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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
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褒賞授与式

 面白ければブックマークを押してくれると嬉しいです。

 また、誤字脱字があれば報告をお願いします。

 そこは、鮮麗された空間。

 広大な広さの謁見の間。

 門から玉座に伸びる赤いカーペットを挟み、左右に立っている貴族達。

 玉座の置かれている場所は段差になっており、段の終わりには王を守る様に横に並ぶ人たちが立っていた。

 

 その人たちは、弥乃の着ていたコートを身に着けており、腰には剣を、胸にはバッジを、全部で十二人。

 それぞれ、一人が一歩前に出ているのを見ると、その人物が後ろの三人の長の役割を担っているのが分かる。

 一人は車椅子に座る、僕と同じ背丈の桜色の髪を持つ少女。

 袖やスカートの隙間から見える肌は白く、守るよりも、守られる側の人間ではないかと疑問が浮かぶ。

 

 その左に立っているのは、服の上からでも分かる程の筋骨隆々なスキンヘッドの男。

 日に焼けた浅黒い肌には多数の傷跡が見え、歴戦の戦士を身体で体現している。


 最後に右に立っているのは少女。栗色の髪をハーフアップにし、たれ目のその碧眼は僕達に向いている。

 そして、その後ろには、何処か見覚えのあるプラチナブロンドの少女が眠たげな瞳で正面を向き佇んでいた。


 これが、王直属部隊。

 確か、グングニルとか言ってたか。


 ここで、隣にいる奈鬼羅に聞くわけにもいかないので、ぐっと欲求を抑え、正面を見直す。

 ゆっくりと確かな足取りで、玉座の前まで足を進め。

 左右の貴族達は雰囲気に押されているのか、やや奇異な目で僕を見ていた。

 奈鬼羅が止まるのを見て、その隣に足を止める。


「ニコライ殿」


「奈鬼羅殿。終日の宴以来であるな。息災だったか?」


 これが王様の声。

 重々しく、貫禄のある声音。

 落ち着いた物腰で、ゆっくりと一定の速度で話を進めるその姿は、まさしく上に立つ者のそれだ。


「ええ。色々あったけど、こうして元気に歩いているわ」


 左手を王に見せるように前に出す。

 王妃を含め、王子達の何人かは口に手をあて、驚きの表情を見せているのが見えた。

 王はと言うと、若干顔を顰めている。

 グングニルの面々は表情を崩さず、悠然たる佇まいで正面を見ていた。


「それは誰にやられた?」


十二神王(デュオスデキム)


 瞬間、謁見の間が揺れる。


「何と! あのっ」


「......聞けば奈鬼羅様はここ数ヵ月の間、外界に足を運んでいたとか」


「ではその時に?」


「奈鬼羅様が腕を失う程の相手という事は」


 王が右手を僅かに上げ、場を収めると再び奈鬼羅に目を向けた。


「......それが誰とは聞くまい。奈鬼羅殿が言わないのなら、今はその時ではないのだろう。いずれ、話てくれるだろうか?」


「ええ、時がくれば必ず、ね」


「ならば良し。―――気を取り直して始めるとしよう。今日は我が娘を救ってくれた恩人の為の式だ」


「そうね」


 奈鬼羅がハウメアと僕にそれぞれ視線を飛ばす。


 僕達は奈鬼羅より一歩前に出る、裾を持っていたメイドが横に来て、ベールを上げると、そのまま去って行った。

 僕の顔。と言うより、髪飾りを見たニコライは『なるほど』と呟き、僕達を見下ろしている。

 王子達は各々顔を見合わせ、何やら耳打ちをしている。

 王女は......シャーロットの方は僕に遭えたからか、飛び跳ねたい欲求を抑えていると言った感じ。

 もう一人の王女はシャーロットに何やら聞いたあと、一気に表情が煌びやかになり、まるで、物語に出て来る英雄に出会ったような顔をしている。


「まずは、我が娘。シャーロットを救い出してくれたことを感謝する。ありがとう。―――そして、本来ならば、氏族の人達を見下ろすことは礼をかく行為に当たる。だが、先の娘の件も同様、国内が何かと物騒でな、この者達からこの玉座より先に出る事を禁じられてしまったのだ」


 冗談交じりに話を進めるニコライ。

 その話は、威厳があり重々しい声だが、不思議とすっと耳の中へ入ってきた。


「故に、この状態での会話となってしまう。許して欲しい」


「構いません! 陛下に何かあっては事ですから!」


 猫を被ったハウメアの言葉にニコライは微笑む。


「そうか、では―――」


 右手を動かし、傍に控えさせていた者を呼ぶ。

 手には紙をもち、段差を中段まで登ると、王に一礼し、こちらを向く。

 そして、両手を前に、紙の上と下を持ちバッと開くと大きく息を吸い、口を開いた。


「この度、王位継承権第四位。シャーロット・ミルブリスト・ファーネルゼ・エルシアナ王女殿下が謎の集団により、襲撃、誘拐された際。七五三木ハウメア様、六花エリス様両名により、救い出され事なきを得ました。これらに一連の流れ、ディビット・ハウメリアン・サスナ―ジュ・ニコライ王殿下が感謝の品として、エリス金貨一万枚! また、エリス王家の宝物庫から好きな物を一つ! それぞれに授与致します!」


 瞬間、上座にいる貴族達がドッと湧いた。

 宝物庫という単語に反応したようだ。


 一万......一万!?

 金貨一枚で一万円だから、一億円......。


 金額の多さに固まっていると、ニコライが口を開く。


「受け取ってくれるか?」


「喜んで!」


「......はい」


 それを聞き、頷くと、使いの者を下がらせ、立ち上がると声高らかに声を上げる。


「現在この国は、曇天の下に晒されている! 悪逆非道な者達の手が、国内のみならず、王宮までも届きつつある。どうか皆心して欲しい! 私はそう言った者達には断固たる信念の元、躊躇する事無く正義の剣を振り下ろす! 諸君らもどうか、正義の心でエイル王国の平和の為に、引き続き尽力して欲しい」


 ニコライの言葉に拍手と共に声が上がる。

 鼓膜が震える程の喝采。

 

「ハウメア殿。エリス殿。今晩、ささやかながらパーティーを催す。これは、娘を救ってくれた礼だ。どうか、遠慮せずに来て欲しい」


 奈鬼羅の顔をチラッと見ると、大丈夫そうなので了承した。

 ハウメアも「喜んで行かせて貰うわ!」と若干本性を表しながら答えていた。


 そして、最後に。


「奈鬼羅殿。―――エリス殿はそういう事(・・・・・)で良いのだな?」


「ええ」


「......相分かった」


「これにて式は終了とする!」


 従者がそう言うと、貴族の各々が談笑をしながら、一人また一人と出て行く。

 殆どの貴族たちが、何やら話したそうにこちらを見ているが、まるで猛獣に睨まれたかのような素振りを見せ、諦めてそのまま出て行った。

 雰囲気のせいだろうかと最初思ったが、どうやら違うらしく、ハウメアの眼光がそうさせていたらしい。

 らしいと言うのは、ハウメアと長い時間一緒に居た為か、感覚が鈍っているみたいで、僕自身どうも思わない事でも、相手からすれば殺し屋のような目で威圧されていると感じるらしく、また、後から聞いた話だと、嫌なあだ名を言った貴族がハウメアに殴り飛ばされたようで、その事実も相まって、ハウメアには誰も近寄りたがらないという事だ。


 貴族たちが帰り、ニコライも居なくなると、執事服に身を包んだ初老の男性が近衛兵を二人従え、こちらい近づて来る。

 歩き方から髪型まで、ピシッとしており、どことなく高貴さを感じる人。


「準備が出来ましたので、お二人ともこちらへ」


「? また、どこかに行くのですか?」


「何言ってるの? 王様が言ってたでしょ。宝物庫から好きなの一つ選んでいいって」


「ああ、だから待ってたんですね」


 男が立ち止まり、右手を後ろに左手を胸に充て、一礼する。


「お初にお目にかかります。七五三木様、六花様。今回、宝物庫までご案内させて頂く給仕長のバルド・アークストと申します」


「え、......六花エリスです」


 危ない、名前だけを言う所だった。


「七五三木ハウメアよ!」


「早速ではございますが、宝物庫の方へ案内させて頂きます」


 と奈鬼羅を一瞥。


「もしかして、奈鬼羅様は入れないとか?」


 それを聞いたハウメアは、ニタリと笑うと、嬉々としてバルドに聞く。


「そうよ! 私とエリス、二人だけで行くのよ! そうでしょ?」


「え? ええ。申し訳ありませんが、宝物庫は特別な場所。奈鬼羅様はどうかお待ちになって頂きたいく......」


 奈鬼羅は僕に近づき、腰に手を回すと、首元に顔を寄せ、小さく囁いた。


「仕方がないわね。―――私は先に帰るから、後から馬車で帰ってきなさい」


「はい」


 近いな。


「じゃあ、また、後でね。私のエリス(・・・・・)


 僕から離れると、ハウメアに聞こえるようにそう言い残し、コツコツと足音を鳴らしながら出て行った。

 

 いなくなるまで見送ってから、ホッと息を吐き出し、ハウメアの方を見やる。


「......」


 顔を赤くしながら、手を握り震えている。

 僕には分かる。

 これは、決して一連の流れを見て、恥ずかしがって頬を赤らめている訳ではない。

 奈鬼羅が気に入らないから、怒っているのだ。

 

 その手、その拳を見れば、それは明らかで。ハウメアの拳はもう何時発射されてもおかしくない。

 ズカズカとこちらに歩いてくるのを見て、思わず身構える。

 飛来するハウメアミサイルの攻撃を防ごうと、両腕を顔の前で交差し、防御の態勢をとり、直撃を待つ。


「―――......あのー」


「うるさい」


 だが、飛来したのは拳ではなくハウメア自身だった。

 交差したガシっと腕を掴まれ、防御を解除させられると、そのまま奈鬼羅と同じように腰に手を回し、自身の方へ引き寄せる。

 そして、僕の首元に顔を近づけ、深呼吸をしている。

 匂いを嗅いでる? 犬かこいつは。


 ハウメアの行動に理解できず、固まっていると、何度かスーハ―と言う息遣いが聞こえると、何事もなかったかのように離れ、傍に控えている執事に『案内しなさい!』と臆面もなく言い放った。


 ああでもないこうでもないと、頭の中で何人もの自分が議論しているのを見ていると、バッと手を引かれ、態勢を崩しかける。

 寸での所で踏ん張り、転倒を免れるが、三歩進んだ所で自身の裾を踏んでしまい結局前に大きく、身体が傾いた。


「そのまま、じっとしていなさい! 私が運んであげるわ!」


 手が床につく事はなく、いつの間にか横抱きに抱き上げられ、ハウメアは有無を言わさないと言った感じでそのまま歩き続ける。


 背丈は僕の方が若干負けているが、それでも歳は同じぐらいだろうか。

 ......そう言う事じゃない。恥ずかしい。

 恥ずかし過ぎる。

 バルドに近衛兵、後ろには歩くのを補助してくれたメイド達が付いてきている。

 この年で、人の目のある場所でされるのは流石にきつい。

 だけど、ここで下ろしてくださいと言えば、後々ハウメアに何をされるか分からない。

 

「ハウメアは今年で幾つになるんですか?」


 結局、羞恥に耐え、安全を選んだ僕は、恥ずかしさを紛らわせる為に、話題をふった。


「何よ突然! 今年で成人よ!」


 謁見の間を出て、廊下を左へ。

 そのまま、運ばれていく。


「成人? ってことは二十歳?」


「成人は十五歳よ!」


 『おバカねエリスは』と余計な一言にイラっとしたがまいい。

 十五歳。

 この世界では十五歳なのか。

 結婚とか子供をつくるとか、聴いていたから前の世界よりは成人年齢は低いのかなとは思っていた。やっぱり、低かったな。

 そうか十五歳てことは......あれ? 僕って何歳だったけ?


 自分の事を考えると、途端に靄が頭に掛かる。


「? どうしたのエリス。体調悪いの?」


「―――いいえ。ちょっと緊張してるだけです」


 『そう、ちゃんと捕まってなさい』と首に手を回させられ、更に恥ずかしさを増た。

 羞恥で悶えていると、ふと廊下の外を見る。

 今は渡り廊下を歩いており、外を見ると、そこには中庭が。

 大小様々花々が咲き誇り、等間隔で生えそろった木々は従者によって剪定されているのが見える。


 越してみると、研究所を思い出す。

 食堂からでて、廊下を渡る時のあの中庭。

 子供達が遊んでいるのを横目に、ヘズとアメリアの二人と話し、偶に子供達と遊んであげて、生意気なシグルドにボールをぶつける。

 

 そう言えばヘズが死ぬ間際に言った言葉。

 

『アメリア達をお願いします。あの子達はまだ......』


 あれが、まだアメリア達が生きていると思い込んでの言葉か。

 それとも、何等かの力であそこを脱出し、本当に生きているからヘズはあんなことを言ったのか。

 僕には分からない。

 分かった所でどうすることも出来ない。


 今の自分は、籠の中の鳥だ。

 脱出する目処が立たない以上。考えた所で仕方がない。

 

 気を取り直そうと、自分で歩くとハウメアに言おうとしてその時。


「お姉さま!」


 中庭の方から声が聞こえて来た。

 

 


 


 

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