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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
66/69

入れ替えの決闘

 面白ければブックマークを押してくれると嬉しいです。

 また、誤字脱字があれば報告をお願いします。

「本当に良いのですか?」


「良いよ。何時も二人には世話になってるし」


「そんな―――ありがとうございます。大切に致します」


 食事を楽しんだ後、ネムの服を買いに行き、もう一度、軽く食事をしてから帰路についている最中。


 ネムのお願いは服。

 どんな服が欲しいのかと問うと、気恥ずかしそうに『外に出る時の服を』と答えた。


 最初、給料が出ているのだから、そこから買えばいいのでは? と思ったが、ネムもセイジも分家の末端の出身であり、才能を認められ区画内で従者として働く事を認められたが、家族は今も外で住んでいるらしく、家族への仕送りで殆ど全てを失くなってしまうとのこと。

 それを聞いた時、仕送りしすぎだろうと一瞬思ったが、ネムとセイジの他に六人子供がおり、二人は長男長女、八人目の子供が生まれた時に父親は事故で死んでしまい、それで二人が代わりに金を稼いでいるのだ。

 

 ゆくゆくは全員学び舎に入れたいと言うのだから立派なことだ。

 

 因みに二人は十七歳。

 

 ネムの次にセイジの不完全燃焼を解消にいった。


 セイジの好きな物を聞き出し、御者に伝えると、今度は庶民的な店に辿り着いた。御者も二人も『こんな所に七氏族のご令嬢に食事をさせる訳には』と渋っていたが、二人の手を掴み強引に中へ。

 それから僕とネムは、デザートを。セイジは肉料理のオンパレードを楽しんだ。






「また明日ね」


「はい」


「今日は本当にありがとうございました!」


 息の時より心なしか、表情が柔らかくなった二人と、玄関で別れる。

 迎えにきたハモイに『彩華さまがお呼びです』と入れれ、彩華の部屋に向かう。


「何のようだろう」


「そこまでは」


 彩華の部屋の前に来ると、ハモイが『エリスさまをお連れ致しました』。

 『入ってきなさい』と声が聞こえると、『失礼します』ハモイが扉を開いた。


「―――何か御用ですか? お姉様」


「用と言う程ではないのだけど、一応エリスの耳に入れておいてあげようと思ってね」


 『下がって良いですよ』と言う彩華の表情は、いたって普通、何か重大なことを言うような雰囲気ではなかった。


 だが、しかしハモイが下がるやいなや、表情は一変、深刻な表情で重々しい口を開く。


「―――エリス。ハウメアに、いいえ七五三木家が入れ替えの決闘を挑まれた」


「......え?」


 最初、何を言われているのか分からなかった。

 いいや、言っていることは分かっている。

 言葉も、その意味も。

 しかし、それと彩華の重い表情が結びつかない。

 だが、それも直ぐに明らかになる。


「どうして今この時に......根回しは完璧だった筈なのに」


「根回し? 入れ替え? お姉様何を言って―――」


 椅子から立ち上がり、ソファに座り直すと隣をポンポンと叩き、着席を促す。

 

 それに、時に考えもなく座ると、隣の人にしか聞こえない声で、憚るように説明し始めた。


「入れ替えの決闘は家の格式の順位を変更する為の重大な儀式。もし、負けでもしたら、七五三木の名誉は失墜し、七氏族での立場は大幅に低下するでしょう」


「それは......凄いですね」


「相手は四之宮。序列最下位です。何でこのタイミングで一生に一回しか使えない権利を―――」


 最下位の家が最上位の家に勝負を挑む、聴く限りだと胸が躍る話だが、そう言う訳ではないらしい。

 次に、彩華が放つその言葉に僕は目の前が真っ白になった。


「相手が勝った暁にはハウメアを貰う(・・)と言っているようでね」


「ハウメアを貰う?」


 貰うとは、聞き慣れない言葉だ、凡そ人に対して使うには不自然なその単語が頭の中で吟味し、そしてやはりその言葉の糸が分からず、否、どこかで薄々勘づいているのだが、『絶対に違う』と斬り捨てた。


 小首をかしげ、最後聞き直す。


「今日四之宮から使いが来たの。『一月後、きたる決闘に勝利を収めた後、我、十一代四之宮の当主。四之宮鏡月が次期七五三木家当主、七五三木ハウメアと婚約を結ぶ』と書いていたわ」


 言葉が右から左へ通り抜ける、放心状態でただ一点を見つめ、時間が過ぎていくのを感じている。


 ハウメア......婚姻......知らない人と......。


「エリス? エリス! 聞こえている? エリス」


 扇子で肩を叩かれた瞬間。頭の上を星が回っている状態が解け、『何ですか?』と聞き直した。


「だから、何か心当たりはある? 私はこうならない為、ハウメアが()()()()()()()()、各氏族に牽制を入れ続けていたの。今の当主は殆どが上を目指すことより、今の地位で腰を据える事に重きを置いている『恩恵派』。コントロールするのは容易だった。なのに、突然四之宮が七五三木に勝負を挑んだ。これは、何か裏があるとしか思えない」


 その言葉に対して脳裏を過ぎったのは桜色の髪をした車椅子の少女の姿。

 

 幾らなんでも行動は早すぎじゃないか。

 

「すみません。僕にはちょっと」


「そう.....」

 

 あのことを彩華に話す訳にはいけない。少しでも、計画が露見することはしたくないのだ。


 しかも、まだミリアが差し向けたことだとは限らない。

 下手にこちらが話して、墓穴を掘ったらまさに本末転倒。

 今は、黙っていて。こちらで調べよう。


「ハウメア......」


 顔を落とし、不安が身体を蝕んでいく。

 多種多様な最悪の予想が、頭を過ぎり、自然と身体中の筋肉がこわばる。


「心配?」


「っ!! ......え、ええ。まあ」


 頭がハウメア一色に染まっている所を話しかけられ、思わず狼狽える。

 

 

「先んじて行うべきは情報収集。明日、ハウメアに会いましょう」


「僕も、会いたいです」


「分かりました」


 こうして話が終わり、『おやすみなさい』と挨拶を交わすと、足早に風呂場へ。

 

「今日は一人にして.....」


「「「かしこまりました」」」


 髪の毛と身体を洗い終わったのを見計らって、外に出ているように言う。

 

「ハウメア......」


 想い人の名前を呼びながら、湯船につかり、大事なことではないと己に言い聞かせ、頭を抱えた。

 

 こんな事で狼狽えているようじゃこの先やっていけない。

 心をしっかり保って、悠然と構える。

 もし、ミリアの策略によるものなら、これは言わば脅し『私に逆らうとこうなるぞ』と言う、脅迫行動の一つに過ぎない。

 彩華の言った通り、今はどうしようもない。

 何を始めるにしても明日からだ。


 しかし......。


「心配なんだよなぁ......」


 気の抜けた声でそう言いながら、顔を湯船に沈めていった、


 



 最早、三人の集まる場所になっている、離れ。

 そこに、僕と彩華は縁側に座り、今か遅しと待ち人の来訪を待っている。


「来たわね」


「......ッ!」


 門から、何時ものように活発な様子でバタバタ歩いてくる人影。


「何!?」


 開始早々の挨拶。


「何!? じゃないわよ全く」


「心配したんですから」


 僕達の心配しているのも、気にするようすもなく、ふんす! と腕を組み、立っている。

 彩華と僕、交互に見てから、口をへの字に結ぶと僕達の間に身体をねじ込みドスンと座り込んだ。


「で!」


 何とも尊大な態度だが、今は気にしないでおく。


「貴方、四之宮に決闘を申し込まれたって」


「そうね! でも関係ないわ! 鏡月みたいなナヨナヨ男と私じゃ勝負にならないもの!」


「バカ! 貴方は祝福を使えないでしょう......ッ!」


 周りを見渡し、口元を扇子で隠しながら、焦った面持ちの彩華。

 それとは裏腹に、自身のある顔のハウメア。


「負ければ......ハウメアが」


「ハッ! 祝福何て使えなくても鏡月なんか私の敵じゃないわ」


「......先ほどから鏡月って名前で呼んでますけど、知り合いなんですか?」


「―――なに? エリスは私と鏡月の関係気になるの?」


 僕の問いに、一瞬バツの悪そうな顔をするが、直ぐにニンマリとした笑みを張り付いている。

 そう言う訳で聞いたのではないが、そう正面から言われると気になる。

 

 いや別に、男女の仲が気になるとかじゃないよ? 

 だって、自分で言うのも何だけど、一応ハウメアは僕にメロメロだし......。

 

「べ、別にそう言う意味で!」


「? 何狼狽えているの? エリス」


 不可解な面持ちで小首を傾げる。それに続く様に、ハウメアも疑問を投げかけた。


「ねぇ? 何でそんなに必死になってるのかしら?」


「......ッ!! もう! そう言うのは良いですから、今は四之宮のこと!」


 そうだ、こんな所でイチャイチャしている場合ではない。

 一頻りからかったのを満足したのか、緩めた表情筋を戻し、正面を見ながら、足を組み話始めた。


「七五三木家と四之宮家は元を辿れば兄弟の関係。だから、剣術指南やら色々便宜を図っているの......。だから、子供の時から偶に一緒に遊んだりしてただけ、唯の幼馴染よ」


「だからこそ、不可解なのよ。最下位が最上位に挑むのだっておかしいのに、古来より、縁深い両家の関係に罅を入れるような行為をするなんて」


「鏡月が何を思って七五三木に喧嘩を売って来たのは知らないわ。―――でもね、どんな策を弄していようが、私は勝つ、勝たないといけない理由があるから」


 腰に挿した剣をの柄を撫でると、僕に視線を送って来る。


「勝てるの? 相手の能力も何も知らないでしょうに」


「勝てるに決まってんじゃない。鏡月なんか能力なしでも、楽勝よ。―――それより、おじさまが彩華のこと呼んでたわよ」


「え? 何でしょう。エリス。少し、席を外しますね」


「はい」


 彩華は立ち上がると、本邸の方に行ってしまった。

 それを、見送ったハウメアは、すかさず、僕との間を距離を詰め、二人にしか聞こえない声で、囁くように話し始めた。


「時間がないから簡潔に言うわ。一ヵ月後。決闘の儀が終わった後に、脱出するわよ」


「―――ッ!」


 驚愕する僕を置いてさっさと話を進めていった。


「決闘の儀の後は七氏族が全員揃って『入れ替えの儀式』が行われるの、そこで、正式に家の序列が変わる。だから、氏族が全員集まっているその隙に、逃げる。―――エリスは、先に広場まで行っておいて。後から私も合流する。それから、東の外壁の奴らが開いて置いてくれるからそこから外に出る。エリスが覚えておくことは、広場に待っておくだけ。覚えた」


 やや早口で終わらせ、目線だけこちらに向ける。


 頷くと、満足そうに笑い、右手で僕の顔を固定し、一方的な口づけを交わした。

 そして、さっ、とさっきと同じ距離まで離れた。


 ちょうど、その時、彩華が帰って来る。


「―――何でエリスは顔を赤くしてるの?」


「ッ! す、みません。少し、風邪みたいで」


「それは大変。直ぐに、治療師を呼ぶわね」


「お大事に」


 給仕を呼び、治療師を呼ぶように言いつけると、隣に座り、自身の額と僕の額に合わせる。

 ハウメアはと言うと、先ほどから嗜虐的な笑顔を浮べ、ニヤニヤしながら僕の顔を眺めているのであった。




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