これから
もう絶対予約投稿しないと決めた途端、投稿し忘れていました。
ごめんなさい。
八月。
強い日差しが肌を焼き、茹だるような暑さの季節。
あれから、色々あった。
まずは、自分自身のこと。
パーティーの次の日から、僕は六花の当主の子供。と言う扱いになった。
それに伴い、離れから母屋に、ネムとセイジ、メルビット達はそのまま僕の専属となり、僕は本家の娘となった。
つまり、彩華と奈鬼羅の姉妹だ。
意外なのは彩華が結構喜んでいたこと。
てっきり、さらっと受け流すかと思っていたが、ずっと妹が欲しかったようで、お姉様と呼ぶよう言われ。今まで敬語だったのが、もっと砕けた口調へと変り、色々と気を遣ってくれている。
それと、王族の婚約はシャルルに決まった。
もし仮に、結婚をするとしてあの中の三人から選ばないといけないなら絶対にシャルルを選ぶだろう。
幾ら顔が整っていても、おっさんとキザ男は無理だ。
その点、シャルルは友達として接することが出来るし、何より会話が楽しかった。
そんな理由で良いのか何て思うだろうが、どうせ本当に結婚はしないんだ、適当でいいだろう。ごめんなシャルル。
祝福関係も順調だ。
この五ヵ月の間に、能力の上達の他に、新たな能力も手に入れた。
当初、取り敢えず発現だけさせて、暇を見つけたら練習しようと、一気に倉庫から出そうとした。数は三つ。
ヘズの使っていた火の能力。
物と物の位置を入れ替える能力。
三秒間、時間を遅くする能力。
どうも、能力によって難易度があるらしく、身体の中に入っていかない球体があった。
それと、もう一つ。一気に力を発現させると、相当な魔力が持っていかれる。
身体の中からごっそり何かを抜かれたような感覚で、だるくなった。彩華もとい、お姉様に聞いた所『大きな魔力を短い間隔で消費すると、そういったことがある』とのこと。
最初、魔力を使い切ったのかと思ったが、魔力切れかけるとだるさに加えて、吐き気、眩暈、身体に力が入らなくなるらしい。
一日中、能力の練習をしているが、未だそんな症状になったことがないのは単純に己の魔力総量が多いからだろう。
そうは言っても、倉庫にいくのは程ほどにしておこう。
と言うのも、異常に時間の流れが速く感じるのだ。
自分自身が集中しているからなのだろうが、ほんの一時間程と思って始めたら、目を開けた時にはもう夕方。
途中、メルビット達が話しかけても反応しなかったらしく、これからは能力を手に入れるよりも、能力の練度を上げる方に集中しよう。
時間は限られている中で、一日を消費するのは辛い。
脱出の算段も付けていっている。
大前提として、奈鬼羅がこの国に居ない時を狙う。
祝福の鍛錬すればするほど、奈鬼羅には勝てないことが分からされる。
逆に言えば、奈鬼羅がいなければ簡単に脱出できるだろう。何せ、七氏族の連中は僕のことを『奈鬼羅が何処からか連れて来た奴隷』ぐらいにしか思っていないのだから。
転移の能力でハウメアを連れて脱出しようと思ったのだが、試しに使ってみたらハウメアは転移で出来なかった。つまりは、あの能力は一人用だということだ。
そうなって来ると、徒歩で逃げるしか手段がない。
と言っても、剣気を纏える僕やハウメアなら、車より速度を出せるからそこまで障害ではない。
問題は、逃げる方角。
西か東か。
西ならザギドネルム王国その他の人族の国を通って、大陸を出てミリオット大陸へ。それから大陸を南に下れば、オネアオスキア魔法国。そこに、ある国立シャーリア魔法魔術学園が目的地だ。
そこで、召喚術式を学び、こっちから元の世界に戻る手立てを見つけ出す。
東なら、一旦エイル王国を南にいきファンガブル部族連合国を通り、航路でガルガリア大陸へ。
そこから、テタラ王国の迷宮都市アフニスへ。
迷宮、ダンジョン。
高難易度のダンジョンから取れる魔法道具は極稀に超常的な現象を起こすことが出来ると言う。
それなら、異世界に転移する魔法道具があるかもしれない。
そうでなくとも、ガルガリア大陸は魔大陸と呼ばれる、魔族が多く住む場所だ。
魔族は魔術に長けている種族。人族が知り得ない魔術や秘術が多くあると聞く。もしかしたら、その中に元の世界に戻る手立てがあるかもしれない。
分かっていると思うが、全ては願望。
『かもしれない』と言う希望的観測に過ぎない。ないかもしれないし、あるかもしれない......。
でも、行動を起こさないと何も始まらない以上、何かしないといけない。
一歩でも前に進めば、光が見えなくても何かが掴める......筈だ。
六花邸の離れ。
その縁側に座って本を読む少女。
白いワイシャツに白いロングスカート。
ピンとした姿勢で、ページを捲る姿は形容しがたい蠱惑的魅力を出しており、時折吹く風に横髪を耳にかける姿を見た従者達は、作業そっちのけに彼女の姿に目を離せないでいる。
それが他の人から見た僕の印象。
「......あの」
「何!」
本邸に住居を移してもなお、この離れに居るのはここが居心地がいいからだ。
他人の気配に気を遣わなくて済む。ぶっちゃけ言うと知らない人がいると集中できないのだ。
なのに、六花の娘となってこっち。日に日に、人の目が増えていく気がする。
ハウメアは良い。セイジとネム、メルビット達。まあ、これも良い。四六時中一緒にいるからもう慣れた。
それに彼女達は、僕をそういった目で見ない......ハウメアを除いて。
女性でいる時間が長いからか、下心の含んだ視線が良く分かる。
肌の表面をネットリと這うような感じがして凄く気持ち悪い。
それが嫌だから、離れまで避難していると言うのに......。
「そんなに触らないで下さい」
「いいじゃない! 私達そう言う関係でしょ!」
従者の二人は所用で出かけており、メルビット達はハウメアが払ってしまった。
人目がないのを良い事に、肩が当たるほどくっついてきて、片手で背中を撫で回し、床と僕の間に手を突き入れ尻を触ろうとしてくる。
あれから、ハウメアは変わった。
毎日ここに来ていたのが、週に一日になり。
他人には相変わらずの棘のある態度。しかし、僕の前ではまるで母親に甘える子供のようになる。
それでいて、偶にこういう風にセクハラジジイにもなるから手に負えない。
「言ったでしょう。七氏族の人達に見られればこの関係は終わりだって。もっと、注意を払って「エリス~っ!」......はぁ」
ため息を吐き。立ち上がる。
本邸や庭で仕事をしている者達には見えないように触って来るため、今の所バレてはいない。
だが、こんなことをやっているとどこかでぼろを出すに決まってる。だから、その都度注意しているのだが、当の本人は全然聞いてくれない。
もう、時間が無いと言うのに全く......。
猫撫で声で身体を摺り寄せて来るハウメアを、困り気な顔で天井を見上げるのだった。
エイル軍本部。
第七班研究室。
白を基調とした室内には、整頓された試作魔動機の数々。そのどれもにも、バツ印の札が張られていた。
清潔感のある部屋にテーブルと二つの椅子。
そこに座るのは、白衣を纏った白い髪の丸眼鏡をかけた少女。
もう一方には車椅子に座る桜色の髪の少女。
「ミリア様。どうぞ」
「ありがとう」
同じく白衣を着た女性にカップを受け取ると、微笑を浮べ湯気立つ、蒸気を楽しむ。
「マティルダ助手。私には砂糖と牛乳全部乗せで頼むよ」
「もう! それじゃあ私の淹れたコーヒーの味が台無しじゃないですか!」
丸眼鏡をクイっと直すアウロラに頬を膨らませながらも、盆に乗っているミルクと角砂糖を『自分で入れて下さい!』とアウロラの前に置いた。
「ごゆっくりお寛ぎください」
「ええ。研究者の貴方に給仕の真似事をさせてしまってごめんなさいね」
ミリアの言葉にニコリと笑うと、部屋の奥へと消えて行った。
それを、見送るとカップを傾け、黒色の飲み物を口に含み、独特なその風味と鼻から抜ける匂いを楽しんだ。
「―――今日はどうしてここに?」
「あら? 別に用がなくたって来ても良いじゃない。私達友達でしょ?」
ミリアがカップを揺らしながら香りを楽しんでいるのとは裏腹に、黒から茶に、茶から白に変わるコーヒーをそのままグイっと飲む込んだ。
『せめて入れる前に香りぐらい楽しんだら?』と言うミリアの言葉に、ニコっと笑いそのまま一気にカップを呷った。
「魔動機を見に来たって感じではないし、もし遊びに来たのなら家来を連れてきているだろ?」
「ふふふ。家来何てそんな。あの子達は私の同僚だけど、家来ではないのよ」
「嘘つけ。一から十まで全部やって貰ってるくせに」
アウロラの脳裏に先日のことが思い浮かぶ。
扉の開閉から、荷物の運搬まで、しているミリアの部下。
四人の家来が嬉々として行っているのを見て、『まるでどこそのお姫様みたいだな』何て思ったものだ。
「―――あれはあの子達が勝手にしていること。私がそうするように指示している訳ではないわ」
『それよりも』と言葉を紡ぐ。
「あの子供。六花エリスの情報が欲しくてここに来ました」
「ほう。また何でそんな子の?」
「先の褒賞授与式で彼女の顔を見た時、確かに私は感じました。彼女の思考、その一遍を」
「思考? 君は謁見の間で能力を使ったのか? 非常識だな」
間延びした声でハハハと笑う。
それにつられてミリアも、口元を隠しながら笑った。
「陛下の命令を無視する貴方に言われたくないわ」
「無視したわけではない。あの時は......良い所だったんだ。隊長もそう判断したから許可を出した」
「そうね。アウロラは成果を出してるからね」
「そんな嫌味ったらしく言う物ではないよ。それで、あれの情報が欲しいんだったね?」
「ええ。身長、体重、スリーサイズ。何が好きで何が嫌いか。全てが知りたいの」
あまりの気迫に訝し気な顔で身を引くアウロラ。
アウロラ自身が知っているミリアは、冷静沈着、一を知って百に辿り着く秀才。
そんな、少女が見た事が無いほどの恍惚とした笑みを浮べているのに、不気味な雰囲気を感じ取った。
「まあ、確かに知っているが......彼の担当官は私だし」
「彼? ふ、ふふふ......。そう、彼女ではなく彼なのね」
カップを置き、両手を目の前で組み、アウロラの言葉を反芻するように目を閉じ首を傾けた。
何で知りたい。
何をする気だ。
脳の中で思考を巡らせようとした所で、考えるのを遮るようにミリアが口を開いた。
「興味が湧いた。部外者が七氏族に迎え入れられ、王の娘を救い王族と結婚するまでになったのに何故、あの場面で逃げ出したいなんて強い感情を抱いたのか......。それが知りたい」
「知ってどうする? 言っちゃなんだが、あれにはあまり首を突っ込まない方がいい。何せ奈鬼羅のお気に入り、もし余計な茶々を入れたと知られれば君だってただでは済まないぞ?」
この国の守護者にして破壊者。
力の象徴である奈鬼羅に目を付けられるだけで並みの人間なら夜寝ることも出来ないだろう。
しかし、ミリアはどうだ。
態度を崩すことなく、『構わないわ』の一言ですませてしまった。
「......幾ら君の頼みだと言っても、彼の情報は渡せないよ。バレたら、グングニルの隊員でもどうなるか分かったものじゃないからね」
「あらそう?」
分かっていたような反応。
背中に手を回し、ゴソゴソと何やら漁っていると思ったら、紐でとめられた古臭い羊皮紙を取り出し私に渡してきた。
見覚えのあるそれを開き、中身を見る。
間違いない契約魔法術式陣。
契約魔法術式陣とは。迷宮やダンジョンで発見されることがある二級魔法道具。何か約束事を交わす時に、名前と内容をかき込み、名前の横に魔力を込めた血を染み込ませる。
すると、契約者同士の体内に魔法術式陣が生成され、もし、契約に違反した場合は自動で魔法が発動される。
効果は、四肢に魔紋が浮かび上がり絶えず激痛が走る。
その魔紋は六十六日の間に全身を回り、最後には心臓を止めると言うもの。
絶えた魔法の代物なので解除方法は存在しない。故に強力。
名前の欄にはアウロラとミリアの名前。
アウロラがミリアにある頼み事をした時に交わした契約。
あの時の対価として書いた契約書。ミリアの力を借りる代わりに、一度だけミリアの言う事をきくと言う約束。
その価値はアウロラもミリアも重々承知している。
何せ、契約魔法術式陣下で交わされた約束は絶対なのだ。
ミリアと言う人物は、数々の魔動機を開発し、巨額の富を保有し、エイル国内外から絶大な名声を持っているアウロラに何でも一つ言うことを利かせる事が出来る権利を、一人の少年の情報を得るために使おうとしているのだ。
怪しいを通り越して興味すら湧く。
「......本気かい?」
「ええ。私の約束聞いて下さる?」
「こんなことに使ってもいいのかな?」
「無理を通して貰うにはこれが一番でしょう」
アウロラは考える。
書類をどう持ち出すか、とかではない。ミリアが何故、一目見ただけの少年の情報の為に貴重な命令権を使おうと思ったのか。
聞いたところではぐらかされる。だから聞くことはないだろう。
興味が尽きないな......。
内容を確認し、『ちょっと待っていたまえ』と研究室の奥へ。
数分の後にファイルを手に戻ってきた。
「どうぞ」
「確認しますね―――はい、問題ありません」
欲しい情報は
「それはコピーだから黒塗りはない。必要なくなったら廃棄してくれ。それと、私から貰ったって言うんじゃないぞ?」
『はーい』ほわんとした返事。
同時に役目を果たした契約魔法術式陣は、突然緑色の炎に包まれ燃え尽きてしまった。
最高機密文書を盗んでいる自覚はあるのかと問い詰めた所だが、精神的摩耗により言う気力がなかった。
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(特記事項)
七氏族特別権限第○一〇号により、身柄を即時七氏族生活区画内に移送。
当報告書は特Aクラスの機密書類とし、『王直属部隊指令棟情報保管施設』に保管。
収納を完了次第、全ての研究データを完全に消去。
閲覧者は担当官の他にイングリット・マルヴァレフト。エフエルト・ファン・ハウエリンゲン。以上三名のサインを閲覧許可証に記入し、統括部まで提出するよう。
担当官 技術開発第七班班長 アウロラ・ユーリアス・クヴァシル
検査報告書(極秘)
名前 不明
性別 不明 (元は男性)
年齢 不明 (推定13~15歳)
身長 160㎝
体重 36㎏
魔力値 計測不能
所有能力 光線 塵化障壁 詳細不明の転移能力
概要
王直属部隊第十班奈鬼羅が作戦(作戦番号一五一)行動中に発見、第一班と共に捕縛。
捕縛した場所から(作戦番号三〇六)の目標地点である研究所の被験者である可能性が高い。
研究員がグルヴェイグ検査を実施した所、計測不能の数値を出し、因子検査では112種類の因子を発見。理論上は112種類の能力を有していることになるが、奈鬼羅の報告では前述した三種類の能力しか行使してこなかった為、全ての能力を使える訳ではない可能性がある。
(追記)
先の研究所で諜報活動をしていた第四班の報告によると、祝福者の能力を他者に移す研究に必要な、被験者を入手する為に召喚術式陣を用いて異世界から召喚された人族の少年だと判明。
ただし、少年の詳細な情報は研究所倒壊と共に書類等が紛失した為不明。
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