話せる間はなかった。だからと言って、誰かに伝言を頼むのは勿論のこと、手紙も露呈する可能性があるモノは使えない。

 周りに人がおらず二人きりの状況に於いて、やっと口を開くことが出来る話題。


 困った。


 これから、決闘まで、つまり計画の決行日まで一度も会うことが出来ない。

 

 さてどうやって、この事を伝えようか。


 立ち上がり、部屋の中をぐるぐる歩き旋回しながら、思考の海に沈んでいる。

 名案を探そうと躍起(やっき)になっていると、視線の端に姿見が見えた。


「―――」


 近づき、鏡に触れる。

 映った、自身の容姿を見て、頭の上に豆電球が光った感覚。

 

 閃いた。


「―――潜入............するか」


 本当なら、ハウメアの自室に転移出来れば、それが一番いいのだが、生憎、転移の能力はここでは使用不可になってしまっている。

 能力を使おうとすると、原因不明の何かで集中力が乱されてしまうのだ。

 そうでなくても、あの能力は一度、行ったことがある所でないと、移動することが出来ない為、どちみち今回の選択肢には入らない。


 となれば、自然と手段は限られる。


 変身した後に、七五三木家に潜入。

 ハウメアの自室に侵入し、潜伏し彼女に密会する。

 

 無論、自分自身に知らない場所に侵入し、極秘に目的を遂行する、工作員のノウハウなんて持ち合わせてない。

 依然、テレビや映画で見て得た知識を武器にやろうものなら、屋敷に一歩も入らずに、捕縛される自信がある。

 だが、忘れないでもらいたいのは、今の僕は常人のそれではない。

 歴戦のスパイに出来ないことをすることが可能で。

 それは、変装(・・)するのではなく、変身(・・)することが出来る。

 

 見た目や性別だけではなく、声すら変えることが出来る自分が能力を行使すれば、万が一でも僕のことを六花エリスだと分からないだろう。


 それに、六花邸と奈鬼羅邸を見た限りだと、家の中には何百人もの人間が詰めている。

 給仕に従者、庭師に、料理人......。外部から行商なんかも出入りするから、成りすまして侵入するのは容易だ。と言うか、そもそも人間だけではなく、動物にすらなれる僕が、門から入る必要はない、小鳥になって何処からともなく怪しまれずに侵入することが可能。

 

 態々、馬鹿正直に人間になって入るのはアホの所業。


 問題は、入り込んだ後のこと。

 家の間取りが分からない為、ハウメアの部屋の場所は不明。

 当て推量で、扉を開いた所が当主の執務室何てことになった暁には、狼狽えて自分から正体をペラペラ話してしまうかもしれない。

 そうならない為にも、確実に彼女の部屋の場所を知らなければ。


 ......いいや。別に部屋の場所を突き止める必要はない、目的はハウメアに会う事だ、となれば、ハウメアが外から出るのを確認してから、彼女を尾行し、近づけばいい。


「あれ、結構余裕なのでは?」


 今思えば、バカみたいな楽観的な計画にこの時の自分を殴りたくなる。






『出てこないんですけど......』


 朝から、七五三木の外壁に鳥になって家の中を監視しているが、一向に姿を現さない。

 

 ダメだ、焦るな。

 

 焦って事を仕損じれば、また面倒くさい事態に陥りかねない。

 時間は有限だが、切羽詰まっているほどことは切迫している訳ではない。

 ゆっくり、ゆとりをもっていこうじゃないか。


『もう直ぐ昼だ。食事をする為に移動するだろう』


 と言っても、外から見える廊下を通らず、家の中を通って移動されたら見つけようもないのだが......。


 場が動いたのは、自分の予想通り、昼食の時だった。

 しかし、それは僕が全く予想していないモノであり、一歩間違えれば、己の正体が露呈してしまう、振り返れば紙一重の綱渡りをやったものだと身震いしてしてしまうだろう。


 太陽が頂点に座す時。

 僕は、何時間もの監視に、集中力が途切れ始めた。そして、そんな自分の下に降り注ぐのは、やや肌に撫でるほどの太陽の温かさと、心地の良い風。

 それだから、意識半分微睡半分の虚ろ虚ろしていて、突然の事に反応が遅れてしまった。


「何者だ―――」


『......ッ!』

 

 壁から家まで数十メートル離れていると言うのに、鼓膜に(つんざ)く、芯を通った逞しい声と同時に刃物が僕に向かって飛んで来た。

 装飾は一切なく、唯、使う(・・)ことに特化したそれは、うとうとしている自分を叩き起こすのに一役買い、己の持つ全能力を駆使し、迫りくる脅威を躱す。


 無理に動いたものだから、バランスを崩し、壁の内側、庭園の中に落ちてしまう。

 落下した先は色とりどりの花畑。

 衝撃で花弁が宙に舞い、ヒラヒラと僕の身体に降りかかる。

 

 近づいてくる足音。


 あの距離から、気配を察知し、認識する前に自身の獲物を投擲する程の手練れだ。

 発見されでもしたら、正体がバレてしまい、下手人として捉えられるかもしれない。


 人だ。それも、比較的警戒され難い子供、少女が望ましい。

 幾ら、猛者集う、七氏族の家といえど、子供、それも幼気な少女を怪しむこそすれ、それを侵入者と断じて切り捨てるほど、人をやめてはいない筈。


 時間がない。

 

 自身の想像の限界を超えるほどの可憐で儚い、幼気さもあり何処か、庇護欲をそそる容姿を思い浮かべ。

 鳥から、少女に身体を変化させる。

 服装は、給仕の者と同じメイド服。

 

 鍛錬を重ねた結果。僕は、己の身体の身ならず、衣服までも生み出すことが可能になったのだ。

 と言うのも、変化する原理を彩華と推測した結果。

 

 身体を一旦魔力に変換し、そこから再度、思い浮かべる身体に変化させているのではないか?


 この世界の魔力は文字通り万能だ。

 あらゆるモノの、万物の元となっている物質のような物で、その魔力を変換する術を『魔法』、『魔術』と呼んだ。

 つまり、魔力に接続し、操ることが出来れば自身が思い浮かべるあらゆることが再現可能で、僕の変化の能力は、限定的な魔法のようなもので、自身の魔力を操作することが出来ると言う訳である。


 そうと分かれば、使い道は広がって行く。


 服装のみならず、金、武器、石、鉄......あらゆる無機物を作り出すことが可能で、生物も時間制限ありでなら生み出すことも出来る。時間制限と言うのは、通常、生物と言うのは己で周囲の魔力を取り込み、自身にあった魔力に変換する能力が備わっている。

 しかし、僕の生み出したモノにはそれは存在せず、手から離したら最後、己の貯蔵する魔力が切れれば消滅してしまうのだ。

 

 時間にして数時間。だが、これも、切り離したモノの行動次第で増減する。例えば、一日中、動かないでいると、二十四時間生きることが出来る。しかし、走ったり、戦ったり、動いていると一時間かもしかしたらもっと短い時間しか生きることが出来ない。


 そんな訳で、研鑽の積み重ねの結果。

 僕は、変化能力、改め創造能力を獲得したのである。


「......ッ!?」


「......」


 男の目に入ったのは少女。

 花畑に足を投げ出すように座り、手を付いて此方を見上げている。

 雪のように白皙(はくせき)で触ったら折れてしまう程、か弱い身体、コバルトブルーの瞳には諦観(ていかん)の色が僅かに顔を出している。

 神話に登場する女神のような、その少女に黒い髪(・・・)の青年は目を見開いていた。


 男は自身の行いに間違いがないか、瞬時に過去を振り返る。


 何時ものように務めを行い、昼時の知らせが聞こえたのを合図に、気晴らしに新鮮な空気でも吸おうと縁側に出た時のこと。

 妙な気配を感じ、咄嗟に袖に忍ばせている暗器を投擲した。生まれた家の関係上、そう言った手合いは日常茶飯とはいわないまでも、定期的に恐れ知らずの痴れ者が自分達を襲いに来る。

 ()と違い、戦の才能に恵まれなかった自分は代わりに天から授かった頭脳を駆使し、力で圧倒するのではなく、絡めてで相手を沈めるすべを学んだ。

 暗器を駆使した予備動作なしの投擲も、そんな頭脳が導き出した手段の一つ。


 手ごたえがない。


 外壁の上から何かが落ちる音がした。故に、外れたということはないだろう。

 しかし、何故か違和感がある。


 幸いにも、落ちた先は整地された庭園、草木の上であれば、土足であっても戦闘するのに支障がない。

 

 一刻も早く、それが何か暴こうと、突き進む。

 その間、新たに取り出した短刀を両手に携え、飛び掛かってきた時に備える。

 辿り着いたそこは、花畑。

 自分自身、花に微塵も興味はないが、これを見て綺麗だと思えないほどさもしい心を持っていない。

 

 問題はそこではない。

 

 花畑に目を向けた視線を戻し、相手が落下した場所に双眸を捉え続けながら、武器を構え進む。

 

「......ッ!?」


「......」


 最初、己の目を疑った。

 何故なら、そこに倒れていたのは暗殺者でも、動物でもなく、少女だったからだ。

 白雪の妖精と言われれば信じてしまう程真っ白な肌。

 藍色の前髪を切りそろえた短い髪。

 凡そ、男として生を受けたのなら少女を見て、情欲が湧かない物はいないだろう。

 それぐらい、女神のような美しい(かんばせ)だ。

 

 見開いた目を戻し、今度は眉をひそめる。

 少女に向けてではない、己の不甲斐なさに向けてだ。

 まさか、この私が、暗殺者と間違えて少女に刃を向けたとは。

 剣も持てない弱者を殺めようとする蛮行。

 忸怩のたる思いで、一度、顔を背け、己の心を落ち着かせ、向き直すと、膝を付き、手を差し伸べ、怯えさせぬように最大限配慮しながら口を開いた。






「私と結婚してくれないか?」


「............は?」


 これが、エリスと、ハウメアの兄、七五三木厳静(げんせい)との邂逅である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 天然のたらしLv999みたいな性能してるな、いいぞもっとやれ それはそうとその形態でイツメンにいじられる姿も見てみたいものだ…… [一言] 良いお年を〜!
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